- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- 1.末梢静脈栄養法(PPN)
- 1.1 PPNの特徴と適応
- 1.2 PPN製剤の種類と適応
- 1.3 PPNカテーテルの種類
- 1.4 PPNカテーテルの留置と管理
- 2.中心静脈栄養法(TPN)
- 2.1 TPNの特徴と適応
- 2.2 CVカテーテルの種類
- 2.3 CVカテーテル留置法
- 2.4 皮下埋め込み式CVポートと
その留置法 - 2.5 PICCとその留置法
- 2.6 エコーガイド下での
CVカテーテル留置法 - 2.7 TPN時の使用機材
- 2.8 TPN基本液とキット製剤の種類と特徴
- 2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴
- 2.10 脂肪乳剤の種類と特徴
- 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴
- 2.12 微量元素製剤の種類と特徴
- 2.13 TPNの実際の投与方法と管理
- 2.14 TPNの合併症
- 2.15 特殊病態下のTPN
- 2.16 小児のTPN
- 2.17 TPN輸液の調製方法
- 2.18 HPN(在宅経静脈栄養)
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
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1.はじめに
水・電解質輸液の投与目的は、脱水の補正、血管内容量の充填、電解質異常の補正、循環血液量の維持、血漿浸透圧の維持や軽度のアシドーシスの是正など、体液恒常性の維持である。ここでは、臨床現場で最も使用されている水・電解質輸液(別名;クリスタロイド、あるいは晶質液)と、各種電解質を補正するための電解質製剤について解説する。さらに、循環血漿量を増加させるために使用される膠質輸液(別名;コロイド)についても追記する。
2.輸液の移動を理解するための3つの法則
水・電解質輸液輸液を理解するために、輸液の成分である自由水(水)、電解質、膠質が血管内から移動する際の、3つの法則について解説する(図1) 。また、ここで言う自由水とは、水以外の成分が含まれていない水(free water)のことを指す。
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法則1 血管壁を通過できるのは自由水と電解質のみ
● アルブミンやデンプンのような分子量の大きな物質は、血管壁を通過できない。分子量の小さな電解質と自由水は、血管壁を通過できる。従って、血管内に投与された輸液の成分のうち、電解質と自由水は組織間液に移動する。
法則2 細胞膜を通過できるのは水(自由水)のみ
● 組織間液に移動した自由水が細胞膜を通過できるのに対して、電解質は細胞膜を通過できない。電解質が細胞膜を通過するためには、ナトリウム(Na)・カリウム(K)チャネルなどのチャネル(イオン交換)による輸送機構が必要となる。従って、血管内に投与された輸液の成分のうち、細胞膜を通過して細胞内まで到達できるのは自由水のみである。
法則3 膠質は血管壁を通過できず血管内にとどまるため、自由水を血管内に維持
●膠質(コロイド)は血管内にとどまるため、血管内の浸透圧が高くなり、自由水を血管内に引きとめる。この作用が、膠質の持つ血漿増量作用である。
3.水・電解質輸液の分類と投与ターゲットとなる体液分画
水・電解質輸液(別名;クリスタロイド、あるいは晶質液)は、一般的には表1に示したように、細胞外液補充液(別名;等張電解質輸液)と細胞内液補充液(別名;低張電解質輸液)の2種類に分類される。細胞外液補充液は、中和剤の有無と種類によって、数種類に分類される。また、細胞内液補充液は、ナトリウムイオン濃度の違いによって、1号液~4号液の4種類に分類される。各輸液の投与ターゲットとなる体液分画を図2に示す。また、体液分画における細胞外液および細胞内液の成分組成を表2に示す。
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4.細胞外液補充液
細胞外液補充液は、臨床現場で最も使用頻度の高い輸液であり、その種類も多岐に渡る。細胞外液を投与ターゲットとしており(図2)、その成分組成は、細胞外液の成分組成(表2)に近似している。細胞外液補充液の元祖である生理食塩液から、現在の細胞外液補充液へと進化した過程を知ることで、各種細胞外液補充液の成分組成の違いが理解できる。各種細胞外液補充液の成分組成表を表3に示したので、組成を確認しながら解説を進める。
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1) 生理食塩液
生理食塩液は、0.9%の食塩液で、その電解質組成および浸透圧が細胞外液に近いことから、生理的という名称がつけられている(表3)。しかし、生理食塩液は細胞外液の組成成分に比べると、ナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl-)以外の電解質や中和剤が欠けている。生理食塩液にはヒト血漿の1.5倍の塩素イオンが含まれているため、数時間の輸液をしただけでも高クロール性アシドーシスの危険性がある。アシドーシスの進行は、心収縮力低下、不整脈、肺高血圧症、腎血管および内臓血管の収縮、凝固能異常などをきたす恐れがある 1)。現在では、生理食塩液を輸液として使用することはなく、薬剤の溶媒(carrier water)や血管路の維持として臨床使用されている。生理食塩液は、組織の洗浄液や保存液としても適しており、輸液以外の用途でも頻用されている。後述する低張電解質輸液である細胞内液補充液が無い時代には、生理食塩液を5%糖液で半分に希釈し、半生食として使用していた。なお、各種輸液製剤の浸透圧比は、生理食塩液が基準で1.0となっている。
2)リンゲル液
その後、生理食塩液よりも、より細胞外液補充液の電解質組成に近づける工夫が進んだ。生理学者であったシドニー・リンゲルは、Na+とCl-だけではなく、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)を加えることで、マウスから取り出した心臓が、生理食塩液の場合よりも検査装置の中でよく動くことを証明した。このことから、生理食塩液にK+、Ca2+、Mg2+を加えた輸液は、シドニー・リンゲルの名称を付けたリンゲル液と命名された。リンゲル液は、細胞外液補充液として臨床現場でも普及したが、中和剤※が含有されていないという欠点が残っていた(表3)。また、リンゲル液も、生理食塩液の弊害であった高ナトリウム血症や高クロール血症を起こすリスクを有していた。
※ 輸液製剤に含まれる中和剤とは
わが国で発売されている生理食塩液、リンゲル液を除く輸液製剤には、中和剤が含まれている。その理由は、栄養素からエネルギーを得る代謝過程で生じた酸を、生体内で中和する必要があるためである。ブドウ糖(C6H12O6)を例に、代謝過程を見てみると、代謝水(H2O)とともに酸性物質(CO2)が産生されるのがわかる。
わが国で発売されている輸液製剤で使用される中和剤(分子式、英語読み名)には、乳酸イオン(Lac -、ラクテート)、酢酸イオン(Ace -、アセテート)、重炭酸イオン(HCO 3-, バイカルボネート)、クエン酸イオン(Cit 3- 、シトレート)などがある。輸液製剤の製品名の一部に、中和剤の英語名が使われている場合がある。
表4に、中和剤の英語名を利用して命名された輸液製剤の例を示す。
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3)乳酸リンゲル液(ハルトマン液)
リンゲル液の欠点である、中和剤の欠如とナトリウム・塩素イオン含有量が多いことを解決した輸液が、乳酸リンゲル液である。1930年、アレクシス・フランク・ハルトマンは、中和剤として乳酸(ラクテート)イオンを加えることで、酸を中和するだけではなく、塩素イオンおよびナトリウムイオンの含有量を減らせる乳酸リンゲル液(別名 ハルトマン輸液)を開発した 2)(表3)。乳酸リンゲル液の登場で、生理食塩液やリンゲル液の大量投与の弊害であった高ナトリウム血症、高クロール血症の発生も減弱した。乳酸リンゲル液の塩素濃度は109 mEq/Lでヒト血漿に近く、浸透圧は278 mOsm/L である。乳酸リンゲル輸液は、世界保健機関(WHO)でも、重度の下痢性脱水症を補正するのに適した非常にバランスの取れた晶質液であるとされてきた 4)現在でもわが国の臨床現場で汎用されており、表3に示したように、5%程度の糖質を添加して、エネルギー投与も可能な製剤も市販されている。
一方、使用上の注意点として、乳酸リンゲル液にはカルシウムが1.5 mEq/L 含有されているため、クエン酸を添加している血液製剤と混合すると凝血塊が生じ、リン酸イオンおよび炭酸イオンを含む製剤と混合すると沈殿が生じる。また、乳酸リンゲル液はカリウム含有量が4 mEq/L であるため、高カリウム血症の危険性がある患者には慎重に使用する。そして、乳酸リンゲル液には、生理学的乳酸イオン(0.5-1 mEq/L) よりも高濃度の28 mEq/Lもの乳酸イオンが含まれていることから、大量投与による高乳酸血症は、肝不全患者において罹患率と死亡率を高める危険性がある3) 。
いくつかのレビューでも、肝臓を介した代謝や有酸素需要の増加など、乳酸リンゲル輸液の使用に疑問が投げかけられている 5)。これらの問題点は、乳酸リンゲル輸液で使われている中和剤の乳酸イオンが、その代謝のほとんどが肝臓で行われることにある。
4)酢酸リンゲル液
現在では、アニオンである乳酸イオンを肝臓以外の組織でも代謝が可能な酢酸イオンに置き換えた、酢酸リンゲル液が臨床活用されるようになった(表3)。酢酸イオンは、肝臓・腎臓に加え、体全体の筋肉でも代謝を受けて重炭酸イオンとしてアシドーシスを改善させる。乳酸イオンに比べて、高乳酸血症の危険性や代謝過程における肝臓への負担が少なく、有酸素需要も低い 6)。肝不全やショックなどの乳酸が蓄積しやすいような病態では、乳酸リンゲル輸液ではなく酢酸リンゲル輸液が選択される。表3に示したように、5%程度の糖質を添加して、エネルギー投与も可能な製剤も市販されている。
1.0%糖添加酢酸リンゲル液(フィジオ140® )
わが国では、酢酸リンゲル液の中でも、1.0%の糖質を添加した糖添加酢酸リンゲル液が市販されており(表3)。術中輸液として使用されることが多い。術中に炭水化物を添加する理由としては、術中の低血糖予防や筋タンパク異化の軽減効果を期待するすることが挙げられる。わが国の術中麻酔管理で用いられているレミフェンタニルは、吸入麻酔薬にくらべて強力な鎮痛効果およびストレスホルモンの抑制効果がみられる 7)。このため、術中血糖管理では、高血糖よりも低血糖に注意する必要性が出てきた。特に、高齢者や動脈硬化病変を有した手術患者において、低血糖は術中血圧の低下とともに脳虚血の発症要因となりうる。また、術中に全身麻酔下の手術患者に1.0 %の低濃度糖質添加輸液を投与しても、血糖値を上昇させることなくタンパク異化の軽減効果を認めることが報告されている 8)。わが国で使用できる糖添加酢酸リンゲル輸液では、その他の特徴として、ナトリウムイオン濃度が140 mEq/Lと高めで、浸透圧比が約1 と糖添加輸液としては低く、術中に低下しやすいマグネシウムイオンが2 mEq/L 含まれている。
5)重炭酸リンゲル液
リンゲル液に用いられるアニオンは、本来、生体で重炭酸イオン等により体液のpH が一定に維持されていることから、細胞外液補充液にも重炭酸イオンを用いることが理想的であると考えられる。しかし、重炭酸リンゲル液は、製剤からの二化素放出に伴う pH の上昇により、安定な重炭酸リンゲル液は近年まで実用化されてこなかった。近年、わが国でも、炭酸ガスに対して高いバリア性を有する複合フィルムとpH(炭酸ガス濃度)をモニターできるpH インジケーターが開発された。これらを用いながらガスバリア性フィルムで容器を包装することで、重炭酸リンゲル液の安定性の向上と品質の確認が可能になり、臨床現場においても重炭酸リンゲル液が使用できるようになった(表3)。重炭酸リンゲル液は、酢酸リンゲル液のように肝臓や腎臓における代謝に依存せず、重炭酸イオンの働きによって直接的かつ迅速に(15 分程度で)アシドーシスを改善できる。重炭酸リンゲル液について、肝臓への負担が少ないか否かは未だ不明瞭である。なお、ドナーによる肝移植患者において実施された無作為比較試験では、酢酸リンゲル液と比較して、重炭酸リンゲル液が術中の酸塩基平衡の改善に関連していたことが示されている。同試験では、術中の重炭酸リンゲル液により、術後早期の肝移植後の肝機能を保護し、術後後期においては腎損傷を軽減する可能性があると結論づけられている 9)。重炭酸リンゲル液には、重症患者や術中に低下しやすいマグネシウムイオンも含まれる。現時点では、酢酸リンゲル液に比較して重炭酸リンゲル液の有効性を示した臨床研究は未だ少ない。
細胞外液補充液の項の最後にまとめとして、細胞外液補充液の生理食塩液から、より細胞外液に近い組成への変遷を、ポイントとともに図3に示す。
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5.細胞内液補充液
細胞内液補充液は、低張輸液とも呼ばれ、比較的病状が安定した時期に使用される。低張液が血管内に入ると、水は組織間質を経て細胞内まで移動する(図1,図2)。一般的には、細胞外液補充液により細胞外液の水電解質が満たされ、バイタルサインが安定した後に、治療のターゲットを細胞内液にシフトする。その際に使用される輸液が、細胞内液補充液である。細胞内液補充液は、Na +濃度およびK +の有無により、1号液から4号液の4種類に分類される。4種類の中でも、臨床現場では3号液が汎用され、栄養輸液は3号液をベースに各種栄養を加えて作製される。各種細胞内液補充液の成分組成表を表3に示したので、組成を確認しながら解説を進める。
1) 細胞内液補充液の成分組成の考え方
細胞内液補充液は、低張電解質輸液であるため、生理食塩液(等張)を5%ブドウ糖液(自由水)により希釈して作製されると考える(図4、表4)。細胞内液補充液は、生理食塩液(Na+濃度; 154mEq/L)を5%ブドウ糖液で1/2に希釈した1号液(Na +濃度; 154÷2=77 mEq/L)、そこにK+を添加した2号液、1/3に希釈してそこにK +を添加した3号液 (Na +濃度; 154÷3=51 mEq/L)、1/4に希釈した4号液(Na+濃度; 154÷4=38 mEq/L)と、それぞれ特徴ある成分組成になっている。

生理食塩液(等張電解質液)を5%ブドウ糖液(自由水)により希釈。
2)1号液(開始液)
<調合> 生理食塩液:5%ブドウ糖液=1:1
<組成の特徴> 電解質は、Na+とCl-しか含まれていない。
Na+濃度が生理食塩液の約1/2:77〜90mEq/L
<用途> K+が含まれていないので、病態不明の脱水症や心不全、腎機能障害患者、腎排泄能力が未熟な乳幼児などの患者に用いられる。そのため、1号液は別名、「開始液」とも呼ばれる。
3)2号液(脱水補給液)
<調合> 生理食塩液液:5%ブドウ糖液=1:1、さらにK+やMg2+を添加。
<組成の特徴> Na+濃度が生理食塩液の1/2:77〜90mEq/L
Na+濃度が1号液とほぼ同じで、K+やMg2+を添加。
<用途> 水と電解質を補正する目的で使用するため、脱水補給液とも呼ばれる。
4)3号液(維持液)
<調合> 生理食塩液:5%ブドウ糖液=1:2、各種電解質を添加。
<組成の特徴> Na+,K+,Cl-の含有量が2号液よりも低く調整されている。そのため、中和剤や糖質を添加しても浸透圧比を1に維持できている。
<用途><用途> 成人の水・電解質の喪失量から考えると、3号液を2,000mL輸液すると1日当たりの水・電解質量を補うことができる。そのため、3号液は「維持液」とも呼ばれる。細胞内液補充液の中でも製品数が多く、最も汎用されている。
5)4号液(術後回復液)
<調合> 生理食塩液:5%ブドウ糖液=1:3
<組成の特徴> 細胞内液補充液の中で、すべての電解質濃度が最も低い。Na +濃度が生理食塩液の1/4であり、K+が含まれていない。浸透圧比を1に近づけるため、糖質の添加が必須。
<用途> 電解質の補正を必要としない、主に水補給を目的とした輸液の際に使用される。腎不全患者や術後早期の輸液に用いられることから、4号液は「術後回復液」とも呼ばれる。しかし現在では、術後の経口的な飲水が早期から実施されるため、術後に使用される機会も少ない。
6.膠質液
水・電解質輸液をクリスタロイド輸液と呼ぶのに対して、膠質液はコロイド輸液と呼ばれる。冒頭の「輸液の移動を理解するための3つの法則」における、法則3「膠質は血管壁を通過できず血管内にとどまるため、自由水を血管内に維持」から、膠質液は、循環血漿量を増加させるために使用される輸液である。(図5)
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1)成分と機序
膠質輸液の成分としては、生理食塩液に分子量が大きいコロイド分子であるヒドロキシエチルデンプンが添加されている(表5)。このため、ヒドロキシエチルデンプンが血管外へ移動せず血管内にとどまり、血漿の浸透圧を増加させる。その結果、血漿内に自由水を保持し、さらに間質や細胞内から自由水を引き込み、循環血漿量を増加させる効果がある。
2) 用途
膠質液は、周術期および集中治療領域で用いられているため、麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3 版の記載を参照したい。
(1)急性出血の治療
(2)外傷,熱傷,出血に基づく外科的ショックの予防および治療
(3)心臓手術時の体外循環還流液
(4)区域麻酔に伴う血圧低下防止目的での投与
区域麻酔に伴う血圧低下防止目的での投与については、現在は保険適応外とされるが、区域麻酔による交感神経遮断による相対的な血液量低下状態に対し、本薬を含む膠質液投与は、血液量増量効果が晶質液より優れている。
(5)その他,重症患者管理における相対的な循環血液量低下
3)製品
わが国で市販されていた3種類の膠質液のうち、サリンヘス輸液6% (500mL)およびヘスパンダー輸液(500mL)は、2022 年10月初旬ごろに製造販売中止になった。現在は、ボルベン輸液6% (500ml)のみが臨床現場で使用されている(表5)。
4)ショック時の使用方法と注意点
厚生労働省の「血液製剤の使用指針」では、出血性ショックに対して、出血量が循環血液量の20 %程度に達するまでは晶質液主体の輸液管理を行い、20 %程度に達した段階で人工膠質液の併用を開始し、ある程度投与した時点でアルブミンへと変更することとしている。膠質液の利点としては、膠質浸透圧の効果として容量効果が大きいため、循環血液量補充効果が高い点があげられる。価格面においてもアルブミン製剤よりも安価で、医療経済的なメリットもある。欠点としては、腎機能および血液凝固系への悪影響があげられている。
日本麻酔科学会:麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3 版第4 訂,2018
7.各種電解質製剤(補正用電解質液)
水・電解質輸液は、不足した細胞内液、細胞外液を補充する目的で使用される。一方、特定の電解質のみの補充を必要とする場合には、補充目的に応じた補正用電解質液が用いられる。臨床現場では、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、などの補正用電解質液が使用されている(表6)。
1) 低ナトリウム血症の補正
ナトリウム摂取不足あるいは喪失過多により生じた重篤な低ナトリウム血症に対しては、補正用電解質液が静脈内投与される10)11)12)。
具体的な方法は、3% NaCl液(510mEq/L)として2 mL/kg(最大100mL)の量を10分間かけて静脈内投与し、意識状態の改善をみながら必要に応じてこれを繰り返す。およそ1〜2時間でNa+濃度を5〜6mEq/L上昇させることを目標とする。理論的には、3% NaCl 液1mL/kg を投与するとNa +濃度が約1mEq/L 上昇する。1日の補正は12 mEq/L 以内とする。わが国では、3% NaCl液が製品化されていないので、10% NaCl 液と5%ブドウ糖液を3:7 の比率で混合して作成する。
例:10% NaCl 150mL+5%ブドウ糖350mL
2)低カリウム血症の補正
カリウム摂取不足あるいは喪失過多により生じた重篤な低カリウム血症に対しては、補正用電解質液が静脈内投与される。ただし、低カリウム血症の治療は安全性の面から経口的な補給が原則であるため、カリウム製剤の静脈内投与の判断は他の電解質補正液よりも慎重に行われるべきである。
① 投与法
カリウム製剤を原液で用いることは無く、通常は生理食塩液や5%ブドウ糖液に希釈して投与する。カリウム製剤は、末梢静脈あるいは中心静脈から投与される。経静脈的な補正中は、心電図で心臓の状態をモニタリングし、定期的に血液中検査を繰り返し、過剰なカリウムが体に影響を与えないよう注意が必要である。
② 投与上の注意点
初期投与量として、成人の場合、カリウム製剤を生理食塩液あるいはブドウ糖液で希釈し、カリウムとして10 ~20 mEq/Lを1時間かけて投与する。末梢静脈から投与する場合は、静脈炎を生じさせないために、最大濃度は40mEq/L以下とする。ブドウ糖濃度が5%を超えたり、重炭酸イオンを含んだ輸液製剤は、細胞内にK +を移動させてしまうので併用しない。
最大投与速度は、1時間あたり20 mEq/Lを超えないようにし、合併症のリスクを低減する。
③ カリウム製剤の選択
低カリウム血症に対しては、医療用医薬品 である L−アスパラギン酸カリウム製剤がある。しかし、低カリウム血症の多くが代謝性アルカローシスを伴い、Cl -を投与すると改善すること、アルカローシスに対してL-アスパラギン酸カリウムのようなアルカリ製剤を入れると悪化することから、初期治療としては表6にあるようなKCL製剤が選択される。
3)低カルシウム血症の補正
慢性の低カルシウム血症や副甲状腺機能低下に伴う低カルシウム血症に対しては、経口的なカルシウム製剤が投与される。一方、全身けいれんやテタニーを伴うような重篤な低カルシウム血症の場合に対しては、補正用電解質液が静脈内投与される。
① 適応
・低カルシウム⾎症に起因する下記症候の改善
テタニー、テタニー関連症状
・ 鉛中毒症
・マグネシウム中毒症
・ 下記代謝性⾻疾患におけるカルシウム補給
妊婦・産婦の⾻軟化症
② 使用上の注意
ジギタリス製剤を使用している患者では、ジギタリス製剤の作⽤を増強するおそれがあるため使用しない。また、静脈炎を起こしやすいので、十分に希釈して投与するのが好ましい。高カルシウム血症や不整脈のリスクがあるので、投与中は心電図の監視および治療の効果を確認するために、血清カルシウム濃度の定期的な計測を行う。
③ 2%の塩化カルシウム製剤の投与法
通常の補正では、表6に掲載した2%の塩化カルシウム製剤である塩化Ca補正液1mEq/mLが使用される。塩化カルシウムとして、通常成人では0.4~1.0g(カルシウムとして7.2~18mEq)を2w/v%(0.36mEq/mL)液として、1日1回静脈内に緩徐に(カルシウムとして毎分0.68~1.36mEq、10分程度かけて)注射する。
④ 10%の塩化カルシウム製剤の投与法
緊急時の薬剤であるため表6には掲載していないが、全身けいれんやテタニーには、グルコン酸カルシウムの10%溶液10mLを10分かけて静注する。反復投与が必要な場合には、10%グルコン酸カルシウム20~30mLを5%ブドウ糖液1Lに溶解し、さらに12~24時間かけて持続的に追加投与する。
4) 低マグネシウム血症の補正
Mg2+異常は、Mg2+を計測することがまれであるため臨床現場で見かけるのは少ない。しかし、栄養不良や他の電解質異常がある場合は、高頻度で低マグネシウム血症を併発しているため注意が必要である。
現在では、低マグネシウム血症に対して、表6にある硫酸Mg補正液1mEq/mLが使用される。
初期投与量として、1グラム(約8.12 mEq)の硫酸マグネシウムを、静脈内で約15〜30分かけて投与する。この方法で、一度に8〜12 mEqのマグネシウムを補充できる。採血結果を見ながら必要に応じて、1日1〜2回の追加投与が検討される。
5) 低リン血症の補正
低栄養やrefeeding症候群に伴う低リン血症ではリンの補充が必要となる。静脈内リン補充剤としては、表6にあるリン酸Na補正液0.5mmol/mLが使用される。リン酸2カリウム注20mEqキット「テルモ」も、特定の状況で使用されることがあるが、カリウムの過剰摂取に注意が必要となる。
初期投与量は、成人の場合、0.08〜0.16 mmol/kgのリン酸ナトリウムを、2〜4時間かけて静脈内に投与する。投与速度は、リンの補充として1時間あたり約7.5 mmolを超えないようにする。リン補充は急激に行うと、下痢、腹痛、心臓への影響、骨髄抑制(特に高濃度投与時)などの副作用を引き起こす可能性がある。他の電解質補充液の投与と同様に、血清濃度のモニタリングを定期的に実施する。
製品情報の参考サイト
文献
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