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Chapter2 経腸栄養
4.経腸栄養に用いられる製剤および食品
 4.7 脂肪酸
  ①脂肪酸とその分類


田無病院院長 丸山道生

丸山道生
記事公開日 2016年6月6日
2024年4月1日版

1.油脂の構造

油脂は、グリセロールに3つの脂肪酸が結合したものをいう(図1)。常温で油は液体の脂肪を、脂は固体の脂肪を意味する。油脂は、別名、中性脂肪であり、トリアシルグリセロールもしくはトリグリセリドと呼ばれる。一般的に、脂肪というとこの油脂をさす。

このトリアシルグリセロールは、消化の過程で、1と3の位置の脂肪酸が取れたモノグリセリドと脂肪酸に加水分解され、腸から吸収される。体内では脂肪酸はβ酸化代謝によりさらにアセチルCoAに分解され、エネルギーとなる。 トリアシルグリセロールが脂肪としての性質を示すのは構成している脂肪酸によるもので、その融点は構成する脂肪酸の鎖長と飽和度が増すほど高くなる。

図1 栄養管理のルートの選択
図1 油脂(トリアシルグリセロール)の構造

2.脂肪酸の分類法

脂肪酸は主に炭素数および不飽和結合の数によって分類される。また、不飽和脂肪酸の二重結合の幾何学的配置により幾何異性体のシス型、トランス型に分類される。

3.炭素数による分類

脂肪酸は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3種類の原子で構成され、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついている。脂肪酸には、炭素の数や炭素と炭素のつながり方などの違いにより、様々な種類がある。生体に存在する脂肪酸の炭素数は偶数である。脂肪酸は炭素数が2つのアセチルCoAから合成されるからである。 脂肪酸の炭素数が6以下のものを短鎖脂肪酸(SCFA、Short-chain fatty acid)、8–10のものを中鎖脂肪酸(MCFA、Medium-chain fatty acid)、12以上のものを長鎖脂肪酸(LCFA、Long-chain fatty acid)という(表1)。欧米では炭素数8から12を中鎖脂肪酸とする場合もあるが、本邦では、その吸収経路から、8と10のみと定義されることが多い。

表1 脂肪酸の名称と種類
表1 脂肪酸の名称と種類(拡大)

4.飽和度による分類法

二重結合の有無とその数が、飽和度の分類の基準となる。
飽和脂肪酸 (saturated fatty acid, SFA) は炭素鎖に単結合のみで、二重結合が存在しない。一方、不飽和脂肪酸 (unsaturated fatty acid, UFA) は炭素鎖に二重結合や三重結合を有する(表1、表2)。

さらに、不飽和脂肪酸は二重結合の数が1つであるか、複数であるかによって、二重結合の数が1つである一価不飽和脂肪酸、monounsaturated fatty acid, MUFA)と、二重結合の数が2つ以上である多価不飽和脂肪酸、polyunsaturated fatty acid, PUFA)に分類される(表1、表2)。

不飽和脂肪酸は、カルボキシル基の反対側の炭素から数えた二重結合の位置によっても分類される。ω3もしくはn-3はカルボキシル基の反対側の炭素から数えて3番目に二重結合をもつことを表す。

飽和脂肪酸には、パルミチン酸、ステアリン酸などがある。また一価不飽和脂肪酸には、ω9もしくはn-9系のオレイン酸が、多価不飽和脂肪酸には、ω3もしくはn-3系のα-リノレン酸や、ω6もしくはn-6系のリノール酸などがある(表2)。リノール酸もα-リノレン酸もどちらも体内で合成することができない。このためω3(n-3)とω6(n-6)はとともに必須脂肪酸となっている。

表2 脂肪酸の名称と構造
表2 脂肪酸の名称と構造(拡大)

5.幾何異性体による分類

不飽和脂肪酸の二重結合の幾何学的配置により幾何異性体のシス型、トランス型に分類される(図2)。植物や魚油などからとれる天然の不飽和脂肪酸の二重結合は、ほとんどすべてがシス型で、トランス型を含むトランス脂肪酸は、天然の油にはほとんどない。不飽和脂肪酸は酸化による劣化が起こりやすい。酸化による劣化が起こりにくい飽和脂肪酸に変化させるために水素を添加させると、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸のシス型結合がトランス型に変化してしまう。脂肪酸の立体的構造では、シス型二重結合の位置で脂肪酸は屈曲しているが、トランス型になると直線化する(図2)。トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸を多く含む油脂を水素化して製造するマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどに含まれる。トランス脂肪酸は多量に摂取するとLDLコレステロールを増加させ心臓疾患のリスクを高めると考えられ、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えている。しかし、日本は欧米と違い規制が行われていない。

図2 18:1 脂肪酸の構造幾何異性体シスとトランス
図2 18:1 脂肪酸の構造幾何異性体シスとトランス

6.脂肪酸の名称と表記

脂肪酸の名称にはIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)命名法による系統的名称と慣用名がある(表1、表2)。
 系統的名称は、炭素数と二重結合数に基づき、系統名の前にカルボキシル基側から数えた二重結合の位置を数字で付すという命名方法をとっている。一方で慣用名は広く一般的に使用されている。また、略式表記として数値表現方法があり「炭素数:二重結合の数」で表現される(図3)。この数値表現の後にn-3, n-6, n-9などを付したり、二重結合の位置を数値もしくはΔで記載することもある。

図3 脂肪酸の数値表現方法
図3 脂肪酸の数値表現方法

7.植物性油とヒトの皮下脂肪の脂肪酸構成

植物の種子や果実からとった植物油の脂肪酸組成は、その種類により違いがある。代表的な植物油の脂肪酸組成を表に挙げる(表3)。 動物性脂肪の脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸、飽和脂肪酸のパルミチン酸が多く含まれている(表4)。ヒトの脂肪組織の脂肪酸組成は、1960年代にすでにいくつか報告を見る。割合としては、牛や豚と同様に一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が最も多く、40%から50%程度、ついで飽和脂肪酸のパルミチン酸が25%から35%程度、その次は多価不飽和脂肪酸のリノール酸で6%から15%程度となっている(表4)。日本人を他の人種と比較してみると、白人に比べ、オレイン酸が低く、リノール酸が多い傾向がと考えられている。人種による脂肪酸組成の差は、食事の影響がある。西洋人には肉やオリーブオイルに多く含まれるオレイン酸が多く、それが日本人には少ない傾向がある。また、日本人は植物性油を多くとっているのでリノール酸が脂肪組織に高いのかもしれない。

表3 代表的な植物油の脂肪酸組成の比較
表3 代表的な植物油の脂肪酸組成の比較(拡大)
表4 動物脂肪の脂肪酸組成の比較
表4 動物脂肪の脂肪酸組成の比較(拡大)

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