- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- 1.末梢静脈栄養法(PPN)
- 1.1 PPNの特徴と適応
- 1.2 PPN製剤の種類と適応
- 1.3 PPNカテーテルの種類
- 1.4 PPNカテーテルの留置と管理
- 2.中心静脈栄養法(TPN)
- 2.1 TPNの特徴と適応
- 2.2 CVカテーテルの種類
- 2.3 CVカテーテル留置法
- 2.4 皮下埋め込み式CVポートと
その留置法 - 2.5 PICCとその留置法
- 2.6 エコーガイド下での
CVカテーテル留置法 - 2.7 TPN時の使用機材
- 2.8 TPN基本液とキット製剤の種類と特徴
- 2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴
- 2.10 脂肪乳剤の種類と特徴
- 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴
- 2.12 微量元素製剤の種類と特徴
- 2.13 TPNの実際の投与方法と管理
- 2.14 TPNの合併症
- 2.15 特殊病態下のTPN
- 2.16 小児のTPN
- 2.17 TPN輸液の調製方法
- 2.18 HPN(在宅経静脈栄養)
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
2015年10月27日改訂
<Point>
- 感染のリスクの少ない血管を選択し、基本的な感染・リスク対策を施し、PPNカテーテルを留置する。
- 留置後は静脈炎やカテーテル感染などの合併症を併発しないよう十分観察を行う。なお、合併症が生じた場合には速やかにカテーテルを抜去する。
- すべての操作にかかわるのは医療従事者の手であり、基本的予防策「手洗い」の励行を忘れてはならない。
1.はじめに
末梢静脈栄養(以下、PPN)は、静脈栄養管理の基本であり、中心静脈栄養に比較して、カテーテル留置の手技や管理はそれほど煩雑ではないものの、安易に考えると時に重篤な合併症も引き起こす。本稿ではPPNカテーテル留置の実際と合併症を念頭に置いた管理について解説する。
2.カテーテルの留置
カテーテルの挿入、固定に関しては、すでにほぼ確立されてきたと考えるが、改めて基本的な手技を紹介する1)。
2.1 必要準備物品
留置カテーテルということで、ここでは翼状針の留置に関しては割愛する。必要準備物品として以下のものを用意する(図1)。
- 指示の輸液
- 輸液セット(通常は20滴)、必要時延長チューブ・三方活栓
- 酒精(アルコール)綿、駆血帯
- 静脈留置針(カテーテル)
- フィルムドレッシング、固定用テープ、点滴スタンド
2.2 留置の実際
- 指示輸液と患者が間違いないことを確認する。
- 輸液セットに必要時延長チューブをつけ、必要な長さを確保する。
- 無菌操作で指示輸液に輸液セットを挿し、チューブ内を液で満たす。チューブ内に空気が入っていないことを確認する。
- 患者にPPNの目的・方法を説明し、協力を得る。
- 固定が容易で感染率が低い部位を選択する。上肢は下肢と比較し、静脈炎のリスクが低いため、通常は前腕皮静脈に挿入する。
- 穿刺部位を十分に露出し、駆血帯で駆血後、静脈を十分に怒張させ酒精綿で皮膚消毒を行う(図2-1)。
- 静脈留置針を刺入し、内筒への血液の逆流を確認する(図2-2)。
- 駆血帯を外し、静脈留置針の内筒を抜き、誤刺に注意しながら内筒を収納する。
- 輸液セットと静脈留置針を接続し、滴下確認をする。また、接続部のゆるみがないかも確認する (図2-3)。
- 滴下状態、疼痛の有無、腫脹の有無を確認し固定する(図2-4)。
2.3 固定の実際
- 挿入部を透明フィルムドレッシング材で密閉する(図3-1)。
- 輸液ラインにループを作り、緩みを持たせ、固定用テープでループの上下をしっかりと固定する (図3-2)。
- 挿入日を透明フィルムドレッシング材または固定用テープに記入する(図3-3)。
- ドレッシング材を定期交換する必要はないが、剥がれたり、濡れたりしたときは交換する。
3.カテーテルの管理(感染対策)
カテーテル管理の要点2)を表1に示すが、管理として感染対策が最重要であり、以下にそのポイントについて具体的に述べる。
留置時の対策 |
手指衛生と手袋装着 |
---|---|
留置部位 |
下肢より上肢がよい(手首や上腕は避ける) |
カテーテルの交換 |
72-96時間ごと(小児は除く) |
消毒薬 |
70%アルコール |
ドレッシング材 |
滅菌透明ドレッシング |
ドレッシング材の |
湿ったり、緩んだり、汚れた時や留置部を視診する必要があるときに交換。ドレッシング交換時に皮膚を70%アルコールで消毒。 |
輸液ラインの交換 |
72時間よりも頻回にならないように交換。 血液・血液製剤・脂肪乳剤を投与したラインは注入開始より24時間以内に交換。 |
側管の管理 |
閉鎖式を使用。 |
3.1 PPNカテーテル挿入前の感染対策
1)挿入部位(血管)の選択
成人では、カテーテル挿入部位には下肢よりも上肢を用いるのが望ましい。下肢に挿入されたカテーテルはできるだけ速やかに上肢に入れ替えることが望ましい。
2)挿入部位の清潔管理
長期留置する際は、穿刺前に挿入部位の清拭を行う。
3.2 PPNカテーテル挿入時の感染対策
1)清潔管理
挿入前に手指消毒を行い、挿入時には清潔な未滅菌手袋を着用する。挿入時は、皮膚のアルコール消毒を行い、その際、挿入部位を中心に外側に円を描くように消毒する。皮膚消毒の後に挿入部位を触らない。
2)輸液ライン
従来、三方活栓が頻用されていたが、そこよりの感染のリスクが高く、I-system3)などに代表される閉鎖式輸液ラインを選択すべきである。
3)カテーテルの固定
カット綿固定は行わず、滅菌透明ドレッシング材を使用し、挿入の観察がしやすいように固定する。ドレッシングに交換日を記入する。
3.3 PPNカテーテル留置中の感染対策
1)輸液の調剤、注入時間
- 調剤前に手指消毒を行う。
- 調剤は清潔な区域で行う。
- 調剤前に作業台、トレイ等をアルコールで拭き清潔にする。
- 調剤後の点滴は速やかに使用する。
- 脂肪を含んだ溶液の注入は、輸液を吊るしてから24時間以内に完了する。
- 脂肪乳剤単独の輸液は吊るしてから12時間以内に完了する。
- 血液製剤の輸液は吊るしてから4時間以内に完了する。
- ボトル類は開封・未開封にかかわらず、注射針の挿入部(ゴム栓)をアルコールで消毒する。
- 肉眼的な混濁、漏れ、裂け目、微粒子のある輸液製剤は用いない。また、有効期限が過ぎているものは使用しない。
2)カテーテル交換
カテーテルの交換は72~96時間で行い、持続留置の必要性について1回/週検討する。
3)輸液ラインの管理・交換
- 処置前に手指消毒を行う。
- 輸液ラインは、曜日を決めて週に2回、定期的に交換する。
- 血液、血液製剤、脂肪乳剤の投与に使用したチューブは開始24時間以内に交換する。
- カテーテル入れ替え時には交換する。
4)ドレッシングの交換
- 滅菌透明ドレッシング材が不潔になったり、ゆるんできたり、肉眼的に汚れた場合に交換する。
- 交換前に手指消毒を行う。
- 清潔な未滅菌手袋を着用する。
- 局所的な抗菌薬軟膏またはクリームを挿入部に使用しない。
- ドレッシング材に交換日を記入する。
5)感染徴候の観察
- 挿入部周囲を滅菌透明ドレッシング材の上から触診し、圧痛の有無と程度を毎日評価する。
- 静脈炎の兆候(熱感・圧痛・紅斑・静脈索が触れる)、感染、カテーテルの機能不全の兆候が出現した場合はカテーテルを抜去する。
4.感染以外の合併症
4.1 点滴漏れ
患者の体動や血管そのものの原因により、輸液が血管外に漏出することがある。挿入部の疼痛・腫脹が出現し、漏出した輸液によっては組織の炎症や壊死を起こすこともある。
対策としては、カテーテルの固定ができているか、挿入部付近の疼痛や腫脹はないかを継時的に観察することが重要である。点滴漏れが生じた際にはただちにカテーテルを抜去し、冷罨法を行う。
4.2 自己(事故)抜去
ADLや意識レベルが低下した患者や不穏状態の患者が、カテーテルを抜去したり(自己抜去)、ルートの長さや患者の激しい体動などによりカテーテルが抜けてしまう事故抜去の可能性は常にある。自己(事故)抜去により、必要な栄養管理ができないだけでなく、抜去部よりの出血、感染のリスクも高く、十分注意が必要である。
対策としては、患者のADLを考慮したルートの長さにすることや、挿入部の固定を強化することで多くは抜去のリスクを減らすことができる。ただし、不穏状態の患者に対しては、治療を最優先し、積極的な抑制も場合によっては必要と考える。さらに漫然とカテーテルを留置するのではなく、患者にとっての必要性を検討することも重要である4)。
4.3 静脈炎
PPN施行中に、カテーテル留置部を中心に、発赤・腫脹・圧痛などの症状を認めることがあり、いわゆる静脈炎である。静脈炎の発生は、輸液剤のpH、浸透圧、滴定酸度などの製剤的な要因が多いが、時に手技上の要因も考えられる。一般に末梢静脈は血管径が細く、太い中心静脈に比べて血流量が少ないために、輸液が十分に希釈されず、静脈炎を起こしやすいとされている。特に下肢の静脈は血流が緩徐で静脈炎を起こしやすい。
対策としては、可能な限り上肢の静脈を使用し、まず投与速度を緩徐にする。さらに緩衝液などを添加してpHをできるだけ中性に近づけたり、脂肪乳剤などを併用する。また、感染も静脈炎の原因となるので、穿刺部を十分にアルコールなどで消毒したり、輸液回路内にフィルターを使用し、回路を定期的に交換することも重要である。ただし、ひとたび静脈炎が発症した場合にはただちに抜去が原則である(表2)。
原因 | 対策 | |
---|---|---|
輸 液 |
高浸透圧 |
他の輸液と混合し、等張に近づける |
非生理的なpH |
pHが中性に近く、滴定酸度の低い輸液を |
|
滴定酸度が高い |
||
低温液の投与 |
体温付近まで加温して投与する |
|
管 理 |
細い静脈への |
できるだけ太い静脈に投与、 |
長時間持続投与 |
穿刺部位の刺し換え(2-3日毎) 穿刺部位のチェック(毎日1回) 不必要な持続点滴を避ける |
|
投与速度 |
なるべくゆっくり投与する |
|
回路からの感染 |
ファイナルフィルターの使用 回路の定期的な交換 |
5.おわりに
これまでPPNカテーテルの留置と管理について述べた。手技そのものは比較的安易なものであるが、針を刺すことは患者にとっては一つの侵襲である。それ故、PPNカテーテル挿入の際には、適応から基本的な留置のテクニックおよび留置前後の感染・合併症対策も十分考慮して施行することが重要と考える。
文献
- 佐藤美智子:静脈内注射・点滴静脈内注射.臨床看護技術ガイド、照林社:p46-59,2007
- 半田真美:末梢静脈カテーテルの感染管理対策.感染防止 15(7):37-42,2005
- Inoue Y, Nezu R, Matsuda H, et al:Prevention of catheter-related sepsis during parenteral nutrition;effect of a new connection device.JPEN 16:581-585, 1992
- 木村裕美、当麻美樹:末梢静脈カテーテル.看護技術 52(4):279-281,2006