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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
2.18 HPN(在宅経静脈栄養)


クローバーホスピタル消化器科 望月弘彦

望月弘彦
記事公開日 2012年7月19日

<Point>

  • HPNの適応は「医師が必要と認めた場合」である。
  • ただし、より生理的な経口・経消化管からの栄養投与ができないということが絶対条件となる。
  • 在宅療養への移行に当たっては、十分な患者・家族指導とともに在宅担当者との緊密な連携が欠かせない。
  • 終末期や高齢者の脱水治療では、皮下輸液も選択肢の一つである。

1.はじめに

在宅医療は入院、外来に次ぐ第3の医療といわれ、患者のQOL(quality of life)の向上や医療経済上の利点から急速に普及しつつある。その中で、経口や経消化管で必要な栄養や水・電解質などを補えないが、在宅での生活が可能である、あるいは患者や家族が在宅での療養を強く希望する場合にはHPNが力強い助っ人となる。HPNは在宅中心静脈栄養とも訳されるが、本稿ではその対象を拡げて皮下輸液も取り上げるので在宅経静脈栄養という訳語をあてた。

HPNは1985年に保険適応となったが、適応疾患が限られ、器具や製剤、対応可能な医療機関などが整備されていなかったため、広く普及するには至らなかった。1992年に悪性疾患が適応に含まれ、1994年には「疾患を問わず医師が必要と認めたもの」(表1)となったことから取り組む医療機関が増えてきた。最近では、HPNの導入は地域の中核病院で行い、在宅でのフォローアップは在宅療養支援診療所が行うといった機能分担も拡がりつつある。

表1 HPNの診療報酬での取り扱い

区分C104 在宅中心静脈栄養法指導管理料 3,000点

  • 在宅中心静脈栄養法を行っている入院中の患者以外の患者に対して、在宅中心静脈栄養法に関する指導管理を行った場合に算定する。
  • 輸液セット又は注入ポンプを使用した場合は、所定点数にそれぞれ2,000点又は 1,250点を加算する。

在宅中心静脈栄養用輸液セットを1月に7組以上用いた場合、7組目以降は
特定保険医療材料の「在宅中心静脈栄養用輸液セット」で算定。


(1) 在宅中心静脈栄養法とは、諸種の原因による腸管大量切除例又は腸管機能不全例のうち、安定した病態にある退院患者について、在宅において患者自らが実施する栄養法をいう。

(2) 対象となる患者は、原因疾患の如何にかかわらず、中心静脈栄養以外に栄養 維持が困難な者で、当該療法を行うことが必要であると医師が認めた者とする。

(3)、(4)略

2.前提条件と対象疾患

在宅中心静脈栄養ガイドライン1)はHPNを実施するための前提条件として、以下の点を挙げている。

  1. 原疾患の治療を入院して行う必要がなく、病態が安定していて(末期癌患者を除く)、在宅中心静脈栄養によって生活の質が向上すると判断されるとき。
  2. 医療担当者の在宅中心静脈栄養指導能力が十分で、院内外を含む管理体制が整備されているとき。
    a) 医師が静脈栄養代謝およびその失調を理解しており、医師・看護師が注入管理に関連した合併症とその対処法を良く心得ている。
    b) 病院における中心静脈栄養療法(total parenteral nutrition : TPN)管理を、医師、看護師、薬剤師、栄養士が協調して問題なく行っていること。在宅管理も訪問看護師や往診を含む協調のよいチーム医療体制で行える。
  3. 患者と家族がTPNの理論やHPNの必要性を良く認識して、両者がHPNを希望し、家庭で輸液調整が問題なくでき、注入管理も安全に行えて合併症の危険性が少ないと判断されるとき。

医師が必要と認めれば、保険診療上は「疾患を問わず」施行が可能であるが、HPNではカテーテル敗血症などの感染症、代謝障害、カテーテルトラブルなどの合併症の危険性があり、より生理的で安全性が高い経口摂取や経腸栄養が可能な場合はそちらを優先させる、あるいはHPN中でも経口摂取や経腸栄養へ移行する可能性を常に探求することが望ましい。

HPNの絶対的な適応は消化管が使用できず、長期的にTPNを必要とするが一般状態が安定している患者で、腸管大量切除後や炎症性腸疾患、腸管運動障害、放射線性腸炎、消化吸収不良症候群、難治性下痢症などである。相対的な適応としては、悪性疾患終末期でTPNを必要とするが家庭生活を希望する患者や化学療法中などで経口・経腸栄養が不能または不十分な期間が長い場合である。

日本での2000年までの全国集計2)ではHPNとなった原疾患は悪性疾患が最も多く、短腸症候群、虚血性腸疾患、炎症性腸疾患の順となっている(図1)。医療制度や社会状況の違いからか、ヨーロッパ7ヵ国での集計3)では国ごとに頻度が多い疾患が異なっているが、やはり悪性腫瘍が原因となっている国が多い。(表2)

図1 疾患別HPN症例数の推移

図1 疾患別HPN症例数の推移文献2)より引用
表2 ヨーロッパ7ヵ国での集計
  患者数 クローン病 血管性 悪性腫瘍 放射線性 AIDS その他
フランス 173 16% 23% 27 15% 0.5% 18.5%
イギリス 72 44 14% 5% 2% - 35%
ベルギー 26 12% 15% 23% 15% 35 -
デンマーク 15 20% 13% 8% 26% - 33
オランダ 45 13% 11% 60 - - 16%
スペイン 31 16% 13% 39 - 6% 25%
ポーランド 14 14% 50 - 14% - 22%

3.血管アクセスと器具

①アクセスルート

通常のCVカテーテル留置と同じで、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)や静脈血栓の予防を考えると鎖骨下静脈からの挿入が一番であるが、気胸や血胸などの合併症、あるいは活動性が高い患者では鎖骨と第1肋骨の間にカテーテルが挟まれて破損してしまうカテーテルピンチオフ損傷4)に注意が必要である。内頸静脈や上腕静脈も利用できる。HPNでは長期にわたってカテーテルを留置する必要があり、カテーテルの入れ替えが必要となることもあるため、血腫形成やカテーテル先端の位置異常などを極力避けるためにエコー下穿刺や透視下での挿入が望ましい。大腿静脈も利用可能だが、CRBSIの危険性や血栓形成の危険性が他の部位よりも高い。大腿静脈から挿入する際には挿入部の汚染を避けるために皮下トンネルを作製してカテーテルを鼠径部から離れた位置で固定することが望ましい。また、外頸静脈は穿刺時に陰圧をかけないと血液の逆流がはっきりしないことが多いので少し慣れが必要だが、直視下で安全に穿刺できるので筆者は愛用している。

②アクセスデバイス

a) ブロッビアック/ヒックマン カテーテル (図2

材質は特殊加工シリコンで長期留置に優れている。万が一カテーテルが破損してもリペアキットで修復可能である。ダクロンカフが皮下組織と線維性結合を作り、事故抜去と皮膚刺入部からの感染を防止する。Broviacカテーテルは2.7Fr、4.2Fr、6.6Frの単孔式で、Hickmanカテーテルには9.6Frの単孔と7・9・10・12Frの多孔式がある。良性疾患で長期間にわたるHPNが必要な場合や小児での使用が推奨される。

図2 ブロッビアック/ヒックマン カテーテル
図2 ブロッビアック/ヒックマン カテーテル
(株式会社メディコン ホームページから許可を得て転載)
b) 完全皮下埋め込み式ポート・カテーテル(CVポート)(図3図4

CVポートは非使用時にはカテーテルが露出しないため、自然抜去や挿入部の感染が起こりにくく、入浴などの際にも邪魔にならないのでQOL向上に有利である。最近では、外来化学療法などに利用されることも多く、扱っている病院も多い。しかし、輸液を施行するときにはポート部皮膚を専用のヒューバー針で穿刺しなければならないため、疼痛や穿刺部皮膚の感染・壊死が問題となる。また、脂肪乳剤投与によるポート部の閉塞も報告されている5)。CVポートを患者本人が穿刺する場合は、穿刺しやすいようにCVポート造設位置に注意を払う必要がある。また、整容上の点から、上腕にCVポートを造設したという報告もある6)

図3 完全皮下埋め込み式ポート・カテーテル その1
図3 完全皮下埋め込み式ポート・カテーテル その1
(上の3枚は株式会社メディコン ホームページ、資料から許可を得て転載)

図4 完全皮下埋め込み式ポート・カテーテル その2
図4 完全皮下埋め込み式ポート・カテーテル その2 (株式会社メディコン資料から転載)
c) 通常のCVカテーテルやPICCカテーテル

悪性疾患末期などでHPNの施行期間が限定されており、すでに通常のCVカテーテルが留置されている場合には、上記のカテーテルへの入れ替えを行って入院期間を延長するよりは、現状のままでの早期退院も一つの方法である。ただし、CRBSIの危険性は高くなるので、在宅での担当医との連携が重要である。

③輸液ポンプ(図5) ⇒ 経腸栄養用ポンプ一覧

在宅での使用に合わせた専用の小型軽量な輸液ポンプを使用する。輸液ポンプはポンプ加算を算定することができるので、病院が購入して貸し出すことも可能である。また、在宅療法支援を行っている会社からリースを受けることもできる。

テルモ カフティーポンプS ニプロ キャリカポンプCP-330
左)テルモ カフティーポンプS(テルモ株式会社 ホームページから許可を得て転載)
右)ニプロ キャリカポンプCP-330(ニプロ株式会社 ホームページから許可を得て転載)

図5 HPN用輸液ポンプ

④輸液ライン

それぞれのポンプ専用のラインを使用する。CRBSI予防のため、三方活栓は使わない。側管注入が必要な場合はクローズドシステムを使用する。

⑤輸液製剤

基本的な糖・アミノ酸・電解質・ビタミンを投与する場合は3バッグ型剤が扱いやすい(ネオパレン:大塚製薬工場、フルカリック:田辺三菱製薬)。微量元素も含めた4バッグ型剤(エルネオパ;大塚製薬工場)も販売されている。総合ビタミン剤や微量元素製剤を混注する際には、感染を予防するために、プレフィルドシリンジを使うことが望ましい。無菌調剤ができる在宅療養支援薬局と連携がとれれば、輸液製剤の宅配も含めてスムーズに運びやすい。脂肪乳剤を同時に投与可能な製剤もあるが、添付文章には在宅では使用しないことという記載がある。

保険診療で在宅投与が可能な輸液製剤は細かく定められており、中心静脈栄養剤の他はインスリン製剤やブプレノルフィン製剤、塩酸モルヒネ製剤、抗悪性腫瘍剤、血液凝固阻止剤、サンドスタチン、生理食塩液などに限定されているため、注意が必要である。

4.輸液注入法

①24時間持続注入法

心・肺・腎の機能が低下していて急激な水分負荷が危険な場合や耐糖能異常がある場合は生体の代謝変動を少なくするために、1日量を24時間かけて注入することが望ましい。しかし、日常の行動が制限され束縛感も強い。一定の速度を保つことが重要なので輸液ポンプを用いる必要がある。輸液ラインの交換は週に1~2回でよい。

②間欠注入法

代謝性の基礎疾患がない場合や経口摂取が可能で活動性が高い症例に適している。1日のうち6~12時間のみ注入を行い、それ以外の時間はヘパリンロックをしてラインを外しておけるためQOLの向上に役立つ。通常、24時間持続注入法で始め、少しずつ時間を短縮していく。代謝負荷が大きくならないように、最初と最後の1時間は投与速度を遅くする。また、注入後はラインを外すため、毎日ライン交換が必要となる。

5.退院に向けて

①情報収集

患者の病状について十分に把握するのは当然として、在宅へ移行させるためには、家族の介護力や居宅環境、経済状況といった療養環境についての把握が必要である。さらに、訪問診療や訪問看護、調剤薬局といった医療的な連携に加えてケアマネージャーとともに介護・福祉分野で利用可能なサービスについても手配して、十分な支援体制を整えることが重要である。

②患者・家族指導

患者や家族への十分な指導が在宅での予後を大きく左右する。また、入院中の指導だけではなく、退院後も繰り返し手技の確認を行うことが大切である。

具体的な指導内容を表3に示した。この内容は患者の療養環境や訪問サービスでカバーできる範囲などを考慮してアレンジしていく。指導用のパンフレットや動画などを作製して、後から参照や確認ができるようにしておくとよい。

表3 HPN症例の在宅移行に向けての指導内容7)より改変
  1. 薬剤の管理方法・保管方法
  2. 輸液の準備と交換方法 (輸液バッグの準備、手洗いや作業場所の準備)
  3. 輸液バッグへの薬剤の混注方法;混注の必要がある場合
    (ビタミン剤・微量元素製剤・その他の薬剤)
  4. 輸液セットの取り扱い方法(プライミング等)
  5. 携帯型輸液ポンプの使用方法
  6. 輸液セットと中心静脈カテーテル(コネクター)の接続方法
  7. ヘパリンロックの方法
  8. 側管からの薬剤注入方法(脂肪乳剤など);必要があれば
  9. 入浴方法の指導
  10. カテーテル挿入部の消毒方法やドレッシングの交換方法
  11. 緊急時やトラブル発生時の対処方法
  12. 使用物品の廃棄方法
  13. その他
    完全皮下埋め込み型カテーテルの消毒方法
    完全皮下埋め込み型カテーテルのヒューバー針の取り扱い方法

③退院前カンファランス

事前に退院前カンファランスを開き、病院担当医と看護師、退院コーディネーターなどと在宅かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネージャー、在宅療養支援薬局の薬剤師などが集まって、患者や家族を交えて具体的な退院後の支援体制を検討する。患者や家族も退院後の担当者と面識ができるため、退院後の不安も軽減できる。診療報酬上では退院時共同指導料や地域連携診療計画退院時指導料などが算定できる。

6.皮下輸液

皮下輸液は静脈輸液が普及する以前に行われていたが、最近、悪性腫瘍の終末期ケアや高齢者の脱水治療において見直されてきている。静脈からの血管確保が困難な場合や 認知症やせん妄のため静脈注射が危険な場合、経口摂取や静脈からの輸液ができないが、補液が必要といった状況で中心静脈からの輸液を希望しない場合に適応となる。禁忌となるのはDICや出血傾向、浮腫の強い患者である。胸部上部、腹部、大腿上部などの、皮下脂肪があり浮腫がないところや、皮膚がたるんでいる部分、体動があっても抜去されにくい場所に20~24ゲージの静脈留置針や翼状針で投与する。20~100mL/時間程度で開始し、痛みがある場合は減速する。薬液は一時的に皮下にたまってから(浮腫になってから)ゆっくり吸収される8)

「ステップ緩和ケアonline」のサイト8)には皮下輸液の方法についての動画も紹介されている。土師らも静脈確保が困難な高齢者の脱水症例では皮下輸液が一つの選択肢となると述べている9)

SASSONらは皮下輸液の利点として

  • 安価
  • 静脈注射よりも苦痛が少ない
  • 静脈注射よりも肺水腫や水分過剰となりにくい(吸収速度が落ちるため)
  • 挿入が簡単で、新しい部位に刺し直すのも容易
  • 医療スタッフによる監視や入院が少なくて済むため在宅での使用に適している
  • 看護師による準備と投与が可能である
  • 血栓性静脈炎を起こさない
  • 敗血症の原因とならない
  • 凝血の可能性がないため、クレンメの開閉によっていつでも開始/中止が可能

また、欠点として

  • 1mL/分の速度でしか投与できないので、2ヵ所で同時に投与しても1日あたり3,000mLまでしか投与できない。
  • 電解質や栄養、薬剤の投与は制限される
  • 注入部位がむくむ
  • 局所の反応が起こる可能性がある

といった点を挙げている10)

文献

  1. 在宅中心静脈栄養法マニュアル等作製委員会:在宅中心静脈栄養法ガイドライン(医療者用)、財団法人総合健康推進財団編、文光堂、東京、1995
  2. 高木洋治:わが国における在宅栄養療法の現状と展望、日消誌 100:819-828,2003
  3. Van Gossum A, Bakker H, Bozzetti F, et al. :Home parenteral nutrition in adults: A European multicentre survey in 1997. Clin Nutr 18: 135-140,1999
  4. 工藤大輔、長谷部達也、堤 伸二、小田桐弘毅、袴田健一: 乳癌術後補助化学療法中に皮下埋め込み型中心静脈カテーテルの断裂をきたした1例。 日臨外会誌 69: 2766-2769, 2008
  5. 井上善文、廣田昌紀、阪尾 淳、野村昌哉、藤田繁雄、森 エミ:ポートおよびBroviac catheterを用いたHPN症例におけるカテーテル管理成績。 静脈経腸栄養 21: 1_99-1_105, 2006
  6. 井上善文、廣田昌紀、阪尾 淳、野村昌哉、藤田繁雄、森 エミ:上腕に留置したポートによりHPNを施行した若年者クローン病の1例。静脈経腸栄養 20: 4_25-4_28, 2005
  7. 井上善文:在宅中心静脈栄養法を診療報酬の面から考察する。静脈経腸栄養 19:1_25-1_29,2004
  8. 緩和ケア普及のための地域プロジェクト、ステップ緩和ケアonline:Ⅳ緩和ケアのスキル、5.皮下輸液
  9. 土師誠二、大柳治正。高齢者の静脈栄養管理。静脈経腸栄養 22: 447-454, 2007
  10. MENAHEM SASSON, M.D.and PESACH SHVARTZMAN, M.D.:Hypodermoclysis: An Alternative Infusion Technique、AMERICAN FAMILY PHYSICIAN 64:1575-1578,2001

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