- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- 1.末梢静脈栄養法(PPN)
- 1.1 PPNの特徴と適応
- 1.2 PPN製剤の種類と適応
- 1.3 PPNカテーテルの種類
- 1.4 PPNカテーテルの留置と管理
- 2.中心静脈栄養法(TPN)
- 2.1 TPNの特徴と適応
- 2.2 CVカテーテルの種類
- 2.3 CVカテーテル留置法
- 2.4 皮下埋め込み式CVポートと
その留置法 - 2.5 PICCとその留置法
- 2.6 エコーガイド下での
CVカテーテル留置法 - 2.7 TPN時の使用機材
- 2.8 TPN基本液とキット製剤の種類と特徴
- 2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴
- 2.10 脂肪乳剤の種類と特徴
- 2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴
- 2.12 微量元素製剤の種類と特徴
- 2.13 TPNの実際の投与方法と管理
- 2.14 TPNの合併症
- 2.15 特殊病態下のTPN
- 2.16 小児のTPN
- 2.17 TPN輸液の調製方法
- 2.18 HPN(在宅経静脈栄養)
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
Chapter3 静脈栄養
1.末梢静脈栄養法(PPN)
1.2 PPN製剤の種類と適応
上尾中央総合病院 外科診療顧問
栄養サポートセンター センター長 大村 健二

<Point>
水・電解質輸液と静脈栄養は明確に区別される。前者は主に脱水や電解質異常の補正を目的に施行されるもので、ショックからの離脱を企図して行う蘇生輸液(fluid resuscitation)もこれに含まれる。用いられる輸液製剤にはアミノ酸やビタミン、リンや微量元素は含まれていない。糖質は主として浸透圧の調整を目的に添加されている。
一方、静脈栄養(parenteral nutrition、PN)は栄養状態の維持・改善を目的に施行される輸液であり、糖質、アミノ酸、および脂質を投与する。通常の食事を摂取していた場合の体内ビタミン備蓄量は大きく、さらにビタミンB群やビタミンK、葉酸、ビオチンなどは腸内細菌が盛んに産生している1)。そのため、2~3週間の絶食でこれらのビタミンの欠乏に陥るリスクは低い。しかし、リスクマネジメントの観点から短期間の絶食・PN管理であってもビタミンB1は投与する。
<Pitfall>
絶食症例に水・電解質輸液を漫然と投与してはならない。窒素源(アミノ酸)や脂質を投与せず絶食下に水・電解質輸液のみを数日間以上投与すると、栄養状態、ひいては全身状態の悪化がもたらされる。水・電解質輸液の3号液は維持液とも呼ばれる。あたかも栄養状態を維持するような呼称であるが、アミノ酸を含まないためそれのみの投与では窒素平衡は一貫して大きく負の値をとる。負の窒素平衡は骨格筋の崩壊を意味し、身体機能は低下する。輸液製剤の呼称に惑わされてはならない。
ブドウ糖液やアミノ酸製剤を用いて手作りのPNを処方する場合、ブドウ糖液とアミノ酸製剤は必ず混じて、あるいは同時に投与しなければならない。これらの投与のタイミングが異なると体蛋白の合成が進行しない(後述)。
<Advice>
脂肪乳剤の投与は一般に考えられているほど非生理的で危険なものではない。上大静脈内に注入された人工脂肪粒子は、直ちに偽キロミクロンとなる。一方、食物中の中性脂肪粒子は消化・吸収された後に小腸の吸収上皮内で中性脂肪に再合成され、キロミクロンとなって胸管を経由して静脈角から無名静脈に流入する。この二つの中性脂肪の動態は類似しているといえる。
中性脂肪はアドレナリン優位なホルモン環境、すなわち侵襲が加わっている状態でよく燃える2)。全身麻酔の導入時や気管内挿管時に投与される鎮静剤として用いられる鎮静剤プロポフォール®の溶媒は10%脂肪乳剤である。プロポフォール®は感染の有無や侵襲の程度に関わらず用いられ、脂肪乳剤の投与に関する有害事象は報告されていない
1.はじめに
静脈栄養法には末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition、PPN)と中心静脈栄養法(total parenteral nutrition、TPN)がある。TPN製剤は中心静脈カテーテル(central venous catheter、CVC)から投与されるが、CVCの先端は通常上大静脈(superior vena cava、SVC)に留置される。SVCの単位時間あたりの血液流量は注入される輸液量をはるかに上回るため、輸液は直ちに希釈される。したがって、高浸透圧の輸液をSVCに注入しても、高浸透圧の液体に接触した場合に引き起こされる血管内皮細胞の傷害は生じにくい。一方PPNでは、輸液は通常皮静脈(末梢静脈)に注入される。皮静脈は上大静脈と比較して血流量が少なく、注入された液体は希釈され難い。高い浸透圧の液体に晒された内皮細胞は脱水に陥り、その結果血栓性静脈炎が引き起こされる。PPNに使用される代表的な輸液製剤はビタミンB1・糖・電解質・アミノ酸液であるが、使用時の生理食塩水に対する浸透圧比は約3である。末梢静脈に注入できる浸透圧の上限はこの程度である。
用いる輸液製剤の浸透圧に限界があるため、PPNにより十分量のエネルギーとアミノ酸を投与しようとすると水分過多になる。適量の脂肪乳剤を併用した場合、PPNで投与できるエネルギー量は約1,300 kcal/日、アミノ酸は60 g/日が上限と考えてよい。なお、脂肪乳剤の投与量を増やせはこれ以上のエネルギーを投与できるが、消費量を上回る脂質を投与しても余剰分は脂肪織に沈着し、燃えることはない。
2.適応
PNは消化管を利用できない病態や消化管を安静にする必要がある病態の栄養管理に欠かすことができない。PNなくして生命の維持が不可能である症例も数多く存在する。 PPNで栄養管理を施行するのは通常短期間であるが、経口摂取のみで十分な栄養の摂取ができない場合の補助やTPN導入前、あるいはTPNからの離脱期にも施行される。
3.輸液製剤とその組成
PPNに用いられる輸液製剤はビタミン・糖・電解質・アミノ酸液と脂肪乳剤である。また、脂肪乳剤をも1バッグ内に含む製剤(アミノ酸・糖・電解質・脂肪・水溶性ビタミン液)も市販されている。ビタミン、糖、電解質、アミノ酸を含有する輸液製剤を、ここではPPN用輸液製剤と称することにする。
主な製剤は、表1に記した。糖濃度は7.5~12.5%で150~250kcal/500mlが得られる。しかし、高濃度であればあるほど静脈炎の合併症のリスクが高くなり注意を要する3)。
※ エネフリードは/550 mL
主なPPN用輸液製剤を表1に示す。どの製剤も3パックで112,5 gのグルコース(450 kcal)と45 gのアミノ酸が投与される。また、カリウムは1バッグに10 mEq(およそ400 mg)が含まれている。保存期腎不全患者と維持血液透析患者には、カリウムの摂取量をおのおの1,500 mg以下、2,000 mg以下に制限するよう食事指導が行われる。したがって、PPN用輸液製剤1,500 mLに含まれる約1,200 mgのカリウムは、これらの慢性腎臓病症例にも安全に投与できる。
脂肪乳剤を含むPPN用輸液製剤(エネフリード®)は、PPN用輸液製剤(ビーフリード®)500 mLに20%脂肪乳剤(イントラリポス®)50 mLを混じたものである。脂質エネルギー比は32%となっている。
我が国で市販されている脂肪乳剤は10%と20%の二種類である(表2)。いずれも主成分は精製大豆油であるが、各々に卵黄レシチンとグリセリンが添加されているため10%製剤は110 kcal/100 mL、20%製剤は200 kcal/100 mLとなっている。
4.PNの開始時期と施行期間
体内に貯蔵されている燃料の中で糖質の量が最も少ない。健常な男性成人の場合、肝臓と骨格筋に蓄えられているブドウ糖の貯蔵型であるグリコーゲンは各々100 g、300 gに過ぎないとされている2)。これは主に骨格筋蛋白として蓄えられている利用可能な蛋白質6 kgや体脂肪 15 kgと比較してはるかに少量である。さらに、脳細胞や赤血球のようにもっぱらブドウ糖を燃やす細胞に供給できるのは肝臓に蓄えられているグリコーゲンのみである。ブドウ糖の基礎的な消費量は160 g/日と考えられており、ブドウ糖の貯蔵量はその1日分にも満たない。肝臓のグリコ―ゲン枯渇に伴って主として骨格筋蛋白を利用した糖新生が盛んになる。この様な機序による骨格筋の減少を抑制するためにも、PNなどの栄養管理は48時間以内、できれば24時間以内に開始するべきである。
各種ガイドラインや成書には、PPNの施行期間は14日以内ときされている。しかし、14日にこだわる必要はない。ガイドラインに記されていることは一つの目安である。次項で述べるように、前述したように、PPNによって1,300 kcal/日前後のエネルギーの投与も可能である。PPNを受ける患者の病態や必要エネルギー量、PPNが推定必要エネルギー量に満たない場合にはその影響などを勘案して栄養管理の方針を決定する。
5.PPPNの処方の実際
1) 市販されているPPN用輸液製剤と脂肪乳剤を用いた処方例
PPN用輸液製剤の非蛋白カロリー(NPC)/窒素(N)比は64であるので、そのままでは糖質と脂質を合わせたエネルギーに対して窒素源(アミノ酸)が過剰となっている。しかし、脂肪乳剤を併用することでエネルギー投与量を増加させるとともにNPC/N比を146とすることができる(図1)。NPC/N比146 は、侵襲が加わっていない生体に適した値である。
PPN用輸液製剤(ビーフリード®)を4バッグ2,000 mL、20%脂肪乳剤を250 mL用いると総エネルギー量は1,340 kcalとなり、グルコース150 g、アミノ酸60 g、脂質(中性脂肪)50 gが投与される。グルコースの投与量は基礎的消費量とされる160 gとほぼ等しい。また、アミノ酸の投与量も体重50 kgの症例であったら1,2 g/kg/日にあたる。さらに、中性脂肪50 gは成人男性の脂質の推定一日消費量を補うものである。
脂肪乳剤を含むPPN用輸液製剤(エネフリード®)のNPN/N比は105であり、中等度~高度の侵襲が加わっている症例にも適している
脂肪乳剤を含むPPN用輸液製剤(エネフリード®)は脂質エネルギー比が32%である。4バッグ(2,200 mL)でエネルギー1,240 kcal、グルコース 150 g、アミノ酸60 g、脂質(中性脂肪)40 gを投与できる。
PPNでは脂肪乳剤の投与は毎日を原則とする。脂肪乳剤を隔日投与としたり週に1~2回投与することは非生理的であり、何ら利点はない。
2) カリウムを除いたPPN処方例
血清カリウム値が高い場合、しばしばPPNが中止となりカリウムを含まない1号液に差し替えられる。しかし、1号液はPPN用輸液製剤と比較しておよそ2倍のナトリウムを含む。また、ブドウ糖の濃度は3分の1であり、アミノ酸が投与されないことからエネルギー量は4分の1となる。このような場合、10%ブドウ糖液と10%アミノ酸製剤、10 %食塩水を混じた手作りの処方で対処することができる(表3)。
手作り処方例はカリウムを含まない PPN を施行する目的で 10%グルコース 1,000 mL に10%アミノ酸製剤400 mL(200 mLを 2 袋)、10%NaCl 30 mLを混じて作成した輸液である。
三つの10%製剤を混じて作成した輸液のナトリウム濃度はPPN用輸液製剤とほぼ等しく、ブドウ糖とアミノ酸の含有量も1割ほど少ないのみである。その結果、エネルギー量も1割強の減少にとどまる。カリウムの投与を控えるための輸液の変更であったら、この手作り処方が1号輸液に勝っている。
なお、このような手作りのPPNを処方する場合、糖質(ブドウ糖)とアミノ酸が同時に投与されるよう配慮しなければならない。血中のインスリン濃度とアミノ酸濃度の双方が高値をとって閾値を超えた場合に体蛋白の合成が開始されると考えられるからである4)。糖質とアミノ酸輸液を交互に、あるいは時間をあけて投与した場合、血中インスリン濃度の高値とアミノ酸濃度の高値が同時に得られることはない。したがって、ブドウ糖液とアミノ酸製剤を投与する場合、アリメバッグ®αなどの高カロリー輸液用バッグ内で両者を混じ、ブドウ糖とアミノ酸が同時に投与されるようにする。
文献
- Scarborough MJ, Lawson CE, DeCola AC, et al. Microbiomes for sustainable biomanufacturing. Curr Opin Microbiol 65:8-14, 2022.
- 燃料として脂肪酸を利用するには3段階の処理が必要である.ストライヤー生化学第8版、東京化学同人、pp601、2018.
- Cahill Jr GF. Starvation in man. Clin Endocrinol Metab 5:397-415. 1976
- Dardevet D, Rémond D, Peyron MA, et al Muscle wasting and resistance of muscle anabolism: the "anabolic threshold concept" for adapted nutritional strategies during sarcopenia. Scientific World Journal :269531, 2012.



