- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- 1.末梢静脈栄養法(PPN)
- 1.1 PPNの特徴と適応
- 1.2 PPN製剤の種類と適応
- 1.3 PPNカテーテルの種類
- 1.4 PPNカテーテルの留置と管理
- 2.中心静脈栄養法(TPN)
- 2.1 TPNの特徴と適応
- 2.2 CVカテーテルの種類
- 2.3 CVカテーテル留置法
- 2.4 皮下埋め込み式CVポートと
その留置法 - 2.5 PICCとその留置法
- 2.6 エコーガイド下での
CVカテーテル留置法 - 2.7 TPN時の使用機材
- 2.8 TPN基本液とキット製剤の種類と特徴
- 2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴
- 2.10 脂肪乳剤の種類と特徴
- 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴
- 2.12 微量元素製剤の種類と特徴
- 2.13 TPNの実際の投与方法と管理
- 2.14 TPNの合併症
- 2.15 特殊病態下のTPN
- 2.16 小児のTPN
- 2.17 TPN輸液の調製方法
- 2.18 HPN(在宅経静脈栄養)
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
2024年4月1日版
1.はじめに
成長期にある乳児・小児では、体を維持するばかりでなく成長に必要なエネルギーが必要なため、成人に比して体重あたり非常に多くのエネルギーが必要となる。また貯蔵可能なエネルギー量も少なく(特に新生児~6ヵ月前まではグリコーゲンの貯蔵能は小さい)、適切な栄養管理がなされなかった場合には容易に栄養不良に陥る1)。腸管の使用が困難な場合には、通常2週間前後までは、末梢静脈栄養が可能である。より長期となった場合には中心静脈栄養管理が必要となる。
2.各種栄養素の静脈投与の特徴と問題点
2.1 炭水化物
成人では脳で基礎エネルギー必要量の約18%を消費しているが、新生児期には約50%が消費されている。脳でのエネルギー消費量は脳のシナプスが増加する10歳前後まで増加し、その後一定となる。小児期には炭水化物が、脳での唯一のエネルギー源でもあり重要な栄養素である。経静脈投与では、成人に比して小児期には耐糖能が優れているため、6~8mg/kg/minから開始して、10~14mg/kg/minまで増量する。これは、成人の上限の約2~3倍の投与量である2)。
2.2 蛋白質
蛋白利用効率を高め、いまだ未熟な腎機能(6歳前後で成人と同等の機能となる)への負担軽減のためにもcal/N比を成人の100~150前後に比して高めの、200~250にすることが重要となる。経静脈投与では、0.5g/kg/日から開始して2.5g/kg/日まで増量可能であるが、成人用のアミノ酸製剤を使用する場合には変換酵素活性の未熟生を考えて血漿アミノグラムの変化に充分注意する必要が有る。
過剰摂取により脳障害や成長障害の恐れのあるフェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジンを減量し、筋肉や末梢組織で利用される分子鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)含有率を高めて、さらにタウリンを添加した、新生児用のプレアミン-P®という製品も存在する。
2.3 脂質
成人に比して小児期の脂肪の必要量は高い。脂質は、熱量源や体構成成分として利用されるが、一部は体内で様々なサイトカンに合成され生体の機能制御に利用される。余剰の脂質は脂肪組織に運ばれ内因性貯蔵脂質として、侵襲時の主要な熱量源となる。経静脈投与では、0.3~1.0g/kg/dayから開始して、2g/kg/dayまで増量する。この際、リポプロテインリパーゼ活性の低い新生児期には、活性を上昇させるため、ヘパリン(12U/lipid g)の同時投与などの工夫が必要となる3)。また、多価不飽和脂肪酸の中でもω-3系脂肪酸は抗炎症・免疫賦活作用を有し、中心静脈栄養法に起因する肝機能障害を軽減する4)のみならず脳・神経系の発達・維持にも必要であり5)、brain growth spurtにある新生児・乳児期の栄養管理には不可欠な栄養素であるが、現在日本では、静脈投与製剤は医薬品として認可されていない。
2.4 ビタミン、微量元素
成長期にある、小児は成人に比してビタミン、ミネラルの所要量が高い。ただし双方共に小児用の製剤はなく成人用の製剤を使用する。ビタミン製剤は、岩渕らの報告から0.06V/kgの投与で行っており血中濃度は維持出来ているが、必要量から考慮するとビタミンDの欠乏に注意が必要である6)。微量元素に関しては、Mirtalloらの報告から0.05V/kgの投与で行っている7)。また、抗酸化物質の活性化に必須の微量元素の一つであるセレンは、2020年に日本でも医薬品として承認され販売が開始された。中心静脈輸液には含有されておらず、欠乏により筋力低下や拡張型心筋症様の病態となり死亡した例も報告されており、2~3ヵ月以上の長期管理となった場合には注意を要する8)。欠乏の診断には、筋肉のダメージを見る上での血清CPK値の上昇と血清セレン濃度の低下が重要である。治療は、亜セレン酸Naを、1〜4μg/kg/日(50~200μg/日)点滴内に混注し対応する。亞セレン酸混合中心静脈製剤の亞セレン酸のフィルターへの吸着は、24時間で数%以下であるためフィルター前投与が可能である。(データ(株)JMS提供)また、中心静脈基本輸液との混合試験も行われており1週間までの安定性が認められている。(データ 藤本製薬(株)提供))
3.おわりに
最後に、子供に中心静脈栄養を行う場合には、成人用の製剤を流用して使用する必要があるため、また臓器の未熟性を考慮する必要があるため様々な工夫が必要となる。例えば、長期中心静脈栄養管理に伴う肝障害は成人では、肝障害は脂肪肝が主であるが、新生児・乳児では胆汁うっ滞性の肝障害が中心となり、その対応も大きく異なる。近年、使用するルートに関しては、クローズド・ニードルレスタイプで小児用に混注部の死腔を抑えたプラネクターシステム®なども存在する。今後、子供に更に安全で効果的な中心静脈栄養管理が出来るよう様々な製剤の開発・導入に期待したい。
文献
- Curran JS et al: Nelson’s Textbook of pediatrics 16th ed, Saunders, Philadelphia, 138-188, 2000
- ASPEN Board of Directors and the Clinical Guidelines Task Force: JPEN 26: 1SA-137SA, 2002
- Spear ML et al: J Pediatr 112: 94-98, 1988
- Gura KM et al : Pediatrics 121: 678-686, 2008
- Yamamoto N et al: J Lipid Res 28: 144-151, 1987
- 岩渕 眞他:輸液・栄養ジャーナル11: 65-80, 1989
- Mirtallo J et al: JPEN 28: 39-70, 2004
- Alan Shenkin et al: Gastroenterology1 37: 61-9, 200