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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
4.CVポートとその埋設術


イムス札幌消化器中央総合病院 消化器内科
              VADセンター 岸 宗佑

岸 宗佑
記事公開日 2021年7月1日

<Point>

• たかがCVポートではない。(「たかがCVポート、されどCVポート」)
 • 目的は、抗がん剤投与、静脈栄養、急速輸液、血管痛予防など多岐にわたる。
 • 技術は、その他の処置につながり、将来性は無限大、
 • がん診療を行う医師には必須の知識。
 • ICが重要。
 • エコー下穿刺が基本。熟練すればランドマーク法でよいということはない。
 • 患者にとっては、一生で一度の処置。
 • 一度の失敗もしてはならないという気持ちで行う。

1.はじめに

「国内でどれほどの方が、CVポート」の存在を知っているのか。
 CVポート埋設術が必要になった際に、御家族・御本人へCVポートの説明をすると「電池交換は何年に1度でしょうか?」と言われることを現在になっても経験することがある。前胸部に埋設する説明をすると、ペースメーカーと誤解されているのだ。まだまだ医療の実際の内容が、一般の方々には知られていないという典型的な1つの形だと気づかされる。
 不整脈の治療に用いられるペースメーカーは、社会全体で啓蒙され続けてきた。電車内での携帯電話使用禁止の張り紙などが代表的なものである。一方、CVポートは、ペースメーカーの数倍も使用されている医療機器であるにも関わらず、広く周知されていない。
 こうした悲しい実情があり、私としてはどうにか一般の方々にも正しい知識が広まればと思っている。私自身、医師としての診療は当然として、life work として「医療を文化にしたい!」という活動を続けてきた。日本の医療環境をよりよいものにするには、現場で医療に携わる医療人だけの努力では限界がある。患者様をはじめ、一般のみなさまに医療の本質を知ってもらう努力が重要だと感じている。そこで、私は、CVポートを含め、すべての VAD(Vascular Access Device:血管内留置デバイス、点滴のルートのこと)を、まず、一般の方々にもよく理解して頂くことで、そこから始まる点滴や治療、疾患について、医療の実際の中身を広く知って頂くことが、よりよい医療への近道だと考えている。
 専門科に細分化された昨今の日本の医療では、なかなか医療の全てを一般の方々が深く御理解することは難しいこともある。そこで、全診療科でも、毎日使用している「 VAD や点滴」という基本的なところから、わかりやすく一般の方々にも知って頂くことで、医療がより身近な存在となり、文化的なものになれればと切に願っている。
 「医療を文化にしたい!」そんな思いを胸に診療しているが、点滴一つから患者に寄り添う医療を実現していきたい。PDNレクチャーは、患者様もお読みになられており、少しでも正しい医療の御理解から、安心した医療を受けて頂く環境づくりに役立てばと思い、CVポートの章をはじめさせて頂く。

2. 日本国内での CVポートにおける医療環境の変化

 

近年、あらゆる悪性腫瘍に対する安全な化学療法の施行のため、さらに、長期の中心静脈栄養法の目的で、CVポートを埋設されることが増えてきている。国内では主に1980年代からCVポートが使用されるようになってきたが、その使用頻度が急激に増えることになったのは、大腸癌患者に対するFOLFOX治療に代表されるような長時間投与する化学療法レジメンが登場してきていることが関係していることは有名である。
 現在、広く使用されている化学療法レジメン(化学療法の薬剤のメニュー)では、長時間投与や複数の薬剤を併用するレジメンが一般的になりつつあり、さらに、経末梢静脈での化学療法で生じうる合併症を予防できる観点からもCVポートを選ばれることが多い。栄養療法や化学療法などに使用されるCVポートについて、その需要が高まっており、PDN としても、CVポートの正しい理解と注意点などについて発信することとなった。
 CVポートは、これまで外科もしくは放射線科の医師により行われることが多い処置であったが、昨今の外科医不足、もともと数少ない放射線科医師に、今後も増え続けるがん患者、栄養障害のある症例に対するCVポート手術をお願いすることは、一層の負担を外科医や放射線科医へ強いることに繋がる可能性がある。
 筆者自身は、内科医であるが、年間約500件ほどのCVポート埋設を施行している。日々、外科的な処置を施行する内科医であれば、内科医でも十分可能な処置である。主治医として、がんを診断し、CVポートが必要になった際に自ら埋設術を行うことができることは、スムーズな治療を実現でき、臨床医として患者への貢献も大きく、診断から治療まで一貫した主治医としての責務を果たせるように考える。埋設術を実際には行わない医師や看護師であっても、CVポートの手術方法や注意点などを理解することは、よりよい管理に繋がる。
 CVポートは、抗がん剤投与目的だけではなく、栄養管理の治療選択としても注目されている。慢性期医療の場で活躍されている先生方からは胃瘻での経腸栄養が厳しく、長期のCVカテーテル留置を余儀なくされ、カテーテル感染にお困りである症例について相談されることも多い。どうしても静脈栄養が必要となる症例については、治療の選択肢の一つとしてCVポートを有効に使用することで、症例によっては安全・安心な医療に寄与する。CVポートは頻用されている医療機器であり、さらに知識を深めることは医療人として求められている。
 栄養介入としては、経口摂取や経腸栄養(胃瘻、PTEG)が第一選択であることは自明であるが、全身状態が不良な症例ほど VAD からの静脈栄養が必要な症例も多く、VAD に精通することで重症患者への経静脈的治療や集中治療も含めて、より多くの症例に貢献できることを実感する。
 私自身、PDN の一員として、鈴木裕先生に御指導を頂いた嚥下内視鏡の技術を活かしながら、摂食嚥下障害のある症例への栄養介入を行なっている。胃瘻やPTEGなどの処置も行っているが、PDNの取り組みの一つとして、嚥下内視鏡に代表とされる嚥下評価、嚥下リハビリの活動は、CVポートにおいても同様に役立っている。特に、内頚静脈アプローチでのCVポート手術の場合、頚部穿刺をするため、「嚥下」に関わる筋群を損傷しない処置が重要であると筆者は考えている。
 本項では Webページのため限りがあり、全ての記載は難しかったが、関心の高い方は、筆者が執筆した「内科医でもできる生食・液性剥離法を用いたCVポート埋設術 Atlas Surgery:嚥下機能評価も含めた総合的な取り組み」(ラウレア出版、Amazon)も、是非、手にとって頂きたい。こちらでは、CVポート手術についてイラストを豊富に盛り込んで記載することができた。なぜ、CVポート手術にも嚥下に関わる筋群の知識が必要なのか、嚥下リハビリを行う ST の活動を阻害しない手術方法が重要であるのか、患者の人生・生活を考えたCVポート処置法の考案が必要なのか、300ページ、フルカラーで作成したものである。興味がある方は、手に取って知識の整理をして頂きたい。
 最近では、CVポート埋設術を受ける患者様が、事前に私の教科書をお読み頂き、どんな処置が行われるかイメージしてきたという方へ CVポート埋設術を行ったことがある。埋設術は約5分以内で終わる短時間な処置であるが、その5分間であっても患者様にとっては知識があるだけで安心した治療の時間となる。
 本章は、全診療科医師、そしてCVポートを扱う看護師、放射線科技師、薬剤師等、全ての医療者へ向けて作成した。さらに患者様にも、CVポートに関わる医療知識がわかりやすく伝わるように心がけて記載した。最後まで、お読み頂けると幸いである。

3. CVポート埋設術における心得

 

たくさん処置をする医師にとっては、CVポート埋設術は、医師人生の中で数千回行う処置のうちの1回かもしれない。しかし、患者様にとっては一生で一回の処置である。がん医療を専門とする医師にとっては、完治を目指し患者様へ治療していくのは当然だが、もしも残念ながら完治に至らない場合でも、文字通り、最後まで「患者様に寄り添って」いく貴重な「パートナー・相方・バディー」となるのが、この「CVポート」だと筆者は考えている。
 「一針入魂」の気持ちをもち、芸術品を創る気持ちで、1例1例の処置を施行している。患者様の体型、解剖学的な所見、疾患の状況にあった部位を選定し、患者の希望を第一に処置に努めている。是非、研修医や若手の医師においては、これからは同じ気持ちで処置を施行して頂きたい。CVポート埋設術を軽んじることなく、しっかりと身につけ、さらに高度な専門領域の処置も、同様に気を引き締めてトレーニングして頂きたい。

図1 嚥下内視鏡の様子      
図1 嚥下内視鏡の様子

4. CVポート の構造

4.1 CVポートについて

医療関係者では、「ポート」と略されることが多い器具および処置であるが、日本国内では、CVポート(Central Venous Port)と呼称されることが多い。医療現場では、ポートと呼称されてしまうことが多いが、日本では動注ポートなど様々なポートシステムが存在する。本項では中心静脈に留置されるポートについて記載するため、「中心静脈ポート:CVポート:central venous port」と記載する。
 構造は、非常に単純な構造であり、図に示す通りである。①カテーテル、②ロック(接続部)、③チャンバー(内室)、セプタム(内室の天井部で穿刺される部)の4つから構成される。
 それぞれの材質は、カテーテルはシリコン製もしくはポリウレタン等でできているものが多く、最近では、クロノフレックスという新素材を用いたものまで販売されている。表面もコーティングされているもの、コーティングが不要なものと様々である。
 耐圧性としてはダイナミックCTを初めとする急速注入が可能なCVポートもある。単にCVポートと考えず、CVポートに性能の差があることも理解し、患者の使用目的に合わせて、よりよい製品が使用されることが望まれる。
 筆者も、あらゆるメーカーから販売されているCVポートを埋設してきた経験があるが、その時代ごとで最良と考えられる製品を選択してきた。本章を執筆するに当たり、処置の具体的なポイントを画像付きでお示しするため、現在、使用している、パワーポート®(グローションタイプのパワーポート® およびオープンタイプのパワーポートクリアビュー®)を本書では代表例として解説に用いる。
 CVポートを使用する場合、ヒューバー針という専用の針で穿刺する。通常の針ではセプラムに針の内腔の形通りに円形の穴を開けてしまうことになる。必ず、ヒューバー針を用いて頂く。

図2  CVポートとロック
図2 CVポートとロック(パワーポート®添付文書より引用)
図3  CVポートの構造と専用の穿刺針:ヒューバー針
図3 CVポートの構造と専用の穿刺針:ヒューバー針
図4  パワーポートのパルペーションポイント(3点突起)
図4 パワーポート®のパルペーションポイント(3点突起)

4.2 カテーテルについて

CVポートのカテーテルには、オープンエンドカテーテル、グローションカテーテルの二種類が存在する。本項で代表的なものとして使用しているパワーポート®はグローションカテーテルであり、パワーポートクリアビュー®は、オープンエンドカテーテルである。グローションカテーテルとオープンカテーテルのそれぞれに利点と欠点が存在する。
 まず、グローションカテーテルの利点としては、使用しない場合、先端には逆流防止弁が付いており、理論的には逆流しない構造である。点滴が滴下する時に先端のスリットが押し広がり、点滴が流れる仕組みになっている。さらに、ある程度の力で陰圧をかけると逆血確認や採血が可能となり、大変優れた構造である。
 一方、オープンエンドカテーテルは、文字通り血管内にオープンの状態で留置されており、ある程度、血液が逆流する可能性も否定はできないため、基本的にはヘパリン添加生理食塩水でのロックが必要となることが多い。しかし、オープンカテーテルであっても生理食塩水でのロックが可能と添付文書記載を変更しているメーカーもある。日々。更新される添付文書内容については各メーカーからのより一層の啓蒙活動が必要と感じている。私たち医療者はCVポートの取扱いには各CVポートの特性を理解して行っていくことが必要である。

図5  オープンエンドカテーテルとグローションカテーテル
図5 オープンエンドカテーテルとグローションカテーテル
 

左図は、オープンエンドカテーテル(クロノフレックス製)、右図はグローションカテーテル(シリコン製)である。グローションカテーテルにはスリットの切れ込みが確認できる。いずれもメディコン社(BD社)から販売されているCVポートカテーテルであるが、カテーテル先端にもこうした違いがあるため、使用されているポート部分の構成だけではなく、カテーテルについての材質と構造を理解する必要がある(画像は筆者撮影)。

図6  パワーポートスリム(左) とパワーポートクリアビュー(右)
図6 パワーポートスリム®(左) とパワーポートクリアビュー®(右)
 

左はパワーポートスリム®で上腕への埋設目的に筆者が使用しているCVポートである。右は、パワーポートクリアビュー®であり、金属を全く使用していないCVポートである。画像検査でのアーチファクトもなくなり、金属アレルギーの患者にも安心して使用でき、筆者は前胸部、腹部、大腿部へ埋設する症例では使用している。いずれのCVポートも白色のカテーテルであり、クロノフレックス製のオープンカテーテルである。よって、しばらく使用しない場合にも1ヶ月に1度はフラッシュをすることでカテーテルが閉塞することを予防して管理する。急速注入にも耐えられる頑丈な構造であることが特徴であり、ダイナミックCT撮影も可能である。セプタム表面に3点の突起があるため、埋設されたCVポートを皮膚の上から触診して探すときに有効であり、センプタムの中心ばかりでなく、広く満遍なく穿刺位置を狙って変えられるため、セプタムに穴があくことを予防するデザインであり、筆者は用いている。

図7  パワーポート
図7 パワーポート®
 

パワーポート®は、筆者は前胸部、腹部、大腿部へ埋設する症例で使用している。カテーテルが青色であることが特徴のCVポートである。カテーテルの先端がグローション機構(弁付き)となっており、しばらく使用しない場合、3ヶ月に1度の生理食塩水でのフラッシュで管理できるものである。閉塞しやすい症例や、ヘパリンロックをしたくない症例、化学療法のレジメンとして1ヶ月以上投薬しない期間がある症例、点滴投与が頻回ではない症例などは、このCVポートを埋設している。
 パワーポート®、パワーポートクリアビュー®、パワーポートスリム®は、いずれも「パワー」という名称であるが、いずれも、ダイナミックCTも可能であり急速注入にも耐えられる頑丈な構成であることが特徴を示したネーミングである。
 セプタム表面に3点の突起があるため、CVポートの位置がわかりやすく、反転していないことを確認して穿刺できる。意外に知られていないことだが、セプタムにある3点の突起部分を穿刺しても構わない。突起の部分までがチャンバーという輸液を注入するスペースが確保されており、広い穿刺可能範囲が存在する。突起を避けて、中心部ばかりを穿刺している看護師もいるが、ヒューバー針を差し替えるタイミングで、日によって、左上、右上、下側と3点の突起周囲を穿刺したり、中央を穿刺したりと、穿刺される皮膚の状況を見ながら行うとよい。広く満遍なく穿刺位置を変えることで、CVポートの寿命も伸びるため、長期合併症予防に機能的なデザインであり、筆者は用いている。

5. 院内ガイドラインの策定と VAD センター(CVC センター)

 

CVポート埋設術は、当然ながら、CVCやPICCが安全に留置できる医師でなければ、埋設術を行うことはできない。よって、CVポート埋設術を行う前に、CVCを含めた VAD での医療事故を予防するため、医療安全を確立するため院内ガイドラインの策定が望ましい。どういった方法で行うべきかのマニュアル作り、院内ライセンス制度(特に研修医指導目的)等の設定も特に研修医指導病院では設定が望ましい。場所は透視下で原則行うべきであり、救急カートを近くに設置している環境であることなどが重要である。一般的には、これまで大学病院などで CVC センターとして呼称されている取り組みであり、急性期病院ではすでに稼働している病院も多くなってきたが、まだまだ導入されていない施設もあり、多くの病院で稼働されることを望む。
 また、当院では、あらゆる VAD に対応し、他院からの処置依頼も受けており、VAD センターと呼称している。VAD センター独自のものとして、院内で施行した VAD 処置を全ての電子カルテ端末からも一覧で見ることができるようにしている。無料の表計算ソフトが各端末に導入されており、一覧表としてまとめておくことで、留置日や治療目的、抜去日と抜去理由がわかり、感染管理の観点からも役立っている。
 これまで急性期病院では、こうした取り組みは当然行われてきたが、令和2年の診療報酬改定からは、療養病棟入院基本料についても、中心静脈カテーテルの感染症の発生状況を把握することが盛り込まれた。今後、国内では急性期病院だけでなく、全国のあらゆる病院において VAD 関連のこうした取り組みが求められており、その重要性は高まっている。

6.インフォームドコンセント:IC(Informed Consent)

 

CVポート埋設術は処置時に合併症が起こった場合、致死的な合併症が伴う処置である。さらに、CVCやPICCとは異なり、年単位の長期留置されるVADであるため、処置時のリスクだけでなく長期的なリスクとその時の対応についても、事前のIC(Informed Consent)は必須である。CVCやPICCの章でも記載したが、ICの中身を考えていきたい。医療の世界では、「ICする」という言葉が一人歩きしているが、ICとしては患者様側と医療者側の理解があり、その上で、処置やリスクに同意され、代替となる治療選択肢など、患者についての現状に話あいがもたれることが重要である。決して医療者側からの一方的な伝達ではない。筆者自身が、CVポートのICの際に、まず感じることは患者側が「点滴」について詳しくないという事実である。点滴スタンドに吊るされた点滴を見ても、患者様御自身は点滴の中身がどんなものであるのかはわからず、点滴に差があること、末梢静脈輸液、中心静脈輸液に違いがあることなど、そうした医療者側は当然知っている知識が、患者の多くが知られていない。よって、まず、筆者としては以下の順番で話をするようにしている。

• 患者の現状
• 治療結果
• 今後、予想されている治療内容
• 点滴剤の種類
• 末梢静脈と中心静脈の違い
• CVポートは点滴の箱です。電池は入っておりません。
• CVポート の処置リスク。
• 処置中に、処置とは関係のない併発症状が出た場合も対応すること。
• CVポートの長期的なリスク
• メリット・デメリット
• 代替治療選択肢
• 同意書
(患者と医療者側の知識の差を埋めることがまず必要!)

  筆者自身は、以上の流れでICの場を持つようにしている。一方的な伝達にならないように、まず、最低限の医療知識としての点滴の種類、末梢静脈と中心静脈の違い、治療内容についてお話しする。お互いの知識レベルを最低限揃わないとICは成立しない。できるだけわかりやすく患者様に医療の実態を伝えて、お互いの理解が合わさって治療を決定していくスタンスを取るべきである。CVCなどとは異なり、緊急でCVポートを埋設する必要はないため、必ず、事前にICによる相互理解を取れるように心がけたい。
 現在(執筆時、2021年 4月現在)、新型コロナウイルス感染症の流行により、ICの環境を築くことが以前より難しくはなっているが、だからこそ、患者自身や御家族の不安は高まり、医療者側はICの重要性がさらに高まっている事実を認識して対応することが望まれる。長期入院で面会もできないことから、TPN目的で入院治療している症例であれば、CVポート埋設を行い、自宅での在宅医療を望まれるケースも経験するようになった。医師としては、できるだけ、わかりやすい言葉で、まず医療の本質を伝え、点滴の違いや末梢静脈と中心静脈について、さらに治療内容など、患者・御家族にお伝えして頂きたい。筆者は、「CVポートは点滴の箱です。」とイラスト図を示しながら説明している。こうしたICの工夫から、ペースメーカーとは異なり、電池が入っておらず、電池交換は不要であることも患者や御家族には簡単に理解され、その後も知識として残るように思う。患者様も知識が深まることで、不安が減り、よりよいICへ繋がり、医療の質も高まると考える。

図8 患者様への御説明とIC(インフォームドコンセト) 風景:
図8 患者様への御説明とIC(インフォームドコンセト) 風景:
患者様の不安や緊張を緩和し、悩みや質問、希望をお話ししやすい環境づくりに努める。

7. 準備

7.1 準備の流れ

まず、CVポート手術における一連の流れを理解して頂く。当院では、CVC、PICCそして、CVポートなどの中心静脈へのVAD処置は、全例で事前に血管エコー検査を施行している。血管走行や血栓の有無、血管 anomaly などを事前に把握することは重要である。特に、CVポート症例では 事前のCT検査は重要であり、CT検査では穿刺部位だけでなくカテーテルが走行する上大静脈までに縦隔や肺に病変がないか、甲状腺および副甲状腺やいずれの血管にも異常がないか、リンパ節転移がないか、bulla等の肺気腫性病変や気胸がないかなども評価する。大腿部アプローチでは、鼠径リンパ節が穿刺ラインにないか、腸管の逸脱がないか、大腿ヘルニアや鼠径ヘルニアがないかなども確認する。

<CVポート手術に必要な技術と知識>
• 準備:スタンダードプレコーション
• 手術器具
• 手術中のモニター
• エコー下穿刺
• 皮膚切開、縫合
• 動脈性出血の対応
• 皮下ポケットの作成
• トンネラーを用いたトンネリング処置

 手術を始める前に、心電図、血圧、SATモニターを患者に装着し、バイタルをモニタリングできる環境とする。その後、術野の消毒やスタンダードプレコーションの原則に則った感染対策(ガウン、手袋、帽子等)を行う。術前検査でも血管エコー検査を事前に施行しておくことをお勧めするが、手術日当日に脱水による血管虚脱や頚部リンパ節腫大など、穿刺部位の所見が変化していることも経験するため、筆者は、術前検査で安全と考えられる症例においても、患者が手術室に入室後、消毒を行う直前に必ず、再度血管エコーを行っている。

図9 手指消毒  マキシマルステラルバリアプレコーション9
図9 手指消毒  マキシマルステラルバリアプレコーション
(MSBP : maximal sterile barrier precautions)

7.2 手術野の消毒

ここらかは、パワーポート®を用いた内頚静脈穿刺による前胸部埋設を例にして説明する。各施設で推奨されている消毒薬を使用して頂きたい。内頚静脈アプローチでの前胸部埋設の場合には、頚部全体はもとより、前胸部の手術野を広く消毒する。ポビドンヨード(イソジン®)の場合、手術部位を中心に同心円状に広く消毒し、前胸部の皮切ライン予定部からも同心円状に消毒をして比較的広い範囲で消毒する。鎖骨上窩や鎖骨下は凹みになっており特に入念に消毒する。ポビドンヨード(イソジン®)は、広範囲に長時間使用しないようにすることが重要である。イソジンを用いた場合、稀ではあるが、術後皮膚の発赤が生じる症例を経験する。化学熱傷と言われる接触性皮膚炎を呈した症例も筆者自身は経験している。頚部の皮膚は薄く、繊細な方もおり、発赤、熱感を伴う症例では、のちに水疱形成まで生じることがあるため、消毒剤の選択には注意して頂きたい。
 当院では、感染対策と合併症の予防から、CVポート埋設術に、オラネキシジン(オラネジン®)を使用している。オラネキシジン(オラネジン®)は、消毒薬としては、約50年ぶりの新薬であり、日本にて新しく開発された消毒薬であるため、近年注目されている。一般的な細菌のみでなく、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐腸球菌)、緑膿菌、セラチア、セパシアまでも強い殺菌力を有する消毒薬でありながら、アルコールを使用していない製剤であり、水に溶かした製剤であることが特徴である。アルコールに過敏な患者やポビドンヨード(イソジン®)で皮膚炎をきたす症例には安全性が高く、メリットがある。筆者はCVポート手術では電気メスは使用しないが、その他、電気メスなどを使用する手術においても、アルコールを含まないため、引火のリスクもなく安全である。滅菌密封されているキット製剤であり、写真の通り、おにぎり型の三角形のスポンジのフォームに接続された器材であるため、力強く消毒を行うことが可能である。CVポート手術では、頚部から鎖骨、そして前胸部までの凸凹した部位を消毒するため、おにぎり型の三角形のスポンジのフォームが、こうした部位の消毒には用いやすい。アルコール製剤ではないため、アルコールにアレルギーがある患者に対しても安心して使用でき、一番小さなサイズの10ml製剤でも、1本で約1290 m2 (約26x50 cm)の広い面積の消毒が可能である。
 なお、全ての消毒薬に共通することだが、アレルギー反応や皮膚炎、化学熱傷などは、いずれの薬剤にも生じうる可能性があり、消毒処置後は注意深く観察し、副作用が生じた際には迅速に対応することが望まれる。CVポートは、手術のみならず、その後の管理が重要であり、有効な消毒薬を用いた感染管理を行うことが望まれる。

>図10 当院で使用しているアルコールフリーのアプリケーター消毒薬      
図10 当院で使用しているアルコールフリーのアプリケーター消毒薬(オラネキシジン®

8. 埋設部位の決定

 

CVポート埋設術は、穿刺血管と埋設部位の決定により患者に合わせて選択される。穿刺血管としては、内頚静脈、鎖骨下静脈(腋窩静脈)、大腿静脈、上腕の静脈が代表的血管である。埋設部位は、前胸部、腹部、大腿、上腕の4カ所が代表的な埋設部位である。
 CVポートというと、これまで鎖骨下静脈を穿刺して前胸部に埋設するという処置方法が、最も頻用されてきた。患者の解剖学的なリスクや血栓症などの併存症、治療での生活状況や希望、そして、女性という重要な因子も含めて、総合的な埋設部位の決定が望ましい。
 例えば、胆道・膵臓の悪性疾患の場合や何らかの癌で肝転移をきたした症例など、ERCPという内視鏡処置を頻回に必要となる症例も経験する。こうした場合、前胸部埋設では、うつ伏せ寝で行うERCPの内視鏡手術中に CVポートを用いることはできず、疼痛を生じる原因にもなり、上腕でのCVポートが望ましい場合も経験される。
 女性というファクターも重要であり、乳がん検診に差し支えのない処置を心がけることや女性の衣服は首元のデコルテラインが広く開いたデザインが多いため、頚部から鎖骨下、前胸部に創部が生じることに不快感を示す方も多い。傷を外観から見えにくくする工夫も、女性だけでなく、VIPの方や御自身が癌患者だと知られたくない方からは好評を得ている。
 インフューザーポンプを用いて、3日間、抗がん剤投与を行う患者では、筆者が考案した方法として「腕ケモ:Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy」も施行している。これは前胸部にCVポート埋設した場合でも可能である。スマートフォンをランニング中に上腕につけるポーチなどを用いて上腕部に化学療法のインフューザーポンプを装着して過ごす化学療法スタイルである。特に、筆者は上腕外側にCVポート埋設(LOVE surgery)をしているが、そうした場合には、上腕でCVポートも化学療法のインフューザーもまとめることができ、事故抜針のリスクを軽減できる。(後述の、「9.5 上腕の静脈・LOVE surgery・腕ケモ」の項を参照)。化学療法中の患者様の生活まで考えた、新しい治療スタイルとして、「腕ケモ(ウデケモ)(沖縄では、ワンケモ)」として報告している。Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy とも呼んでおり、上腕に身につける化学療法スタイルとして、実践されている患者様からは高い評価を頂いたことがある。
 また、CVポートはヒューバー針で穿刺し、治療後は抜針するため、ヒューバー針の抜去者も重要である。がん患者で抗がん剤投薬後の抜針を御自分でされたいという方であれば、前胸部埋設が自己抜針はしやすい。また、緩和病棟などで、前胸部で埋設されたCVポートしか取扱った経験がない施設であれば、前胸部が望ましい。
 より多くの患者に対応するためにも、様々な部位への埋設方法を身につけたい。筆者自身の経験では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者様で、臥位になると呼吸が止まりかけてしまうため、座位のままで24時間治療生活されている患者様へのCVポート依頼を受けたことがあった。前胸部埋設では、臥位にして手術することが必要であるが、上腕へのCVポートであれば、車椅子のままでも手術が可能であり、安全に処置が可能であった経験もある。神経難病や臥位になれない円背の高齢者などであっても、車椅子には座れる症例であれば、上腕埋設が可能である。患者を断らない医療のためにも、様々な治療法を身につけることが必要である。
 CVポート埋設というと鎖骨下静脈穿刺での前胸部埋設の1つのみという固定概念ではなく、患者の状況、治療レジメン、患者の希望、美容的側面、抜針者、今後治療予定の病院の管理状況など、様々な因子を考えて、患者一人一人にあったCVポート処置を心がけて頂きたい。より多くの患者に対応するためには、1つだけではなく、あらゆる治療方法が実践できることが求められる。
 筆者が行なっているVAD処置を「オーダーメードVAD、テーラーメードVAD」と評価してくださっている先生方もいるが、患者一人一人の希望や状況は異なるため、点滴1つの処置方法から、患者の生活を考えて処置を行なうことが必要である。

9. 血管選択

9.1−1 内頚静脈

筆者自身は、前胸部埋設であれば、第一選択として選ぶ血管である。解剖学的に注意することは、総頚動脈、外頚静脈、頚部リンパ節、甲状腺・副甲状腺腫瘍の有無、神経叢、左であれば胸管合流部、そして、周囲の頚部筋群(胸鎖乳突筋、斜角筋、肩甲舌骨筋等)である。
 メルクマール法、エコー下穿刺法などの穿刺方法が考案されており、昨今、医療事故の報告や医学教育から、現在では、ほとんどの症例で、エコー下穿刺で施行されていると信じたい。これまで、エコー下穿刺をされていない医師にとっては面倒に感じることも多いかもしれないが、今後は、必ずエコー下穿刺法にて施行して頂きたい。エコーを使用するメリットとしては、上記にあげた組織・臓器の配置状況をリアルタイムに得ることだけでなく、穿刺針を常に描出しながら穿刺できるため、安全は高まる処置方法である。エコーが処置に頻用できなかった時代ならともかく、現代を生きる医師としては必ずエコー下でCVポート埋設術は施行して頂きたい。
 エコーを使用しても針先を常にエコーで描出できる技術がないと、針の途中をエコーで描出し、そこが針の先端だと勘違いすることで、過度な深さに穿刺針が進んでいることもあり、エコーを使用すれば安全という訳ではない。あくまでのエコーは画像評価に過ぎず、手元の針の深さを感じながら、エコーを使用する技術を高めることが必要である。
 これまでのエコーを使用しないメルクマール法でも、技術と経験があれば大丈夫と言われる医師も存在するが、99%大丈夫でも、100回に1回でも合併症が起これば、患者にとっては一生で一度の処置であり、そうした考えは許されない。エコーを使用しても合併症が報告されている事実(医療事故調査支援センターから報告された医療事故の再発防止に向けた提言の記念すべき、 第一号、第一報の第一提言を医師として重く受け止め、医療事故再発防止のために努めたい。
 穿刺方法としては、胸鎖乳突筋と内頚静脈との位置関係についての検討は多数されており、正中アプローチ、前方アプローチ、後方アプローチ、鎖骨上アプローチなどが一般的には用いられている。筆者としては、これらに追加として、生食・液性剥離法(Atlas法)を行うことで、通常は穿刺経路に筋肉などの組織が介在する症例でも、生理食塩水の局所注射により筋肉などを穿刺経路から外すことができ、既存組織を損傷しない方法を用いている。


• 正中アプローチ:胸鎖乳突筋の筋間(胸骨頭と鎖骨頭の間)から同側乳頭方向へ穿刺
 • 前方アプローチ:胸鎖乳突筋の乳様突起部と胸骨付着部の中間から同側乳頭方向へ穿刺
 • 後方アプローチ:胸鎖乳突筋の鎖骨頭の外側端から胸骨陥凹へ穿刺
 • 鎖骨上アプローチ:鎖骨上の斜角筋間から内頚静脈へ向けて穿刺
 • 生食・液性剥離法(Atlas法):生理食塩水を筋肉近傍の結合組織へ局所注射し筋肉などの組織を穿刺経路から移動させる方法

 

初めの4つの穿刺方法を用いても、実際には、完全に筋組織を避けて穿刺することが困難な症例も多数経験する。筆者自身は、いずれの4つの穿刺経路でも筋組織が介在する症例では、神経叢など周囲の組織を損傷しない部位であることを確認し、問題がない表層部位から筋肉近傍の結合組織まで、生理食塩水を局所注射することで、筋肉などの組織を穿刺経路から一時的に移動させることができる方法(生理食塩水を用いた液性剥離法:Atlas 法)を考案し、必要な症例では施行している(「内科医でもできる生食・液性剥離法を用いたCVポート埋設術 Atlas Surgery」(ラウレア出版、Amazon))。一時的なCVCでは、筋肉を貫通したCVC留置は大きな問題とならないことも多いが、CVポートなどの長期留置を行うVADでは、筋肉を損傷しない留置処置の効果は、患者の治療生活に大きく関わるため、生理食塩水を用いた液性剥離法:Atlas 法を考案してからは、患者からは好評を頂いている。詳細は、「9.1−4. 生理食塩水を用いた液性剥離法(Atlas 法)」にて後述したい。

9.1−2 肩甲舌骨筋を損傷しない重要性

内頚静脈アプローチでのCVC留置では、総頚動脈と胸鎖乳突筋との位置関係を比較した検討は多数報告されている。その他の臓器損傷も、致死的合併症ではなくても患者の治療生活に大きく関わるため重要と考えている。CVC留置を日々行なっている医師の中では、CVC留置した患者から経口摂取をするときや飲み物を飲む時、寝ている時など頚部に引っ張られる違和感を訴えられ、CVCを抜去してほしいと申し出されたことはないだろうか。そうした経験を元に、後ろ向きに患者を検討したことがあるが、多くの場合、肩甲舌骨筋を損傷、もしくは貫通してCVCが留置されている症例であることを経験している。これまでもCVC留置の事前検査でのエコー検査の重要性は知られていたが、肩甲舌骨筋を損傷しない留置処置の重要性はあまり知られていない。
 肩甲舌骨筋は、肩甲骨と舌骨を結ぶ二腹筋であり、必ず内頚静脈の前側・表層を走行する筋肉である。CVCやCVポート留置を行う前に必ずエコーで、肩甲舌骨筋を見ている医師は全国でどれほどいるだろうか。明日の診療から、必ず確認して頂いてから頚部穿刺処置を行なって頂きたい。
 誤嚥リスク評価、嚥下リハビリテーションというと、舌骨より上の舌骨上筋群が注目されているが、舌骨下に存在する肩甲舌骨筋は、頚部穿刺処置を行う医師にとっては非常に重要な筋肉である。CVC、CVポートだけでなく、PTEGなど頚部の穿刺処置を施行する医師にとっては重要な筋肉である。もしも、肩甲骨舌骨筋を貫通してデバイスを留置されると、その部位がアンカーとなり、舌骨の可動を妨げ、患者の不快な症状につながっていると筆者は考えている。嚥下内視鏡に力を入れている PDN だからこそ、PEGやPTEGだけでなく、VADも含めて、嚥下機能を大切にする気持ちを持って処置を施行したい。肩甲骨舌骨筋は、頚部穿刺処置では、完全に避けられることができる筋肉であることを筆者は報告しており、明日からの診療に生かして頂きたい。

9.1−3 内頚静脈穿刺の合併症

総頚動脈への誤穿刺ではプラークの移動で脳梗塞などの脳血管障害を起こす可能性があり、肺への誤穿刺では気胸や血胸のリスクがある。その他、頚部に腫瘍性病変がある場合、リンパ節損傷をきたした場合にはその影響がある。穿刺が静脈の血管外となった場合、ガイドワイヤーが縦隔に進むことで縦隔炎、縦隔損傷をきたす可能性があり、そのままカテーテル留置を行うと抗がん剤や高カロリー輸液が縦隔や胸腔へ流れることで致死的な合併症を引き起こす。
 穿刺がうまく静脈内にできても寝かせた角度で穿刺し、ガイドワイヤー留置後にダイレーションを行う際に抵抗がある場合、そのままダイレーションを行うと内頚静脈を引き裂く形に力が加わり、致死的な静脈損傷が起こる可能性がある。
 内頚静脈の尾側にはチューリップの花びらのような大きな静脈弁をもつ症例も経験されるが、静脈弁を穿刺する形で穿刺されると2つの合併症が想定される。1つは、そのまま外筒を留置し、ガイドワイヤー留置が完了し、ダイレーションを行った後にカテーテルを進めると抵抗を感じるが、そのまま力任せに処置を行うと静脈弁の損傷から静脈損傷が起こることである。2つ目は、そのままカテーテルが留置できても静脈弁の損傷から血栓の形成が起こり、肺梗塞などの原因となる可能性や抜去時に癒着のため抵抗となる可能性もある。
 穿刺の角度が適切でなく、さらに、穿刺した針が過度に深くなれば、腕神経叢や頚部神経叢を損傷し、神経障害をきたす可能性もある。
 穿刺部位として、左右どちらを選択すべきかは、できれば、右内頚静脈を選択したい。これは筆者が右利きだからではなく、解剖学的に、上大静脈に対して直線的に走行している右内頚静脈に対して、左内頚静脈は腕頭静脈となり上大静脈に垂直に近い角度で合流しているためである。左内頚静脈アプローチでは、カテーテルを上大静脈まで留置すると先端が上大静脈右壁を必ず圧排する。そのようにならないために、先端を左腕頭静脈までで留めておく留置法を実施することもあるが、CT画像と対比してみて頂くとわかりやすいが、左腕頭静脈は心臓の最も前側を走行し、非常に狭いことが多いため、血栓形成をきたすこともある。特に、透析用のブラッドアクセスのように硬く、太いデバイスは血管損傷を起こす可能性あり、左内頚静脈アプローチは基本的には控えるべきである。
 CVCやCVポート留置は、内視鏡や腹腔鏡など、何か別の器具を介して行う処置ではなく、医師の手先の感覚が非常に重要な処置である。穿刺時には針先の感覚が重要である。金属針が表皮、真皮、皮下結合組織、血管外膜や内膜などを穿通していくときの感覚、静脈の硬さの違いを感じること、金属針と外筒の僅かな段差を組織が超えていく時の感覚、すぐに毛細管現象で血液が上がってこなくても自信をもって針先の状態を想像できること、ガイドワイヤーから指先に伝わる血管内や上大静脈からの情報を感じることなど、習熟すると器具から術者の手や指に伝わってくる情報が増えていくことを実感する。器具から伝わる感覚を最大限感じられるよう器具の持ち方を工夫することも重要である。穿刺針も術者により様々な工夫をされるが、ガイドワイヤーも血管内に留置したら、できるだけ穿刺部と保持する手までが直線的にして操作することで、ガイドワイヤー先端の繊細な感覚を、できるだけ損なわずに直接、指に伝わるようにすることも筆者が行なっている工夫の一つである。処置中に、透視画像や穿刺針、ガイドワイヤーからの情報など、多くの感覚を生かして患者一人一人の解剖学的特徴を理解しながら処置を進めることが重要である。上記した合併症を理解し、手に伝わる感覚と起こりうる合併症のリスクを想定して、器具の取扱いからテクニックを磨いていくことが求められる。

9.1−4 生理食塩水を用いた液性剥離法:Atlas 法

(Appropriate Tunneling through the subcutaneous Layer with Assistance of Saline injection surgery)

生理食塩水を用いた液性剥離法(Atlas 法)として、筆者が考案した方法であるが、あらゆるVAD処置において有用な方法であり、紹介させて頂きたい。この方法を考案した当初は、筆者が研修医であった時に、内頚静脈アプローチでの前胸部のCVポート手術を行う際に、皮下トンネリング処置をより安全に行う方法はないかと考えた方法である。通常の用手的にトンネラーを押し進めるだけの方法では、症例によっては頚部から鎖骨表面を通り、前胸部までの皮下をトンネリングする処置はやりにくい症例もあり、患者の疼痛の訴えや皮下出血を起こすことが経験された。
 皮下トンネリングする層に、約20ml 程度の生理食塩水を局所注射し、液性剥離を行うことで、トンネリング処置に必要な力が大幅に減少し、小さな力で安全に処置を施行できることを経験した。この方法を用いると、皮下組織が薄い症例でも安全な皮下組織の層を作り出すことができ、その後の管理にもメリットがある。
 低栄養の症例に、そのままの状態でCVポート処置を行うと皮下組織の表層にカテーテルやCVポートを埋設してしまうことがある。栄養介入が成功して皮下組織、皮下脂肪が厚くなった場合、カテーテルやCVポートが表層近くに押し出され、潰瘍形成となることがある。浅い層に埋設されていると、ヒューバー針が浮遊する原因となり、事故抜針も誘発してしまう。
 胃瘻(PEG)造設症例でも、栄養状態の変化により同様な所見が経験される。胃瘻患者では栄養状態が改善した場合、皮下脂肪の増大に合わせて胃瘻の長さを長くして調整していくことができるが、CVポート埋設術では、手術時に適切な層に埋設することが非常に重要であるため、その後の管理も考えて、適切な層を意識して埋設するには、液性剥離法(Atlas 法)は効果的であった。
 十分な液性剥離には、約20ml 程度の液量が必要となるため、局所麻酔薬であるキシロカインで同様な処置を行うと大量のキシロカインの注入によるキシロカインアレルギーの併発や、キシロカインが血管に乗ることで不整脈の誘発などリスクも高まる。一方、Atlas法では、生理食塩水を用いることでリスクなく処置を行うことができる。局所注射した生理食塩水は、個人差はあれど、早い方では約5-10分程度で吸収され、遅い方でも約1時間程度で自然に吸収されるため、処置後、問題を生じた症例はこれまで経験していない。
 液性剥離法(Atlas法)は、安全な皮下トンネリングの目的に考案したが、穿刺処置に用いることでより安全な穿刺処置が可能となり、その効果を報告している。内頚静脈穿刺の場合、あらゆる角度から穿刺を試みても、どうしても完全に筋組織を避けて穿刺することが困難な症例も経験される。胸鎖乳突筋の筋間からの穿刺が適切と思われる症例でも、筋間が狭く筋肉を穿通してしまう症例でも、生理食塩水による液性剥離にて穿刺経路である筋間を広げることができ、筋肉の損傷を防ぐことができる症例も経験される。総頚動脈の後側に走行する内頚静脈の場合、後方アプローチ(鎖乳突筋の鎖骨頭の外側端から胸骨陥凹へ穿刺)や鎖骨上アプローチ(鎖骨上の斜角筋間から内頚静脈へ向けて穿刺)を試みても、腕神経叢や頚部神経叢と近い穿刺経路となるため、筋肉を前方へ押し込むように生理食塩水を神経叢とは離れた、筋肉の外側端の穿刺経路となる部位に局注することで、新しく安全な穿刺経路を作り出すことができる。
 通常、内頚静脈穿刺する場合、筋肉などの周囲の組織を損傷せざるをえない症例であっても、生理食塩水の局所注射により、一時的に筋肉や神経などの部位を調整することができ、皮膚−皮下結合組織−内頚静脈と、生理食塩水で液性剥離された新たな穿刺経路を確立することができる。
 この方法は、まず、内頚静脈アプローチでのCVポート手術のために考案したため、生理食塩水を用いた液性剥離法:Atlas 法(Appropriate Tunneling through the subcutaneous Layer with Assistance of Saline injection surgery)として施行している。
 穿刺および皮下トンネリング操作、いずれにも効果を発揮する処置方法であり、生理食塩水を用いるだけであるため費用もかからない方法である。VADだけでなく、PTEGなどの頚部穿刺処置でも有用であり、脳外科領域では、皮下トンネリング処置が必要なV-Pシャント処置にも有用と考えられる。穿刺処置や皮下トンネリングを行う医療処置の際には、取り入れて頂ければ幸いである。

図11 内頚静脈アプローチでの CV ポート埋設術
図11 内頚静脈アプローチでの CV ポート埋設術
図12 Atlas surgery での内頚静脈アプローチでの CV ポート埋設術
図12 Atlas surgery での内頚静脈アプローチでの CV ポート埋設術:(筆者作成イラスト)

(Atlas surgery :Appropriate Tunneling through the subcutaneous Layer with Assistance of Saline injection surgery)
 (出典:「内科医でもできる生食・液性剥離法を用いたCVポート埋設術 Atlas Surgery」
(ラウレア出版、Amazon)より引用)

9.2 鎖骨下静脈(腋窩静脈)

エコーにて描出しやすい症例と描出しにくい症例が存在する。腋窩静脈はエコーにて描出できる症例も多いが、肥満症例は難しい症例も多く、筆者自身は、鎖骨下静脈(腋窩静脈)アプローチは、できるだけ行わないようにしている。合併症として、気胸および血胸という致死的合併症があり、必ず、トロッカーやアスピレーションキットなど胸腔穿刺ドレナージがすぐにできる技術と安全な環境で行われるべき穿刺法である。
 どんなに熟練されている医師でも、鎖骨下静脈(腋窩静脈)穿刺にて気胸を起こされていることを拝見すると、日々、医療事故を起こしたくないと緊張しながらVAD処置を行っている筆者自身にとっては、まだ自分の中で完成された処置とまで至っていない。恥ずかしながら、鎖骨下静脈(腋窩静脈)アプローチを、広く皆様にお勧めすることはできない状況である。
 しかし、感染管理としても患者の生活としてもメリットがある処置方法であり、アプローチとして選択しない医師であっても、基本的な解剖学的知識は身につけておくべきである。
 鎖骨下静脈は鎖骨下筋の後側、前斜角筋の前側と、鎖骨下筋と前斜角筋に挟まれた位置に走行する。前斜角筋の後側に鎖骨下動脈が走行し、その後側に腕神経叢が走行している。よって、この解剖学的知識を持つことで、上述の「9.1−3.内頚静脈穿刺の合併症」でも記載した、腕神経叢損傷などのリスクが、鎖骨周囲の解剖学的な位置関係のために起こることを理解することができる。鎖骨下静脈アプローチを行わない医師であっても理解すべき知識である。
 なお、鎖骨下静脈アプローチで CV ポート留置を行う場合、鎖骨と第一肋骨にカテーテルが挟まれることや、鎖骨下筋をカテーテルが貫通することで、カテーテルが筋肉の収縮に伴い圧迫を繰り返すことで物理的な疲労となり、カテーテル断裂を起こす原因にもなることがある。
 鎖骨周囲の解剖を理解し処置を行うことが VAD 処置全体の安全性に寄与するため、正確に理解したい。鎖骨下静脈(腋窩静脈)アプローチは、ペースメーカー留置でも頻用される血管であるため、特に、循環器内科を志す若手医師には、その処置の習熟が望まれるアプローチである。

図13 鎖骨下静脈アプローチでのCVポート埋設術
図13 鎖骨下静脈アプローチでのCVポート埋設術

9.3 大腿静脈

鼠径部近くの穿刺部位となるため、CVCの場合には、感染リスクが高く、通常は第一選択とならないが、上大静脈に血栓がある症例など、なんらかの理由で上大静脈への留置が望ましくない症例には、下大静脈経由でカテーテルが留置できるため、選択される方法である。
 筆者自身は、大腿静脈アプローチでの CV ポート埋設として、2つの処置方法を考案して報告している。 Fellow surgery(Femoral vein approach following long tunneling to lateral outside implantation with saline injection surgery)と ILIAD surgery(Implantation of VAD from femoral vein looping over the inguinal ligament on the abdominal wall surgery)である。
 いずれの方法においても、穿刺部位、穿刺経路としては、鼠径靭帯よりも尾側で行い、エコー評価の際には、腸管を含んだヘルニア嚢がないか、リンパ節が穿刺経路にないか、大腿動脈は当然として、大伏在静脈を穿通しない部位か、穿刺経路に静脈弁がないか、さらに、可能なら明らかな下肢静脈瘤がないかについても診察したい。大伏在静脈近傍を穿刺しないことは全ての患者に重要なことであるが、もしも、下肢静脈瘤がある症例の場合、RFAやレーザー治療、ストリッピングなどの下肢静脈瘤への治療を行われる可能性もあるため、大伏在静脈結紮などの治療にCVポート埋設術が影響しないように配慮し、より注意した対応を心がけている。
 穿刺を鼠径靭帯よりも頭側で行うと、血腫を作った場合、出血が後腹膜へ進展し、用手的な圧迫止血では止まらない可能性もあり、後腹膜血腫、後腹膜感染の原因になる可能性もある。
 大腿静脈への穿刺が完了し逆血を得られても、ガイドワイヤーが進みにくい場合がある。その場合には、血管外でないかを確認することと、大腿三角は、大腿静脈の中でも静脈弁が発達している部位であり、チューリップの花弁様の静脈弁がガイドワイヤーの侵入を妨げている可能性もあるので、エコーで再評価して穿刺部位をやや尾側から変えるなど、血管の状態を再評価して処置を見直すことも必要である。大腿静脈アプローチだから、簡単であり、すぐに終わるだろうと決めてかからずに、心に余裕をもって処置を進めて頂きたい。
 うまくガイドワイヤーが進んでも、その走行に注意するべきは、総腸骨静脈から分岐する静脈、腎静脈、肝静脈などにガイドワイヤーが迷入することは経験されることが多いと思うが、鼠径部から、尾側方向の大腿静脈へガイドワイヤーが進み、カテーテルが鼠径部から足側の大腿静脈に留置されているCVC症例についてコンサルトを受けた経験がある。これは上述のチューリップの花弁様の静脈弁にガイドワイヤーがあたり、跳ね返り足側へ進んだことが予想されるものである。
 なお、うまくカテーテルを下大静脈に留置したと思っても、カテーテル先端がしっかり swing(浮動して揺れ動く動作を) していることを必ず確認して頂きたい。カテーテルが下大静脈に留置したように見える場合でも、カテーテルが swing していない場合、上行腰静脈への迷入を考えてほしい。私自身は経験がないが、上行腰静脈が発達した症例ではカテーテル迷入の報告がされている。上行腰静脈は、下大静脈に沿って走行しており、迷入した場合でも、あたかも下大静脈に留置されたように レントゲン写真 では見えてしまうことが危険である。血管径が細い静脈に、カテーテルが留置されると pH が中性ではない薬剤や高カロリー輸液のように浸透圧比が高い輸液、血管侵襲性の高い抗がん剤などが投与され続けると、血管炎から血管が破綻し、致死的合併症をきたす可能性がある。
 穿刺を左右どちらの鼠径部から行うかは、できる限り右鼠径部を選択したい。これは筆者が右利きだからではなく、右大腿静脈は、総腸骨静脈となり下大静脈への走行が直線に近いからである。左大腿静脈は、左総腸骨静脈となり、左総腸骨動脈に圧排され下大静脈へ合流するが分岐の角度も大きい。大腿静脈近傍の解剖を考えると、鼠径リンパ節および大腿動脈の医学的な使用価値を理解することも大切である。鼠径リンパ節は悪性リンパ腫などの鑑別目的に外科的リンパ節生検を行う場合、選択されやすいリンパ節である。穿刺時に、腫大したリンパ節が近くにないことを確認することと、リンパ節を損傷するとリンパ瘻を引き起こし、特に、鼠径靭帯より頭側で損傷すると後腹膜感染の原因にもなる。
 大腿動脈は、血液ガス分析検査(以後、血ガス)目的に穿刺されることも多く、 A-line として動脈カテーテル留置されていた症例も存在しうる。その他、心肺蘇生などで経皮的心肺補助装置(PCPS:Perctaneous Caidiopulmonary Support)を留置されることも多い血管である。大腿動脈-大腿静脈の動静脈瘻がないかも、穿刺前に確認すべきである。筆者自身の症例ではないが、血ガス採取を頻回にされた大腿動脈と同側の大腿静脈アプローチでCVC留置された後に、動静脈瘻となり、最終的には心臓血管外科医により外科手術になった症例も見聞きしたことがあり、大腿静脈アプローチといって軽く考えず、こうした合併症を理解して注意して行うべきである。
 大腿静脈アプローチでの CV ポート埋設として、Fellow surgery(Femoral vein approach following long tunneling to lateral outside implantation with saline injection surgery)と ILIAD surgery(Implantation of VAD from femoral vein looping over the inguinal ligament on the abdominal wall surgery)という2つの処置方法を筆者は考案して施行しており、その詳細を記載する。
 まず、 Fellow surgeryについては、大腿静脈を鼠径部で穿刺後、前述の Atlas 法(生理食塩水による液性剥離法)を用いて、穿刺部から膝方向の離れた大腿部まで皮下トンネリングを行い、CVポートを大腿部の末梢側へ埋設する方法である。この方法は、穿刺での合併症リスクが低い大腿静脈アプローチにて行うことができ、汚染されやすい鼠径部にCVポートを埋設するのではなく、鼠径部から離れた、鼠径部と膝の中間の大腿部に埋設できるメリットがある。鼠径から離れた大腿部は、比較的乾燥し、体幹から離れるため温度も低くなりやすい四肢部位である。CVポート穿刺もしやすく、点滴ルートも下肢外側に沿ってテープ固定し、足首の辺り、ズボンの裾から外に出すことで、患者自身も点滴ルートに気にならず管理できる。前胸部埋設すると、自己抜針してしまう認知症の症例などには管理の面でも適している症例を経験する。オムツ管理をされている長期臥床症例などの場合にも、長いトンネリングにより、CVポートはオムツの外側に埋設できるため、感染対策としても効果的である。もしも、CVポートの穿刺部からの感染が起こった際にも、長い皮下トンネリングのため、皮下トンネリングに沿ってカテーテル周囲が発赤することがあり、カテーテル感染に気がつきやすいこともある。カテーテル感染についてはカテーテルに沿って発赤を伴わない症例もあるため、注意深い観察と疑った際には血液培養が必須である。Femoral vein approach following long tunneling to lateral outside implantation with saline injection surgery の頭文字をとって、Fellow surgery と名付けているが、この処置の合併症として致死的なリスクが乏しいことにより、研修医などの Fellow にも安心して行ってもらうことができるとのことからネーミングしたものである。

図14 大腿静脈アプローチでの、大腿遠位部へのCVポート埋設術
図14 大腿静脈アプローチでの、大腿遠位部へのCVポート埋設術:(筆者作成のイラスト) Fellow surgery(Femoral vein approach following long tunneling to lateral outside implantation with saline injection surgery)
 

次に、ILIAD surgery について記載する。なんらかの理由で、大腿静脈アプローチを選択しなければならない症例で、歩行され、自転車に乗られる方など、下肢の運動が激しい症例のために考案したCVポート埋設方法である。この方法は鼠径靭帯の位置と、下肢を屈曲したときにできる皮膚のラインとの間の領域で、大腿静脈を穿刺し、カテーテル留置後に、鼠径靭帯を looping するように腹壁まで皮下トンネリングして、CVポートを腹壁に埋設する方法である。大腿静脈アプローチが必要な症例には、上述した Fellow surgery を選択することでほとんどの症例は問題がない。Fellow surgery は処置のリスクも乏しく、感染対策としても、管理上もメリットがあるが、唯一の難点が、下肢の運動が激しい症例についてはカテーテルが鼠径部で折れ癖がついてしまい、長期使用の場合、カテーテルの疲労的損傷から断裂する可能性がないわけではない。そうした症例にも対応するために筆者が考案し報告している方法である。Implantation of VAD from femoral vein looping over the inguinal ligament on the abdominal wall surgery の頭文字をとって、ILIAD surgery と命名している。さらに、ILIAD とは古代ギリシア叙事詩の1つで、英雄アキレスについて書かれた書物である。足(大腿)からアプローチする方法である Fellow 法の弱点を克服した方法として、足の弱点であるアキレス腱、英雄アキレスにちなんで、この処置方法を命名した次第である。処置方法の命名は覚えないで結構であるが、鎖骨下静脈穿刺のみなど、1つの治療選択肢だけでなく、こうした、様々な方法があることを覚えて頂き、患者様の状態に合わせて取り入れて頂ければ幸いである。

図15 大腿静脈アプローチでの、腹壁へのCVポート埋設術:(筆者作成のイラスト)
図15 大腿静脈アプローチでの、腹壁へのCVポート埋設術:(筆者作成のイラスト)
ILIAD surgery(Implantation of VAD from femoral vein looping over the inguinal ligament on the abdominal wall surgery)

9.4 外頚静脈(番外編)

外頚静脈は、頚部表層に走行しており、症例によっては浮きだって目立つこともあり、穿刺になれれば簡単に穿刺できる血管である。 しかし、外頚静脈は、血管径は細く、鎖骨下静脈と合流する角度もきつく、静脈弁も尾側、鎖骨周囲では発達している症例も経験され、CVポート留置では、筆者は選択しない血管である。長期留置するカテーテルを留置すべきではないと筆者は考えており、お勧めできない血管である。 できるだけ穿刺は避けるべき血管であるが、緊急時における一次的なルート確保のために穿刺される場合に備えて、穿刺テクニックについては、CVCの章(CVCの章:4.4 外頚静脈)に詳細を記載しており、興味のある方は参照願いたい。

9.5 上腕の静脈・LOVE surgery・腕ケモ

9.5−1 上腕の静脈

上腕の静脈で、カテーテル留置が可能な静脈として、尺側皮静脈、上腕静脈(多くは2本)、橈側皮静脈の3種類、4本の静脈がある。埋設部位は、一般的には上腕の内側が多いが、筆者のように外側に埋設する方法もある。前腕や肘部に埋設する方法もあるが、カテーテルが折れ曲り、筆者は前腕や肘には埋設することはしていない。
  穿刺方法は、可能であれば、リアルタイムエコー下穿刺にて施行して頂きたい。ニードルガイドをつけて穿刺することしかできない場合、穿刺経路に神経や動脈が介在する解剖学的位置関係になる症例では処置が困難なことがある。フリーハンドでのエコー下穿刺を自由に行うためには、エコー画像走査の2D画像から、まるで3D-CT再構成を頭の中で行うように、立体的な走行構築をエコー走査でもイメージできるようになってから施行することをお勧めする。
 穿刺処置の成功率を上げるための工夫としては、局所麻酔に2つポイントがある。1つは局所麻酔薬を用意したシリンジ内にできるだけエアー・気泡をなくすことである。気泡が皮下組織に注入されるとエコーが乱反射して深部の描出がしにくくなるため、気泡をできるだけなくして準備しておくことが重要である。2点目は、皮膚の真皮周囲へ注射して皮膚をオレンジの皮様に、ピンと張る状況を作ることで穿刺針が皮膚以深へ進むときに、真皮がたわみ、伸びてしまうことを予防できる。この2点は、初心者こそ気にしないで行っていることが見受けられ、麻酔薬の打ち方が悪く、上腕の静脈への穿刺がうまくできない若手も経験しており、注意して頂きたい。
 これまでの教科書的には、PICCなどの上腕の処置では、通常、駆血帯を巻いて静脈を怒張させて穿刺することが記載されている。筆者自身は、一切、駆血せずにPICCや上腕へのCVポート埋設を行なっている。駆血することで穿刺はしやすくなると考えられるが、駆血により静脈圧は高まり、穿刺針が静脈壁を穿刺した瞬間に周囲組織へ血液が広がり、内出血となる。介助者に、どんなに早く駆血帯をとってもらっても、必ずこの血管周囲への出血はあると考えており、できるだけ低圧の静脈をエコー下で穿刺し、内出血を減らすことで、処置の感染リスクや疼痛の軽減、外観からの青あざの防止などに役立っている。ほとんどの症例で穿刺回数は1回で留置を行なっているが、もしも穿刺が難しい症例の場合、駆血をしてしまうと穿刺部近傍では血腫により穿刺困難となる。駆血しない場合には血腫ができにくく、複数回の穿刺が可能となる。初心者は駆血にて処置を覚えていくが、慣れてくれば駆血をしない筆者の方法も取り入れて頂くとさらに患者へ優しい処置へとつながる可能性がある。
 穿刺血管を探す時に、第一選択となるのは尺側皮静脈である。尺側皮静脈は、穿刺しやすく周囲に神経が併走していることが少なく選択しやすい。しかし、尺側皮静脈は消退している症例や神経が穿刺ラインにある症例もおり、上腕の全ての静脈および周囲の神経、動脈の評価を事前に行って頂きたい。
 尺側皮静脈が発達していない、もしくは、消失している症例では、次に穿刺しやすい血管は上腕静脈である。上腕動脈を挟むように、2本分岐して内側、外側に走行していることが多い。ミッキーマウスの耳のように見えることが通説で言われている血管である。さらに、神経の走行とも近く、熟練していない場合には選択してはいけない血管である。
 橈側皮静脈は、上腕の外側を走行する静脈である。この血管は周囲に重要な動脈や神経も併走しないことが多く、一見すると穿刺しやすい印象もあるが、注意が必要な血管である。中枢側では鎖骨下静脈の頭側から尾側へ降りるように合流するため、合流の角度が直角に近い角度で鎖骨下静脈へ進み、ガイドワイヤーが進んでもカテーテルが進まないことも経験される。血管が細い症例や高齢者の場合など、物理的な力がこの合流部にかかることで遅発的合併症として合流部付近の血管損傷が生じる可能性もある。さらに、血管径が細いため長期留置する CV ポート処置には適さない症例も経験される。よって、橈側皮静脈は穿刺が可能でも、カテーテル留置までの処置に注意が必要であり、留置後も肩周りの疼痛の訴えがないかなど、遅発的合併症に注意した経過観察を行うことが望ましいアプローチ方法である。

9.5−2 LOVE surgery

これまで、通常、上腕のCVポートとしては、上腕の内側にある尺側皮静脈もしくは上腕静脈を穿刺して、同部位近傍の上腕内側にCVポートを埋設することが多い。筆者自身も、この方法で行なったことがあるが、皮膚の薄い上腕内側にCVポートを埋設するとCVポートが外観から目立ってしまう症例を経験している。さらに、抗がん剤目的の症例では、点滴をされている間、上肢を外旋して過ごされる患者も多く、肩が疲れるとの感想もお聞きする。他院にて上腕の内側にCVポートを埋設された慢性期疾患の症例では、事故抜針を繰り返した症例も経験している。
 新たな処置方法として、上腕の背側の皮下脂肪をトンネリングして、上腕外側にCVポートを埋設する方法(LOVE surgery:Lateral Outside brachial implantation Via (effective) Edematous subcutaneous dorsal tunneling with saline injection surgery)を考案し、筆者は施行している。
 穿刺血管は、上腕内側(尺側皮静脈もしくは上腕静脈)からアプローチし、埋設部位を上腕外側としたものである。CVポートは、長期カテーテル留置するため、少しでも径の太い血管に留置することが望ましく、上腕内側(尺側皮静脈もしくは上腕静脈)を選択したい。埋設部位は、上腕外側に埋設することで、点滴中および通常生活時の患者様の感想としても好評であり、事故抜針も防ぐことができる。ERCP等のうつぶせ寝での内視鏡手術においても、上腕外側に埋設する場合には処置中に使用することも可能となる。以上から、この方法を考案し施行している。
 カテーテルの皮下トンネリングは、上腕の背側であれば、厚い皮下脂肪の中をトンネリングでき、外表からはわからず患者の異物感の訴えも少ない。上肢の運動にも制限がない。一方、外側までの皮下トンネリングを上腕の前側にした場合、上腕の屈曲時には上腕二頭筋が収縮するときにカテーテルが皮膚側へ押し出され、患者によっては異物感を感じることや美容的に優れないこともあり、筆者は背側での皮下トンネリングを選択している。
 医学的な利点としては、胆道・膵臓の悪性疾患の患者、もしくは、何らかの癌で肝転移をきたした症例など、ERCPといううつ伏せ寝で行う内視鏡処置が必要となる症例にはメリットがある。こうした症例では前胸部に埋設された場合、うつ伏せ寝で行うERCPの内視鏡手術中にはCVポートを用いることはできず、疼痛を生じる原因にもなり、上腕のCVポートが望ましい場合も経験される。女性であれば、マンモグラフィーによる乳癌検診を受けられるが、上腕に CV ポートがあると影響なく検査が施行しやすい。LOVE surgery では上腕外側の頭側に埋設するため、上腕での血圧測定も可能である。乳癌患者の場合、腋窩リンパ節郭清などの影響もあり、上肢のリンパ浮腫予防のため患側の上肢は基本的に採血も禁止、血圧測定も禁止されることが多いため、健側の上肢が貴重な存在である。健側の上肢にCVポートを埋設しても、LOVE surgey であれば外側の頭側に埋設するため、これまで通り上肢で血圧測定も可能であり、医学的なメリットも大きい。
 また、自動車を運転される患者様では、前胸部のCVポートがシートベルトにあたり、上腕への入れ替えを希望されて筆者の外来を受診された患者もいる。患者のQOL、生活の質を落とさないことまで考えた CV ポート手術部位の選択が望ましい。
 LOVE surgery は、乳癌および膵癌の治療が必要な患者様の主治医になる機会があり、その患者様の希望を叶えるために筆者が考案したものである。命名は、LOVE surgery:Lateral Outside brachial implantation Via (effective) Edematous subcutaneous dorsal tunneling with saline injection surgery と、その手術様式の英語の頭文字をとってであるが、がん患者に愛を持って治療するという気持ちを込めてのネーミングである。
 がん治療はまるで、冒険に出るようなものだと筆者は感じることがある。がん患者が、「治療の旅:cancer journey」を始めるスタートに、筆者が埋設したCVポートが、治療の貴重な「パートナー・相方・バディー」となれるようにと気持ちを込めて日々、処置している。
 幸いにも、LOVE surgery は、乳癌患者様を始め、多くの女性患者様から好評を頂いている。女性というファクターは重要であり、当然であるが患者様の約半数は女性である。女性の衣服は男性の衣服と異なり、下着も上着も首元のデコルテラインが広く開いたデザインが多い。上腕の処置では、頚部や前胸部に傷がないため、通常の生活でも衣服を気にせず、ネックレス等の貴金属を身につける患者様からも、おしゃれを続けられるとの感想をお聞きした経験がある。LOVE surgery のように半袖でもCVポートや傷が外観からわからない位置に埋設することは、女性患者のみならず、VIP など、自身が患者であることを他者にできるだけ知られたくないという希望をもつ患者様からも評価を頂いている。
 患者の希望は様々であり、一人一人にあった処置に努めたい。

図16 上腕アプローチでの、上腕背側トンネリング、上腕外側へのCVポート埋設術:
図16 上腕アプローチでの、上腕背側トンネリング、上腕外側へのCVポート埋設術:

LOVE surgery:Lateral Outside brachial implantation Via (effective) Edematous subcutaneous dorsal tunneling with saline injection surgery
(出典:筆者がスーパーバイザーをつとめている、大浜第一病院 CV ポートセンターリーフレットより引用)

9.5−3 腕ケモ:Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy

インフューザーポンプを用いて、約3日間、抗がん剤投与を行う治療(FOLFIRINIX、 FOLFOX、 FOLFIRI 療法など)では、筆者が考案した方法として「腕ケモ:Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy」も提案している。iphone などのスマートフォンをランニング中に上腕に装着するポーチを用いて上腕部に化学療法のインフューザーポンプを装着して過ごす化学療法スタイルである。スマートフォンポーチは、スポーツ用品メーカーから、様々な種類が販売されており、患者様の好みに合わせて、様々な価格帯から選ぶことができる。もしも、抗がん剤が付着しても洗濯するか、買い換えることも容易であり、患者の好みになったデザインも選ぶことができる。CVポートは、上腕埋設でも、前胸部埋設でも、どちらでも可能である。筆者は、LOVE surgery の場合、上腕外側に埋設するが、その場合、CVポートもインフューザーも上腕外側にまとめることができ、事故抜針のリスクを軽減できる。化学療法中の患者様の生活まで考えた、新しい治療スタイルとして、「腕ケモ(ウデケモ)(沖縄では、ワンケモ:ワン=私の、私だけものも、という沖縄の言葉)」として提案している。英語では、Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy と呼んでおり、「上腕に」「身につける」新しい化学療法スタイルとして提案している。治療された患者様からは、袋に入れて首から下げることと違い、置き忘れもなく、事故抜針せず、動いている時など安心感が増した、との感想を頂いた経験がある。上腕埋設に関わらず、前胸部埋設のCVポートでも可能なスタイルなので、こうした方法も一つの選択肢として覚えて頂けると幸いである。

図17 インフューザー(トレフューザー)とスマートフォンポーチ
図17 インフューザー(トレフューザー®)とスマートフォンポーチ
図18 腕ケモの実際の様子
図18 腕ケモの実際の様子
 腕ケモ(Arm chemotherapy、 Wearable chemotherapy)として、
「上腕に」「身につける」新しい化学療法スタイルとして提案している。

10. 入室時から退室までのチェック事項

 

VAD 処置の場所としては、筆者は救急カートを設置している透視設備のある処置室(テレビ室もしくはアンギオ室)にて施行している。当院では、CVCセンターとして発足し稼働してきたが、現在では、VADセンターへ名称変更し、緊急時のCVCは透視室(透視台のあるテレビ室)、PICCやCVポートはアンギオ室(Cアームのある血管造影室)で施行している。
 入室時は、患者確認、処置内容の確認、同意書の確認、入室時バイタル確認、カテーテルのルーメン確認(single、 double、 triple)、アルコールアレルギーの有無、ヨードアレルギーの有無、脳血管障害患者などは麻痺の有無、透析患者であればシャントの部位を確認し、処置前には、これから行う処置内容を簡単に患者へ説明し、顔をみて不安感が強いか、過呼吸などないか判断している。認知症のある症例では、突然不穏になる可能性も考え、処置台からの転落にも注意すべきである。特に血管造影室のCアームはベットが狭い構造であり、複数名で左右から管理して処置を行うことが必要である。
 モニタリングとしては、血圧計、心電図、非観血的酸素飽和度測定器を使用している。
 CVポートキットとしては、各社様々なキットが販売されており、それぞれの製品に特色がある。処置する医師の好みや重要視する機能など、千差万別ではあるが、安全なCVポート留置に努めて頂きたい。処置中ガイドワイヤー・スタイレットの残存がないこと、ガイドワイヤー・スタイレットを完全に抜去していることは全員で確認しておくべき確認事項である。
 処置後、バイタルの確認、合併症がないことを確認する。静脈内留置を確認するため血液ガス分析を常に施行している病院もあるが、病院の管理基準、院内ガイドラインに沿って、環境に応じて可能な限り対応することが望ましい。

11. 感染対策

 

処置時の感染対策としてマキシマルバリアプレコーションを保つこと、穿刺する部位が綺麗になっていること、除毛(剃毛ではない)が必要なら完了していること、患者を覆う清潔な覆布を使用するおと、使用する器具を不潔にしないことが重要である。
 筆者は、CVポート手術に、アルコールフリーのディスポーザブルな消毒剤(オラネキシジン:オラネジン®)を使用している。前項「10.入室時から退室までのチェック事項」でも記載した通り、アルコールアレルギーやヨードアレルギーの症例も経験され、処置による合併症予防の観点および感染対策として用いている。常に最新の医療情報を取り入れ、患者に安心な VAD 処置を心がけたい。
 CVポートを管理する場合の感染対策としては、高カロリー輸液投与目的に、常時、使用している症例であっても、1週間に1回のヒューバー針の差し替えが必要である。その際に、新しいヒューバー針を穿刺する時には、これまで穿刺していた部位と離れた部位を穿刺するように心がけて頂きたい。毎回、中心部ばかりを穿刺してしまうと、pin hole の皮膚瘻孔が生じてしまい、感染の原因となることがある。CVポートは透明なドレッシング材にて覆い、外観からヒューバー針や皮膚の状態を観察できるようにする。

12. CVポートの合併症

 

手術時の合併症は、これまで記載した通りであるが、CVポートを長期管理している中で起きうる合併症についてまとめる。

<結合組織鞘:コネクティブシース(フィブリンシース)>
 長期にCVCを留置するとカテーテル周囲にフィブリンが付着するが、CVポートの場合、年単位で埋設されるため、カテーテル周囲に結合組織の鞘が形成されることがある。一般的にはどれもフィブリンシースと呼ばれている。筆者が行った病理学的な評価では、フィブリンの付着のみではなく、結合組織の鞘が形成されていることから、コネクティブシース(connective sheath :結合組織鞘)と表現するべき状態となっている症例を経験している。筆者が経験した2例を提示する。2例とも、病理組織学的な評価も行った症例である。肉眼所見と病理組織所見を比較して結合組織鞘:コネクティブシース(フィブリンシース)を確認して頂きたい。
 1例目は、他院にてCVポートが埋設され、感染となり抜去を依頼された症例である。CVポート部から連続して、血管内のカテーテルまでコネクティブシース(フィブリンシース)が形成されていた。

図19 症例1
図19 症例1:
抜去したカテーテルと周囲に形成されたコネクティブシース(フィブリンシース)
図20 症例1
図20 症例1:
カテーテルと周囲のコネクティブシース(フィブリンシース)
図21 症例1
図21 症例1:
コネクティブシース(フィブリンシース)の病理組織像
 

左はHE染色、右はEVG染色の病理組織像である。形成された組織は、フィブリン蛋白のみではなく、結合組織(connective tissue)の形成が認められる。筆者は、こうした所見を学び、コネクティブシースと呼称することが正しいと考えている。フィブリンシースと一般的に呼ばれるものでも、肉眼的に観察されるほど厚い組織で構築されているものは、結合組織(connective tissue)から形成されており、コネクティブシースと呼称している。

 2例目として、CVポートを留置し約5年6ヶ月後抜去となった患者に形成されていたコネクティブシースを提示する。

図22 症例2
図22 症例2:
カテーテルに形成されたコネクティブシース(フィブリンシース)
図23 症例2
図23 症例2:
カテーテル周囲に形成された組織の病理組織像(左から、模式図、HE像、EVG染色像)
 

フィブリンもカテーテル周囲には付着しているが、結合組織の密な層構造を形成している。よって、筆者はコネクティブシース(結合組織鞘)と表現している。

<カテーテル損傷>
 CVポートは長期留置されるため、カテーテル損傷のリスクについても注意して対応しなければならない。2症例を提示する。症例3は、約3年前に左鎖骨下静脈よりCVポートを埋設された患者である。2ヶ月前から化学療法を行っている間に、左鎖骨の辺りに疼痛を感じることがあったが、自制内であり、そのまま経過を見られていた。その後の使用に際して不安があり、筆者が埋設した症例ではなかったが、コンサルト頂き、対応した症例である。

図24 カテーテル損傷
図24 カテーテル損傷
図25 症例3
図25 症例3:
鎖骨下静脈アプローチにて埋設され、pin hole のカテーテル損傷があった症例
 

抜去したカテーテルをヒューバー針で穿刺し、生理食塩水を注入するとカテーテルに pin holeの穴があり、そこから漏出していることが観察された。鎖骨と肋骨に挟まれた部位であり、患者が痛みを訴えていた部位に一致した。

 症例4は、こちらも他院にて左鎖骨下静脈から留置されていた症例で、CVポートからの点滴の際に違和感が生じるとのことでコンサルトを受けた症例である。抜去したところ、下図に示すように鎖骨と第一肋骨が交差する部位でカテーテルの約 50%が 断裂していた症例である。

図26 症例4
図26 症例4:
左鎖骨下静脈アプローチにて、約 50% 断裂となっていた症例。
 

CVポートのカテーテル断裂は、鎖骨下静脈アプローチのみで発生するわけではなく、内頚静脈アプローチやその他のアプローチ部位でも起きうる合併症である。術者が気をつけた処置を施行しても、長期留置する器具であり、ペースメーカーとは違い金属のリードとは異なり、柔らかいカテーテルを留置するため、こうした合併症が生じることも考えて、術者は対応する必要がある。
 完全断裂となった症例においても、カテーテルを安全に回収することは可能である。筆者は、回収スネア(エン スネア システム®:SHEEN MAN 社)を、処置している病院には常備している。自身の症例は当然として、他院から異物回収のコンサルトを受けた際にも対応できるように準備している。

図26 症例4
図27 回収スネア(エン スネア システム®:SHEEN MAN 社)

13. 最後に

 

私自身、研修医の頃からCVポート留置を身につけなくてはならない貴重な環境で医師人生をスタートすることができた。指導して頂いた北海道室蘭にある日鋼記念病院の消化器センター長:横山先生をはじめ、放射線科部長:篠原先生、外科:浜田先生、血液内科:村上先生に深く感謝している。横山先生からは内視鏡技術だけでなく消化器治療から医師としての姿勢を、篠原先生にはIVRとマンモグラフィー読影、乳腺診療を、浜田先生には消化器癌や乳癌の手術を、村上先生からは血液腫瘍の化学療法と、多くの素晴らしい師匠に弟子入りすることができ、がん医療を広く学ぶことができた。素晴らしい緩和病棟・ホスピスも併設されており、積極的な治療のみではなく、がん医療としての終末期医療やオピオイドローテーションなど緩和医療を学ぶこともでき、総合的ながん医療の修練を積むことができた。現在の仕事には、そうした医師人生の修行時代が大きく関わっている。

 筆者は、日々の診療の中で、内視鏡処置や様々な専門領域での診療を行っているが、とりわけ、CVポートについての思い入れは深い。その理由は、CVポート一つで、患者様へ与える影響が非常に大きいことを自覚しているからである。医師は、外科手術や内視鏡手術、抗がん剤など、治療の中身ばかりに関心を持って診療に集中してしまうが、患者様にとっては治療だけでなく、人生・生活を大切にすることが一番の治療目標であると筆者は考えている。患者様の文化的な生活を失わせない、今までの生活で大切にしていたものを失わないようにすることも、治療の一つであることを忘れてはならない。
 紹介される患者様を断らないことも大切であり、あらゆる状況に対応し、併存する合併症にも対応できる複数の治療選択肢、処置方法を身につけておくことで対応できる患者様の幅が広がる。断らないために、技術向上に努めたい。

 常時、全ての患者様のそばに私が寄り添うことはできないが、私が埋設したCVポートは、文字通り、患者様の「パートナー・相方・バディー」として、治療の旅を共にされると思うとCVポート処置にも、さらに気持ちが入る。今後も、さらに処置の改善に努め、実践し続けていきたい。

 これから処置を学ぶ若手医師は、しっかりと処置を身につけて患者様のために実践してほしい。看護師も長期管理での合併症などの正しい知識を身につけ、何気ないトラブルにも気が付けるようになって頂きたい。医療の現場に出る前の、医学生・看護学生は、教科書では疾患と治療のことばかりを勉強するが、医療の field に出れば、点滴関連の処置が1日の業務で最も多い診療内容であることに驚くと思う。なかなか学生時代は疾患や専門治療のことばかりで、点滴の種類やVADについて学ぶことはないが、医療の現場はVAD無くして診療できない。是非、この PDN レクチャーで学んでほしい。
 CVC、PICC、CVポートと PDN レクチャーの VAD 3章について執筆依頼を頂きました、鈴木裕先生をはじめ、PDNに関わられている皆様に深く感謝申し上げたい。

 最後に、これまで、喜びも悲しみも、悩みも学びも、全てを筆者に与えて頂き、筆者を主治医として治療を任せて頂いた、多くのがん患者様に深く感謝し、さらなる安全なCVポート処置が広まることを祈念し、この章を終わりとさせて頂く。

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