HOME > PDNレクチャー > Ch.3 静脈栄養 > 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴

Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)

2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴


大阪大谷大学薬学部 名德 倫明

名徳倫明
記事公開日 2025年1月30日

1.はじめに

ビタミンは、正常な機能を維持するために必要不可欠であるが、基本的に体内で生合成されないことから、体外から取り入れる必要があるものである。TPN用輸液を投与している患者は、経口摂取ならびに経管栄養を含む経腸栄養が不可能な場合であり、ビタミンの補給は必須である。

2.ビタミン各論

現在、国内で販売されているTPN用ビタミン製剤は、すべての製剤に脂溶性ビタミン4種、水溶性ビタミン9種の計13種のビタミンが含まれている。これらのビタミンの働き及び欠乏や過剰症について日本人の食事摂取基準(2025 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書1) をもとに解説する。

2.1 脂溶性ビタミン

(1) ビタミンA
 ビタミンAは、生物の成長や視覚機能の維持、形態形成、細胞分化・増殖、免疫系の正常な機能にも関係する。また、網膜細胞の保護作用や視細胞における光刺激反応に重要である。欠乏により、乳幼児では角膜乾燥症から失明に至ることもある。成人では夜盲症を発症する。妊婦では、ビタミンA過剰摂取による胎児奇形が報告されている。

 (2) ビタミンD
 ビタミンDの活性を有する化合物として、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)がある。活性型ビタミンDは、腸管でのカルシウムとリンの吸収並びに腎臓での再吸収を促進する。ビタミンD欠乏により、小児ではくる病、成人では骨軟化症が起こる。多量のビタミンD摂取を続けると、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などが起こる。

 (3) ビタミンE
 ビタミンEは、生体膜を構成する不飽和脂肪酸あるいは他の成分を酸化障害から防御するために、細胞膜のリン脂質二重層内に局在する。ビタミンEの欠乏により、溶血性貧血及び神経脱落症状が挙げられる。ビタミンEの過剰症として、出血傾向の上昇がある。

 (4) ビタミンK
 ビタミンKは、肝臓においてプロトロンビンやその他の血液凝固因子を活性化し、血液凝固に重要な役割を果たしており、骨形成の調整にも関与している。ビタミンK欠乏により、血液凝固が遅延する。

2.2 水溶性ビタミン

(1) ビタミンB1
 ビタミンB1は、補酵素型のチアミン二リン酸(ThDP)として、グルコース代謝やTCA回路、分岐鎖アミノ酸代謝に関与している。グルコース代謝においては、ThDPは糖質代謝におけるピルビン酸デヒドロゲナーゼ、TCA回路におけるα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、ペントースリン酸経路のトランスケトラーゼの補酵素として働く。また、バリン、ロイシン、イソロイシンの代謝に関与する分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼにおいても補酵素として働く。
 ビタミンB1は体内蓄積量が30 mgと少なく、代謝回転が速く欠乏を起こしやすい(半減期9~18日)。ビタミンB1の主な欠乏症には、脚気とウェルニッケ-コルサコフ症候群がある。静脈栄養施行時に起こるビタミンB1の欠乏として、乳酸アシドーシスがある。グルコースからエネルギーを産生する過程において、ピルビン酸からアセチル-CoAへの代謝経路がある。ビタミンB1欠乏によりこの経路が障害され、ピルビン酸が乳酸へと代謝されることにより乳酸が溜まり、血液が酸性に傾き乳酸アシドーシスが発現する(図1)。症状は、悪心・嘔吐、倦怠感、筋肉痛、過呼吸など、さらにはショック、昏睡、死に至ることもある。ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスは、ビタミンB1が添加されていないTPN用輸液を施行することにより発現していることが報告されている。ビタミンB1欠乏症と思われる重篤なアシドーシスが発現した場合には、直ちに100~400 mgのビタミンB1製剤を急速静脈内投与する2)

図1 糖代謝及びTCA回路とビタミンB
図1 糖代謝及びTCA回路とビタミンB1 の関与

(2) ビタミンB2
 ビタミンB2は、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が補酵素として、エネルギー代謝や物質代謝に関与している。TCA回路、電子伝達系、脂肪酸のβ酸化などのエネルギー代謝に関わっている。欠乏により、口内炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎などが起こる。

 (3) ビタミンB6
 ビタミンB6は、アミノ酸代謝反応などの補酵素として機能する。ビタミンB6が欠乏すると、ペラグラ様症候群、脂漏性皮膚炎、舌炎、口角炎、リンパ球減少症が起こる。経口避妊薬やイソニアジドの服用により欠乏症を認めることがある。

 (4) ビタミンB12
 ビタミンB12は、アミノ酸代謝などに関与する。ビタミンB12の欠乏により、巨赤芽球性貧血、脊髄及び脳の白質障害、末梢神経障害が起こる。

 (5) ナイアシン
 ナイアシンは、ニコチンアミドとニコチン酸を指す。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)が補酵素として機能する。NAD、NADPは酸化還元反応を触媒する酵素の補酵素として電子の授受を行い、特にエネルギー産生栄養素代謝及びエネルギー産生において重要な役割を果たす。ナイアシンが欠乏すると、ペラグラ症状を認める。ペラグルの主症状は、皮膚炎や下痢、精神神経症状である。

 (6) パントテン酸
 パントテン酸は、コエンザイムA(CoA)の構成成分として脂質代謝やエネルギー産生に重要な役割を果たす。パントテン酸の欠乏により、成長停止や副腎傷害、手足のしびれと灼熱感、頭痛、疲労、不眠、胃不快感を伴う食欲不振などが起こる。

 (7) 葉酸
 葉酸は、1つの炭素を有する官能基(一炭素単位)を転移させる酵素の補酵素として機能する。欠乏により、巨赤芽球性貧血を起こす。

 (8) ビオチン
 ビオチンは、カルボキシラーゼの補酵素として機能し、特にピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素として糖新生、アセチルCoAカルボキシラーゼの補酵素として脂肪酸合成に重要な役割を果たす。欠乏により、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂うつ感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなどが惹起される。

 (9) ビタミンC
 ビタミンCは、抗酸化作用がある。また、皮膚や細胞のコラーゲンの合成に必須である。ビタミンCの欠乏により、血管が脆くなり出血傾向となり、壊血病となる。壊血病の症状は、疲労倦怠、いらいらする、顔色が悪い、皮下や歯茎からの出血、貧血、筋肉減少、心臓障害、呼吸困難などである。

3.市販されているTPN用ビタミン製剤

現在、国内で販売されているTPN用ビタミン製剤は、オーツカMV注(大塚製薬工場/大塚製薬)、ビタジェクト注キット(テルモ)、ダイメジン・マルチ注(日医工ファーマ/日医工)、マルタミン® 注射用(エイワイファーマ/陽進堂)の4種であるが、マルタミン® 注射用は製造販売中止で経過措置期限が2026年3月末見込みである。 各TPN用ビタミン製剤の含有ビタミンはいずれの製剤も13種(脂溶性ビタミン 4種、水溶性ビタミン 9種)である。各製剤の組成を表1に示す。

表1 各種TPN用ビタミン製剤の組成(拡大)
表1 各種TPN用ビタミン製剤の組成

※1:ビタミンA油、※2:ビタミンA油(レチノールパルミチン酸エステルとして)、※3:エルゴカルシフェロール、※4:メナテトレノン

1975年に出された米国医師会(American Medical Association : AMA)のガイドライン3) を基本として、さらにAMAのガイドラインには示されていないビタミンKを加え開発されている。AMAガイドライン1975及びFDAガイドライン2000 4) におけるビタミンの推奨量を表2に示す。ビタミンDとして、オーツカMV注及びマルタミン® 注射用はコレカルシフェロール、ビタジェクト注キット及びダイメジン・マルチ注はエルゴカルシフェロールを含有している。

表2.AMAガイドライン1975及びFDAガイドライン2000におけるビタミンの推奨量
種類 単位 AMA1975 FDA2000




ビタミンA

IU

3,300

3,300

ビタミンD

μg

5

5

ビタミンE

mg

10

10

ビタミンK

μg

(規定なし)

150





ビタミンB1

mg

3

3

ビタミンB2

mg

3.6

3.6

ビタミンB6

mg

4

6

ビタミンB12

μg

5

5

ビタミンC

mg

100

200

ニコチン酸アミド

mg

40

40

パントテン酸

μg

15

15

葉酸

μg

400

600

ビオチン

μg

60

60

3.1 オーツカMV注

オーツカMV注は、水溶性ビタミンを含有する1号(凍結乾燥製剤)と脂溶性ビタミンを含有する2号(水性注射液)の2本(1組)からなっており、室温保存が可能である。調製時は、1号に2号を加えて溶解した後、速やかにTPN用輸液に添加する。

3.2 ビタジェクト注キット

ビタジェクト注キットは、安定性を考慮してA液(脂溶性ビタミン4種類、水溶性ビタミン5種類:水性注射液)、B液(水溶性ビタミン4種類:水性注射液)の2本のプラスチックシリンジに充填したプレフィルドシリンジ製剤であり、室温保存が可能である。専用ホルダーを使用することにより、連続混注が可能となる。

3.3 ダイメジン・マルチ注及びマルタミン® 注射用

ダイメジン・マルチ注及びマルタミン® 注射用は、すべてのビタミンを1バイアル内に充填した凍結乾燥製剤であり、冷所(10℃以下)での保存が必要である。

4.注意点

4.1 禁忌事項

TPN用総合ビタミン製剤または配合成分に過敏症の既往歴のある患者には投与してはいけない。また、パンテノールにより出血時間を延長するおそれがあるため、血友病の患者には投与してはいけない。

4.2 妊婦

外国において、妊娠前3ヵ月から妊娠初期3ヵ月までにビタミンAを10,000 IU/日以上摂取した女性から出生した児に、頭蓋神経堤などを中心とする奇形発現の増加が推定されたとする疫学調査結果があることから、妊娠3ヵ月以内又は妊娠を希望する女性が投与する場合には、ビタミンAの投与を5,000 IU/日未満に留める。

4.3 相互作用

 ビタミンKは、ワルファリンの抗凝固作用を減弱させる。ワルファリンを投与しているTPN用輸液投与患者において、PT-INRが下がったとする症例が報告されている6)。市販されているTPN用総合ビタミン製剤のビタミンKは2,000 µg含有しているので、注意が必要である。また、TPN用アミノ酸・糖・電解質・総合ビタミン・微量元素液であるエルネオパ® NF輸液(大塚製薬工場/大塚製薬)及びワンパル® 輸液(エイワイファーマ/陽進堂)は、含有ビタミンKがFDA 2000のガイドライン(表24) に基づき1日量150 µgであり、ワルファリン投与患者においてTPN用輸液を変更する場合は、抗凝固作用の影響が異なる可能性があるので、ビタミンKの含有量には注意が必要である。  ピリドキシン塩酸塩は、レボドパの脱炭酸酵素の補酵素であり、併用によりレボドパの末梢での脱炭酸化を促進し、レボドパの脳内作用部位への到達量を減少させる。そのため、レボドパ(パーキンソン病治療薬)の作用を減弱させるおそれがある。

4.4 副作用

各製剤には様々な添加剤が含まれており、副作用としてショックなどのアレルギー症状が生じる可能性がある。特にマルタミン® 注射用は、添加剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有しているため、アレルギー症状には特に注意する必要がある。

4.5 臨床検査結果に及ぼす影響

アスコルビン酸を含有しているため、尿糖の検出を妨害することがある。また、各種の尿検査(潜血、ビリルビン、亜硝酸塩)、便潜血反応検査で、偽陰性を呈することがある。 リボフラビンリン酸エステルナトリウムを含有しているため、尿を黄変させ、臨床検査値に影響を与えることがある。

4.6 その他

TPN用総合ビタミン製剤は、TPN用輸液添加用のビタミン剤であるため、単独投与または末梢静脈内投与は避ける。

5.ビタミンの安定性と配合変化

5.1 光による分解

ビタミンA,B1,B2,B12、C、Kなど、多くのビタミンは光に対して不安定である。ダイメジン・マルチ注と各種輸液との混合での室温・散光下(500 Lx)における24時間後の各種ビタミンの力価について表3 に示す。長時間かけて投与する輸液にこれらのビタミンを混合した場合は、混合後速やかに使用するとともに、遮光カバーで輸液バッグを被覆して使用する必要がある。ただし遮光カバーの再利用は、細菌がカバーに付着する可能性がある7) ため、避ける。

表3.ダイメジン・マルチ注と各種輸液との混合での 室温・散光下(500Lx)における24時間後の各種ビタミンの力価(拡大)
表3.ダイメジン・マルチ注と各種輸液との混合での室温・散光下における24時間後の各種ビタミンの力価

※単位:%、数字は配合直後を100%とした時の残存率(ダイメジン・マルチ注のインタビューフォームより)

5.2 亜硫酸塩による反応

アミノ酸輸液(アミノ酸を含有するTPN用輸液も含む)は、酸化防止剤として亜硫酸塩を含有している。この亜硫酸塩が酸性条件下でビタミンB1を加水分解する。

5.3 微量元素とビタミンの配合変化

TPN用微量元素製剤に含まれる塩化第二鉄は、鉄コロイドとして安定した状態にされている。しかし、TPN用総合ビタミン製剤は、コロイド粒子に影響を与える8)。また、TPN用輸液に、微量元素製剤と総合ビタミン製剤を混合した後のビタミンの経時的変化を検討した報告では、ビタミンCの含量低下が報告されている9)。そのため、TPN用微量元素製剤とTPN用総合ビタミン製剤を輸液内で混合する場合は、シリンジ内へ同時に吸引せず、別々に輸液製剤に混合する。また、投与が長時間を要する場合には、0.2 μmの輸液フィルターを付ける。

文献

  1. 日本人の食事摂取基準(2025 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書,150-242,2024.10
  2. 医薬品等安全性情報 No.144
  3. American Medical Association Department of Foods and Nutrition, Multivitamin preparations for parenteral use. A statement by the Nutrition Advisory Group. 1975. JPEN,258-262,1979
  4. FDA. Federal Register, April 20, 65(77), 21200-21201, 2000
  5. 高カロリー輸液用総合ビタミン製剤 各社添付文書
  6. 並木真貴子,他. ワルファリンとビタミンK含有高カロリー輸液の相互作用が問題となった症例の経験とNST薬剤師としての取り組み. 日本静脈経腸栄養学会雑誌,31,1003-1006,2016
  7. Hosomi K, et al. Bacterial contamination of lightproof covers for high-calorie infusion solutions in wards.Int J Med Sci, 18, 3708-3711, 2021
  8. 東海林徹.輸液製剤と微量元素—その意義と問題点—.静脈経腸栄養,26,1077-1083,2011
  9. 清水博子,他.ピーエヌツイン中でのビタミンの安定性.新薬と臨牀J,57,732-740,2008

▲ページの最初へ戻る

あなたは医療関係者ですか?
この先のサイトで提供している情報は、医療関係者を対象としています。
一般の方や患者さんへの情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承下さい。
いいえ
はい