- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- 1.末梢静脈栄養法(PPN)
- 1.1 PPNの特徴と適応
- 1.2 PPN製剤の種類と適応
- 1.3 PPNカテーテルの種類
- 1.4 PPNカテーテルの留置と管理
- 2.中心静脈栄養法(TPN)
- 2.1 TPNの特徴と適応
- 2.2 CVカテーテルの種類
- 2.3 CVカテーテル留置法
- 2.4 皮下埋め込み式CVポートと
その留置法 - 2.5 PICCとその留置法
- 2.6 エコーガイド下での
CVカテーテル留置法 - 2.7 TPN時の使用機材
- 2.8 TPN基本液とキット製剤の種類と特徴
- 2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴
- 2.10 脂肪乳剤の種類と特徴
- 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴
- 2.12 微量元素製剤の種類と特徴
- 2.13 TPNの実際の投与方法と管理
- 2.14 TPNの合併症
- 2.15 特殊病態下のTPN
- 2.16 小児のTPN
- 2.17 TPN輸液の調製方法
- 2.18 HPN(在宅経静脈栄養)
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
<Point>
末梢静脈栄養法(PPN: Peripheral Parenteral Nutrition)では、水分、電解質、各種栄養素(蛋白質、糖質、脂質)、ビタミン、微量元素を投与する。1日100g以上のブドウ糖投与が可能で、1日不可避窒素損失量54mg/kg以上の補給が可能である。また脂肪製剤により必須脂肪酸の供給が出来る。
しかし、PPNのみでは栄養状態の改善は難しく、短期間の栄養補給・維持管理が目的である。
<Pitfall>
浸透圧に上限があり高濃度にできないため、濃度制限輸液剤となる。当然投与カロリーを増やせば水分量が増える。従って、心機能障害(心不全)、腎機能障害(腎不全)には適さない。
<Advice>
短期間でも高TG、高コレステロール、高血糖、電解質バランスなどに注意すること。特に高齢者などはモニタリング管理を怠るべきではない。また高齢者の脂肪投与は週2~3回程度と考え、投与速度を厳守すること。
1.はじめに
静脈栄養には、末梢静脈栄養法(PPN: Peripheral Parenteral Nutrition)と中心静脈栄養法(TPN: Total Parenteral Nutrition)がある。また生理食塩水に限られるが皮下輸液がある。投与ルートは、TPNは中心静脈にカテーテルを留置しなければならないが、PPNは末梢静脈から可能である。
しかし、PPNでは、輸液製剤の浸透圧により投与カロリーに限界があるため、10日から2週間までが限度である。それ以上静脈栄養をするのであればTPNを選択しなければならない。
2.適応
- 手術前後の栄養管理(軽度から中等度の手術侵襲で数日消化管が使用できない場合)
- 高齢者、慢性呼吸器疾患、癌末期、食欲不振、化学療法・放射線療法施行時など消化管は使用できるが経口摂取が不足する場合。
- 消化器疾患(下痢、嘔吐、胃・十二指腸潰瘍、消化管出血、腸閉塞、炎症性腸疾患、急性膵炎、腹膜炎など)
- TPN導入・離脱期
- 経腸栄養導入・離脱期
PPNは少量の経口摂取や経腸栄養との併用が可能ならば1日の必要エネルギー量を満たすことができる。併用できない場合は2週間が限度。従って、PPNのみでは栄養状態の改善は難しく、短期間の栄養補給・維持管理が目的である1,2,3)。
3.組成と輸液剤
PPNの組成は、水分、電解質、各種栄養素(蛋白質、糖質、脂質)、ビタミン・微量元素などである。これらを組み合わせることにより1,500~2,000mlで約600~1,200kcalが得られる。出来るだけ高カロリーにしたいが、末梢静脈から投与する為、浸透圧比が約3までが限度である。糖質濃度でいえば12.5%が限度である。脂肪乳剤は浸透圧比が約1で併用投与により浸透圧比を下げることが可能となる。糖質は一日必要量の半分程度しか投与できず、アミノ酸も非蛋白熱量が不十分なためエネルギー源として消費される。短期間でも高TG、高コレステロール、高血糖、静脈炎等注意し、特に高齢者などはモニタリング管理を怠るべきではない。
①高濃度糖加維持液
主な製剤は、表1に記した。糖濃度は7.5~12.5%で150~250kcal/500mlが得られる。しかし、高濃度であればあるほど静脈炎の合併症のリスクが高くなり注意を要する3)。
組成\製品名 | KNMG3号 | ソリタT3号G | ソリタックスH | ソルデム3AG | フィジオ35 | |
---|---|---|---|---|---|---|
電 |
Na+ | 50 | 35 | 50 | 35 | 35 |
K+ | 20 | 20 | 30 | 20 | 20 | |
Ca2+ | - | - | 5 | 5 | ||
Mg2+ | - | - | 3 | - | 3 | |
Cl- | 50 | 35 | 48 | 35 | 28 | |
Lactate- | 20 | 20 | 20 | 20 | - | |
Acetate- | - | - | - | - | 20 | |
Gluconate- | - | - | - | - | 5 | |
P(mmol/L) | - | - | 10 | - | 10 | |
熱量(kcal/L) | 400 | 300 | 500 | 300 | 400 | |
pH | 約4.9 | 3.5~6.5 | 5.7~6.5 | 5.0~6.5 | 4.7~5.3 | |
浸透圧比 | 約3 | 約2 | 約3 | 約2 | 約2~3 | |
容器(ml) | 200,500 | 200,500 | 500 | 200,500 | 250,500 |
② 糖加低濃度アミノ酸輸液
表2はビタミンB1を配合した低濃度糖加アミノ酸輸液剤である。これらはアミカリック、アミノフリード、ツインパルを基本としてビタミンB1を配合した製剤で、糖とアミノ酸濃度はそれぞれ7.5%と3%である。非蛋白熱量は500ml で150kcalあるが、蛋白熱量を加えると総熱量は210kcalを得られ、短期間の栄養補給に適している。アミノ酸組成はFAO/WHO基準(1965年)とTEO基準(1980年)があり、前者は鶏卵あるいは人乳のアミノ酸パターンに近く必須アミノ酸/非必須アミノ酸比(Essential amino acid/Non essential amino acid:E/N) は約1で、後者はBCAA比率を30%と高く設定しE/N比を約1.4とした組成であり、侵襲時などに適している。これら製剤はTEO基準を採用している3)。
組成\製品名 | アミグランド | パレセーフ | ビーフリード | |
---|---|---|---|---|
TEO基準 | TEO基準 | TEO基準 | ||
液量(ml) | 500 | 500 | 500 | |
Na+(mEq/容器) | 17.5 | 17.5 | 17.5 | |
K+(mEq/容器) | 10 | 10 | 10 | |
Ca2+(mEq/容器) | 2.5 | 2.5 | 2.5 | |
Mg2+(mEq/容器) | 2.5 | 2.5 | 2.5 | |
Cl-(mEq/容器) | 17.5 | 17.6 | 17.6 | |
SO42+(mEq/容器) | 2.5 | 2.5 | 2.5 | |
Lactate-(mEq/容器) | 10 | 10 | 10 | |
Acetate-(mEq/容器) | 8 | 9.5 | 9.5 | |
Gluconate-(mEq/容器) | - | 2.5 | 2.5 | |
Citrate3-(mEq/容器) | 3 | - | - | |
P(mmol/容器) | 5 | 5 | 5 | |
Zn(μmol/容器) | 2.5 | 2.5 | 2.5 | |
糖質濃度(%) | 7.5 | 7.5 | 7.5 | |
遊離アミノ酸濃度(%) | 3.00 | 3.00 | 3.00 | |
BCAA含有率(w/v%) | 30.0 | 30.0 | 30.0 | |
総窒素量(g/容器) | 2.35 | 2.35 | 2.35 | |
E/N比 | 1.44 | 1.44 | 1.44 | |
非蛋白熱量(kcal/容器) | 150 | 150 | 150 | |
総熱量(kcal/容器) | 210 | 210 | 210 | |
NPC/N比 | 64 | 64 | 64 | |
PH | 約6.8 | 約6.7 | 約6.7 | |
浸透圧比 | 約3 | 約3 | 約3 | |
ビタミンB1(mg/容器) | 1 | 1 | 0.96 | |
バッグ形式 | ダブルバッグ | ダブルバッグ | ダブルバッグ | |
容器(ml) | 上室350 下室150 |
上室350 下室150 |
上室150 下室350 |
上室300 下室700 |
容器(ml) | 500 | 500 | 500 | 1000 |
③ 脂肪乳剤
10%と20%があり、組成は大豆油が多くリノール酸 (n-6系)が主体であるが、α-リノレン酸(n-3系)も含まれ、必須脂肪酸の供給が出来る(表3)。投与目的としてエネルギー効率の良さがある。熱量は10%で約1kcal/ml、20%で2kcal/mlと高く、また必須脂肪酸欠乏症予防効果があり、そして浸透圧比が約1のため静脈炎リスクの減少がある3)。
投与速度は0.1g/kg/hrを超えないことが推奨される。0.1gTG/kg /hrでは血中トリグリセライド値が一定になるが、0.3gTG/kg/hrでは血中トリグリセライド値が上昇し続ける4)。
組成\製品名 | イントラリピッド | イントラリポス | |||
---|---|---|---|---|---|
濃度(%) | 10 | 20 | 10 | 20 | |
熱量(kcal/100ml) | 約110 | 約200 | 約110 | 約200 | |
成 分 |
精製大豆油 (g/100ml) |
10 | 20 | 10 | 20 |
精製卵黄レシチン (g/100ml) |
1.2 | 1.2 | 1.2 | 1.2 | |
濃グリセリン (g/100ml) |
2.25 | 2.25 | 2.2 | 2.2 | |
pH | 6.5~8.5 | 6.5~8.5 | 6.5~8.5 | 6.5~8.5 | |
浸透圧比 | 約1 | 約1 | 約1 | 約1 | |
容器(ml) | 100 | 100,250 | 250 | 50,100,250 |
4.PPNの症例
ここで症例を使って考えてみる。
【症例】50才男性、体重60kg 身長170cm、軽度のストレス下にある。
1日水分投与量の基準としては①30~40ml/kg/day、②尿量+不感蒸泄量(15mL/kg)-代謝水(300mL)+糞便(表4)などがあり、①で考えると1,800~2,400mlとなる。次に必要エネルギー量は①ハリスーベネディクトの算定式(HBE: Harris-Benedict Equation)、②25~30kcal/kg等の算出式があるが、①ではBEEが1,402 kcal、TEE(Total daily Energy Expenditure)は活動係数1.2、ストレス係数1.2として2,019kcal、②では1,500~1,800kcalとなる。
① 水分量=30~40ml/kg/day ② 水分量=尿量+不感蒸泄量(15mL/kg) +糞便 -代謝水(300mL) |
この症例では糖加低濃度アミノ酸輸液と20%脂肪乳剤を選択し前者を500ml×4本と後者200mlで合計2,200mlとする。この輸液剤組成では電解質濃度はNa: 70mEq、K: 40mEq、Cl: 70mEqとなる。この組成では、ブドウ糖150g、総窒素量9.4g、アミノ酸60g、脂肪40gが含まれ、非蛋白熱量は600+400で1,000kcal、NPC/N比は106となり、総熱量で計算すると1,240kcalとなる。ここで窒素・Naの不可避損失量を考える。
不可避Na損失量:
Naの1日不可避損失量は600mg(食塩としては1.5g)で25.5mEqである。次に日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2009年版によると1日食塩摂取量上限は6gとされていてNa量は102mEqとなる。この症例では70mEq投与され範囲内である。(表5)
不可避Na損失量: |
不可避窒素損失量:
尿、大便、皮膚等から失われるもので1日54mg/kgと考えられ、60kgでは3.2g/日となる。この症例では総窒素量は9.4g投与され最低限には達している。(表6)
不可避窒素損失量: |
症例考察:
飢餓時のブドウ糖投与による体蛋白の節約効果をみたGambleのデータでは、ブドウ糖を投与すると蛋白の異化が抑制され、ブドウ糖1日100g投与により蛋白質異化が約1/2に抑制され、その時の蛋白異化は40gであり、200g投与でも蛋白異化は同程度とされる。ストレスのない状態で窒素バランスを維持する為には最低でも1日平均40gの蛋白質が必要とされる。またストレス下の患者ではケトーシス予防のため1日100gのブドウ糖を必要とされている。この症例ではブドウ糖は150g、アミノ酸も60g投与され最低限には達している。しかし、必要エネルギー量(ストレス・活動係数を加える)には達せず、一般的には必要量の約半分しか投与できず、蛋白合成も不可能である。
ビタミンB1は体内貯蔵量が30mgと少なく、他のビタミンよりも早期に欠乏するといわれる。代謝性アシドーシス、ウェルニッケ脳症の予防の為には必要な成分である。静脈栄養でのビタミンB1必要量は3mgとされ、この症例では3.84~4.0mg投与されることとなり必要量に達する。
次に亜鉛であるが体内の貯蔵量は約2gと少なく、欠乏しやすい。尿中の排泄量は500μgとされる。この症例では1日9.6~10μmol ( 634~660μg )投与されることになる5)。
尚、発汗が軽度の場合はNaCl喪失量が10~20g( 170~340mEq)、中等度の場合は20~40g(340~680mEq)と考えられ、その時は水分喪失量と共にNaも補充する6)。
5.最後に
以前、PPNは中カロリー輸液といわれ使われてきた。最近の輸液製剤には亜鉛などの微量元素やビタミンB1などのビタミンも含まれ、より使い勝手が良くなってきている。静脈栄養(PPN、TPN)を上手に使いこなせることがNST ( Nutrition Support Team )の妙味である。適応や使用方法を間違えず、栄養療法を行っていくのが我々の責務と考える。
文献
- 清水敦哉:NST完全ガイド、東口高志編集、照林社、東京、p142-144、2005
- 土師誠二:コメディカルのための静脈経腸栄養ハンドブック、日本静脈経腸栄養学会編集、南江堂、東京、p268-273、2008
- 梶谷伸顕:病態栄養専門師のための病態栄養ガイドブック、日本病態栄養学会編、メディカルレビュー、大阪、p90-98、2011
- 入山圭二:NST完全ガイド、東口高志編集、照林社、東京、p162-164、2005
- やさしく学ぶための輸液・栄養の第一歩(第二版)、日本静脈経腸栄養学会編集、p156-164,2008
- やさしく学ぶための輸液・栄養の第一歩(第二版)、日本静脈経腸栄養学会編集、p48,2008