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Chapter2 経腸栄養
11.経腸栄養時の薬剤投与


昭和医科大学薬学部 臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門・
         社会健康薬学講座社会薬学部門 客員教授                        倉田なおみ

記事公開日 2026年2月19日

はじめに

経腸栄養の患者に薬剤を投与する場合、錠剤はチューブを通過しないから、通常は水剤や散剤を選択する。それらの剤形がない時には、錠剤をつぶして粉状にしたものを水に懸濁させて経管投与することが一般的な方法になっている。
 しかし、錠剤を粉砕したことが原因で命にかかわるような医療事故が繰り返し起こっていることから、安全性情報が2020年、2023年に発出されている1)2)。その事例を見ると、ニフェジピンCR錠をつぶして経鼻胃管から投与し、最高血圧が20分後に60mmHg、別の事例では30分後に80㎜Hg となり、人工呼吸器やカテコラミンを使用した事例、オキシコドン塩酸塩水和物錠をつぶして腸瘻から投与し、一時的に意識レベルと呼吸状況が悪化した事例などが報告されている。このように錠剤を粉砕したことが原因で重篤な状態に陥ることもあるため、安易に錠剤を粉砕することは避け、粉砕する前に必ず薬剤師に粉砕の可否を確認することが重要になる。
 ここでは、錠剤を粉砕した時に発生する問題点を解説し、さらに錠剤を粉砕しないで経管投与可能な「簡易懸濁法」について説明する。
 “錠剤が飲めなければつぶせば良い”という根付いた文化を全医療者が改め、安全に薬剤の投与ができるようになることを期待する。

■錠剤粉砕の問題点

1.錠剤の種類と粉砕時の問題点
錠剤はどれも同じような粒に見えるが、錠剤には 図1に示すような種類がある3)。薬剤の成分は耐え難い苦味やにおい、刺激があるものも多く、それらを隠すために成分が入った錠剤の周りを白糖やフィルムで巻いている糖衣錠やフィルムコート錠がある。これらの錠剤をつぶしてしまうと隠した味やにおい・刺激がもろに露出するから、これを食事に混ぜて食べさせられた患者が拒食に陥ることもある。“ミルク嫌いになるから乳児のミルクに薬剤は混ぜない”は今や常識となっているが、同様に成人であっても食事に薬剤を混ぜることは避けるべき行為である。バランスを考え、おいしく調理された食事も台無しになってしまう。

図1 錠剤の種類
図1 錠剤の種類

また同じ成分の錠剤でも、1日3回服用しなくても1日1回だけ飲めばよい徐放性の錠剤がある。徐放性錠剤にするには特殊な技術を駆使して多層錠や内核錠などにし、各錠剤が消化管内の適した場所でゆっくりと成分が溶出して効果が持続するように製造されている(図2)。そのためこのような錠剤を粉砕すると、成分が一気に放出して血中濃度が高くなり、効果が強く出たり、副作用を起こすことがあるから大変危険な行為である。錠剤は単なる粒ではなく言わば“芸術品”のようなものであり、薬剤師の判断なしに錠剤を粉砕する(芸術品を壊すような)ことは避けるべきである。
多職種が力を合わせ、安易な錠剤粉砕や食事に薬剤を混ぜる習慣がなくなることを期待する。

図2 各種経口投与製剤の消化管内における製剤崩壊・薬物放出(溶出)部位
図2 各種経口投与製剤の消化管内における製剤崩壊・薬物放出(溶出)部位

2.粉砕した薬剤を経管投与する際に起こる問題点
薬剤が疎水性であったり粒が大きかったりすると、注入器に吸い取れなかったり、吸い取っても注入器から出ないで全量が投与できないため、必要な薬物治療が実施できない。また残っている薬剤を注入するのに多量の水が必要になり、水分制限のある患者では大きな問題となる。さらに注入した薬剤がチューブを閉塞することがあり、その発生率は6~38%4)5)と高く、患者のQOLが低下する。

3.錠剤を粉砕調剤する時に起こる問題点
-粉砕法と簡易懸濁法との比較―
薬剤師が錠剤を粉砕して調剤するときにも多くの問題が発生している。表1には調剤時に起こる問題点を、錠剤を粉砕して調剤する場合(粉砕法)と簡易懸濁法(後述)で投与する場合を比較して一覧にまとめた。簡易懸濁法を実施することによって、粉砕法では調剤時問題“あり”の項目が多いが、簡易懸濁法では多くの項目で“なし”になり、簡易懸濁法の実施によって調剤時の問題が解決され、医薬品の安定性や効果を損なわずに投与できることが分かる。

表1 粉砕調剤時の問題点に対する粉砕法と簡易懸濁法との比較(拡大)
表1 粉砕調剤時の問題点に対する粉砕法と簡易懸濁法との比較

* 1:インタビューフォーム調査により,可能性のある薬品を除外することで回避可能  * 2:経口投与でないため影響はない
                                                  文献8) p.14より引用

4.粉砕して投与日数期間保存した時に生じる薬剤の配合変化について
錠剤を粉砕して混合した状態で保存した際の薬剤の含有量低下に関する例を以下に示す。同じような機序により含有量が低下する薬剤の組み合わせはたくさんあり、他の薬剤でも粉砕によって薬効が低減している可能性は少なくない。服用薬の組み合わせは無限大であり、1薬品ごとに配合変化のデータを出すことは不可能であるから、できるだけ薬剤を粉砕・混合して保管することは避けるべきことである。
①レボドパと酸化マグネシウムの配合変化(in vitro 評価)6)
レボドパ配合錠と酸化マグネシウム錠を粉砕・混合して4週間保存した際のレボドパとベンセラジド塩酸塩の含量を図3に示す。レボドパの含量は酸化マグネシウムの有無にかかわらず4週間後も変わらないが、配合薬のベンセラジド塩酸塩の含量は1週間で約50%、4週間後には10%にまで低下する。ベンセラジド塩酸塩は脳内へのレボドパ移行量を高めるため、その含量低下は脳内ドパミン量を減少させるからレボドパの効果が得られなくなる。

図3 レボドパ配合錠と酸化マグネシウム錠との配合変化
図3 レボドパ配合錠と酸化マグネシウム錠との配合変化

②テモカプリルと酸化マグネシウムの配合変化(in vivo 評価)7)
持続性ACE阻害薬であるテモカプリル塩酸塩は、吸収された後に肝臓で代謝されて活性体であるテモカプリラートとなり薬効を発揮する(図4)。活性体のテモカプリラートを投与しても体内に吸収されないためである(このような薬剤をプロドラッグという)。

図4 テモカプリル と酸化マグネシウム の配合変化
図4 テモカプリル と酸化マグネシウム の配合変化

ところが、テモカプリル塩酸塩錠と塩基性薬物である酸化マグネシウム錠を粉砕して混合して保存しておくとテモカプリルが加水分解を受け、吸収する前にテモカプリラートに変化してしまうため、吸収されなくなる可能性が考えられる。そこで両薬剤を⓵錠剤のまま、②簡易懸濁、③粉砕・混合したものを実際に健康成人6名に服用させ、その血中濃度を測定して比較する臨床研究を実施した(図5)。

図5 薬の保管状況と投与方法
図5 薬の保管状況と投与方法

錠剤のまま両薬剤を服用した時や簡易懸濁法で投与した場合に比べ、両薬剤を粉砕・混合して29日保管したものを服用した場合の方がテモカプリラートの血中濃度は低く、約半分であった(図6)。 テモカプリル塩酸塩に限らず、同じようなプロドラッグの製品はたくさんあるため注意する必要がある。

図6 テモカプリラート平均血中濃度
図6 テモカプリラート平均血中濃度

錠剤をつぶさない経管投薬法-簡易懸濁法-

1.簡易懸濁法とは
簡易懸濁法とは、錠剤を潰したりカプセルを開封したりせずに、投与時に錠剤やカプセル剤をそのまま約55℃のお湯20mLに入れて最長10分間放置し、撹拌してお湯で崩壊・懸濁した錠剤を経管投与する方法である8)。 特殊な錠剤を除き、錠剤は服用すると消化液が錠剤内に浸透して崩壊剤が膨潤し、錠剤の形が壊れるように設計されている。簡易懸濁法は投与前に錠剤をお湯に入れてその状態にして投与する方法である。

2.臨床での簡易懸濁法を用いた投薬法図7
1回に服用する薬剤全部を注入器に入れ、約55℃のお湯20mLを加えてそのまま放置する(最長10分)。錠剤が崩壊、懸濁したのを確認してよく撹拌し、経管栄養チューブに接続して投与する。10分間放置しても崩壊しない錠剤は、表面に軽く亀裂を入れてからお湯に入れる。注入後は適量の水でフラッシュする(洗い流す)。薬剤を直接注入器に入れなくもカップや湯飲みで懸濁させてから注入器に吸い取ってもよい。

図7 臨床での簡易懸濁法の投与手順
図7 臨床での簡易懸濁法の投与手順

3.錠剤に亀裂を入れる理由と方法
亀裂から錠剤内にお湯が入れば錠剤は崩壊して懸濁液になるから、つぶすのではなく表面に少し亀裂が入ればよい。錠剤に亀裂を入れる方法はいくつかある。専用の器具である「らくラッシュ」を開発した(写真1)。錠剤シートあるいは1回量包装した分包紙の上から乳棒のようなもので軽く叩いても良い。ペンチを使う方法もあるが、挟む部分のギザギザで錠剤シートや分包紙が破れることがあるのでこの部分にガムテープなどを巻いておくとよい。また大きなスプーンの下に錠剤を置き、スプーンの上から両手の親指でグッと押せば錠剤に亀裂を入れることができる。

写真1
写真1

4.お湯の温度を約55℃にする理由
カプセルを完全に溶かすためには,37℃を10分間保持する必要があるが、臨床の場で同じ温度を保つことは難しい。そこで室温24℃で10分間置いておいた時に37℃以下にならない最初の温度を検討し、55℃とした。しかし、カプセル剤はお湯に入れれば一部が溶けてすぐに薬剤は懸濁するので、10分間待つ必要はない。

5.約55℃のお湯の簡単なつくり方・・・
魔法瓶の湯:水道水が約2:1になるように入れると約55℃となる(環境により変わるので、季節・地域により確認が必要)。一般的にナースステーションなどで一番熱い水を出すと55℃近くになる。また、60℃設定の電気ケトルを使用すると、作業中に自然に温度が下がりちょうどよい温度になる。 厳密に55℃である必要は全くなく、おおよそで構わない。温度が低いと錠剤が崩壊しにくくなり、温度が高いと消化管やけどの危険性が高まるし、安定性に問題が生じる薬剤もあるので注意する。

6.お湯を吸った後、最長10分待つ理由
 前述したように簡易懸濁法は錠剤をお湯に入れて、服用前に錠剤を消化管内で壊れた状態にして経管投与する方法であるから、崩壊剤が膨れて錠剤が崩壊するまでの時間が必要であり、その時間を最長10分間とした。そのため錠剤が崩壊すれば、10分間待つ必要はない。ベッドサイドで10分間待つのは現実的ではないから、ナースステーションでお湯を入れるなど少し手順を変更すると待ち時間が気にならなくなる。亀裂を入れても10分間で崩壊しない錠剤は、臨床の手間を考え簡易懸濁法は不適とした。

7. 55℃での薬剤の安定性
55℃のお湯に入れて2時間自然放置後に測定した各薬剤の含量を表2に示す。何れも経管投与で良く使用される薬剤であるが、2時間放置した後の主薬の含量は何れも100%に近く安定性に問題はないことが示された9)。各薬剤の融点はかなり高く、55℃のお湯に入れても問題がないことが想像できる。

表2 55℃のお湯に入れて2時間自然放置した際の薬剤の安定性
表2 55℃のお湯に入れて2時間自然放置した際の薬剤の安定性

医療薬学会 第32巻 第11号 p.1094-1099(2006)

内服薬経管投与ハンドブック8)では、インタビューフォームの調査により55℃で安定性に問題がある薬剤(シクロホスファミド、カリジノゲナーゼなど)は簡易懸濁法不適とした。一方、メナテトレノン、ユビデカレノン、ニコチン酸トコフェロールなどは融点が55℃以下の薬剤であるが、温度、湿度に対しては安定であるから問題はない。しかし、融点以上の温度で油状になるメナテトレノンやニコチン酸トコフェロールなどは55℃では成分が油状となって水の表面に浮くから、投与後十分にフラッシュする必要がある。フラッシュしても100%の薬剤が投与できていない可能性が高いことも考慮しておく必要がある。

8.簡易懸濁法のメリット表3
 簡易懸濁法は、粉砕法で生じる安定性・吸収の変化、チューブ閉塞、投与量のロス等の問題を解決し、調剤時間・調剤過誤を減らし、さらに中止変更時の経済ロスの削減、投与直前の薬剤品確認を可能とし、投与可能薬剤品数も粉砕法より多くなり治療の幅を広げることができるなど多くのメリットがある。

表3 簡易懸濁法のメリット
表3 簡易懸濁法のメリット

9.注入器以外の経管投与用機器
 簡易懸濁法の普及により、注入器以外の経管投与用の器具が開発され販売されている。注射用シリンジに似ている注入器を使用することに抵抗がある場合や抗がん薬剤の投与などで再利用ができないようにする必要がある場合などに有用なものもある。
①けんだくボトル図8
注入器の代わりになるもので、けんだくボトルに薬剤とお湯を入れて懸濁させ、直接チューブに接続して薬剤が注入できる。薬剤を注入する際、けんだくボトルを握りつぶすのに少し握力が必要になる。また注入後、握りつぶしたけんだくボトルから力を抜くと、胃内容物がけんだくボトル内に逆流する可能性があるから、チューブをロックして(折り曲げて)からけんだくボトルを取り外す。

図8 けんだくボトル

                     ㈱シンリョウ HPより

図8 けんだくボトル

②クイックバッグ図9
クイックバッグに薬剤とお湯を入れて懸濁させる。バッグが柔らかくバッグ内の錠剤を外から指でつぶすことができるため懸濁時間を短くすることができる。バッグが再利用できない構造であるため、抗がん薬などケミカルハザードのある薬剤の投与に適した器具である。

図9 クイックバッグ
図9 クイックバッグ

③ジーオーバッグ図10
薬剤とお湯約 20mL(△単回使用▽の印刷部分までが目安)を入れてジップロックを閉じて懸濁させる。錠剤を外から指で押してつぶすことができるため懸濁時間を短くすることができる。成形栓を指でポキッと折曲げて開栓して投与する。バッグが再利用できないため、抗がん薬などケミカルハザードのある薬剤の投与に適した器具である。

図10 ジーオーバッグ
図10 ジーオーバッグ

④けんだくんⅡ
薬剤を懸濁させ、こぼすことなく注入器に吸い取れる器具である(図11)。薬剤を懸濁させる湯のみや小カップの代わりになるもので、蓋があるため確実に撹拌ができ、崩壊中の異物混入等も防止できる。

図11 けんだくんⅡ

       エムアイケミカル㈱ HPより

図11 けんだくんⅡ

文献

  1. 日本医療評価機構 医療安全情報 No.158 2020年1月
  2. 医薬品医療機器総合機構 医療安全情報 No.65 2023年3月
  3. 第十八改訂日本薬局方,厚生労働省告示第220号,p.10 製剤総則、2021
  4. Hofstetter. J, Allen LV Jr.:Causes of non-medication-induced nasogastric tube occlusion, Am J Hosp Pharm,49:603-607,1992
  5. Nicholson LJ:Declogging Small-Bore Feeding Tubes,JPEN,11(6):594, 1987
  6. 石田志朗:内服薬の粉砕調剤における配合変化 調剤と情報 p.1230 2024
  7. 町野英弥、倉田なおみ他:簡易懸濁法および粉砕法が薬物動態に及ぼす影響~テモカプリルと酸化マグネシウム併用において~ 日本医療薬学会会誌 Vol.47 No.11 p599-608(2021)
  8. 倉田なおみ編集、藤島一郎 監修:内服薬剤経管投与ハンドブック第5版-簡易懸濁法可能薬剤一覧-、p.6 じほう 2026
  9. 矢野勝子、倉田なおみ他:簡易懸濁法による薬剤経管投与時の主薬の安定性の検討 日本医療薬学会会誌 Vol.32 No.11 p.1094-1099 (2006)

関連ページリンク

簡易懸濁法用容器、注入器製品一覧

簡易懸濁法による投薬の工夫

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