HOME > PDNレクチャー > Ch.3 静脈栄養 > 2.6.エコーガイド下でのCVカテーテル留置法

Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
6.エコーガイド下での
    CVカテーテル留置法


東邦大学医療センター大森病院 栄養治療センター
一般消化器外科 鷲澤尚宏

鷲澤尚宏
記事公開日 2015年10月26日
2021年4月1日 改訂

<Point>

  • カテーテルの留置に必要な3つの因子(体内への入り口、血管への入り口、カテーテルの先端位置)を理解する必要があります。
  • エコーは血管刺入部位の確認を目的としています。
  • プローブ先端と血管の間に介在する臓器によって画像が異なるため、プローブの位置と角度を動かして立体的に把握することが重要です。
  • エコー下穿刺法はランドマーク法の延長線上にある手技ではなく、全く別の方法としてトレーニングするべきです。

1.はじめに

中心静脈カテーテル留置は栄養輸液製剤、特に浸透圧が高い製剤やpHの低い製剤を持続的に、または間欠的に静脈注射するルートを確保することが目的です。カテーテルの先端は、上大静脈が基本で、緊急時などでは下大静脈も使われます。血管への穿刺位置は主に内頸静脈や鎖骨下静脈が選ばれます(図1)。カテーテルの留置はカットダウン法やランドマーク法による穿刺がありますが、剥離操作による皮下組織の感染、ランドマーク穿刺法による気胸や動脈穿刺をなくす目的で、様々な工夫がされてきました。その中で効果が期待できるエコー下穿刺法が普及していますので、これについて、手順を追って解説します。

静脈とエコープローブ
図1 静脈とエコープローブ
・カテーテルの留置ルートとしては主に内頸静脈と鎖骨下静脈が用いられる

1.1 事前の説明と同意

患者や家族に中心静脈カテーテルの留置目的、穿刺部位、合併症などを説明し、同意を得ます(表1)。緊急時など、事前の説明ができない場合も、事後の説明と同意を得る必要があります。

表1 事前に説明すべき内容

◆目的
栄養輸液、特殊な薬剤の投与ルート、静脈圧のモニター

◆穿刺部位
内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈など

◆合併症
体外への出血、縦隔など体内への出血、気胸、乳び胸、血胸、空気塞栓、神経損傷、カテーテル先端位置異常、静脈炎、静脈血栓症、カテーテル閉塞、カテーテル破裂、カテーテル塞栓、心タンポナーデ、感染、敗血症

1.2 準備

a. モニター
 非観血的酸素飽和度測定機器、心電図、血圧

b. 器材の準備
●カテーテルキット
穿刺部位と体格に見合うカテーテルキットを用意します。エコー穿刺法では一般的にセルジンガー法のキットが使われます。
● 清潔操作のための器材
感染予防を目的として、CDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病管理予防センター)と国立大学医学部附属病院感染対策協議会病院感染対策ガイドラインが推奨する高度無菌バリアプレコーション(マキシマルバリアプレコーション)に準じて、マスク・帽子・滅菌手袋・滅菌ガウン・大きな滅菌ドレープを準備します。

c. 薬剤
 消毒薬として、グルコン酸クロルヘキシジン、またはポビドンヨード、充填用のヘパリン加生理食塩水、局所麻酔として1%キシロカインなどを用意します。シリンジと穿刺針(22G以下)も用意します。カテーテルキットに梱包されているガーゼ以外に必要となることがあるので、予備のガーゼも準備しておきます。また、中心静脈カテーテル留置に伴う迷走神経反射や呼吸困難に備えて、酸素配管や酸素吸入用のマスク、救急蘇生に必要な薬品と器具の位置を確認しておきます。

d. 超音波断層装置
 エコーを用いる場合は皮下の浅い領域を観察するための、7.5MHz以上の周波数が大きいマイクロコンベックスのプローベを用います。国内で販売されている機種にはi LOOK25(コビディエン)やSiteLight5(メディコン株式会社)などがあります(図2)。プローベを覆う清潔操作用のプローベカバーとプローベに装着するニードルガイドも用意し、使用する針のサイズに合わせることが可能か否かの確認をしておきます。

超音波断層装置
図2
・中心静脈カテーテル留置用の超音波断層装置としては様々な機種が販売されている

1.3患者評価

合併症を出来る限り少なくするにはカテーテル留置困難や穿刺等に伴うリスクを前もって評価することが大切です。基礎疾患として血液凝固能の異常が存在している場合は血腫を起こしても重篤にならない場所を選択する必要がありますし、閉塞性呼吸障害がある場合には鎖骨下静脈穿刺を避ける必要があります。既往歴として中心静脈栄養を頻回に行ってきた患者では、上大静脈や下大静脈が閉塞していたり、副側血行路を形成していたりすることがありますので、超音波断層検査や造影CTスキャンなどが有用です。完全静脈栄養(total parenteral nutrition以下、TPN)は経管栄養法や末梢静脈栄養法よりも合併症が多いとされていることを常に認識しておく必要があります。

2.穿刺部位の同定

a. 基本操作
 事前にエコープローベを使って十分に画像を確認する必要があります。操作はプローブ先端を皮膚に対して滑らせたり回転させたりする「スライド法(sweep scan technique)」と、先端を固定して寝かせたり立たせたりする「傾斜法(swing scan technique)」が基本になります(図3)。

傾斜法と、スライド法
図3 傾斜法(swing scan technique:A)と、スライド法(sweep scan technique:B)
・2者を使って3次元的な位置関係を確認する

b. 内頸静脈を利用する場合
 多くは右側から穿刺しますが、胸鎖乳突筋の胸骨枝の外縁から総頸動脈と内頸静脈の横断像を確認します。頭側からプローベのスライド法によって左右と前後の位置関係が高さによってずれていく様子を把握します。次にほぼ皮膚の穿刺予定位置からプローブの傾斜法によって、上記二つの血管の位置関係を確認します1)。穿刺想定ラインの表示(点線など)が内頸静脈の中央を通過する前壁の深さを計測し、角度(固定の場合が多い)と深さによってもっとも適したニードルガイドを選択し装着するか可動式ガイドの角度を設定し、固定します。この時、穿刺部が低めで、皮膚に対して寝かせている場合には、穿刺針の先端が胸骨の上端程度に深くなってしまうことがあることを知っておく必要があります。
c. 鎖骨下静脈を利用する場合
 多くの症例で右側から穿刺しますが、鎖骨と第1肋骨の間から穿刺するため、エコーによる断層画像は上腕に近い外側胸部からでなければ得られません(図4)。

鎖骨下静脈穿刺部位の確認
図4 鎖骨下静脈穿刺部位の確認
・上腕に近外側の上胸部となる

使用しているエコープローブがマイクロコンベックスであれば、鎖骨下静脈の横断像と長軸像の両者を確認します。ランドマーク法では皮膚に向けて針とシリンジを倒し、皮膚穿刺部位から数センチ以上離れた静脈壁に向かうことで動脈やその奥の肺を穿刺しない工夫をしますが、エコー法では明瞭な画像でリアルタイムに穿刺状況を確認するために、皮膚や静脈壁に対して垂直に近い角度を形成することになります。したがって、穿刺の深さを誤ると、肺を損傷する確率が高くなりますので、エコー画像をよく確認し、可能な限り、上下左右のスライド法によって、皮膚から静脈前壁までの深さを計測します。これは、誤穿刺を無くすために画像描出が優先されことを意味します2)。良い画像を得るためには、かなり上腕に近い外側胸部から穿刺することになることが分かります。
d. 大腿静脈を利用する場合
 左右差はありませんが、あまり上部に穿刺位置を持っていくと下腹壁静脈への迷入などがあり得ますので、やや膝側からスライド法を行い、動脈の内側と静脈の前壁正中の位置関係を観察します。

3.エコーを用いたカテーテル留置手技


a. 鎮痛
 穿刺部位が決定していれば、皮膚麻酔薬の塗布か、パッチ剤を用いるか、局所浸潤麻酔を事前に行っておきます。
b. 穿刺前の準備
 十分な観察ののちに、手洗いをもう一度した上で、マキシマルバリアプレコーションに従った準備をします。帽子とマスクを装着し(図5)、穿刺予定部分を含めて十分な広さを消毒します。その後、滅菌手袋を装着した状態でガウンを着て、患者の身体全体をカバーする穴付きシートで術野周囲を覆います。素手が高度に滅菌できていればガウンが先でも問題ありません。

マキシマルバリアプレコーション
図5 マキシマルバリアプレコーション
・手袋だけでなく、ガウン、帽子、マスクを使用する

エコーのプローベは外回りの助手に持ってもらうか、またはカバー用操作専用の把持スタンドに装着し、清潔操作によって袋状のプローベカバーで覆います。このとき、付属のゼリーをプローベ先端に塗布するか、プローベカバーに充填し、空気が介在しないように気を付けます。プローベカバーの上からニードルガイドを装着し、カテーテルキットに入っている穿刺針を仮装着してみます。キットに入っている、ガイドワイヤー、ダイレーター、留置予定のカテーテルの外側をヘパリン加生理食塩水で濡らし、カテーテル内腔は可能な範囲で閉鎖キャップなどを用いてヘパリン加生理食塩水で充填しておきます。
事前に確認した位置にエコープローベを当て、穿刺予定部が確認できたら、必要な場合は追加の局所麻酔を穿刺部のみに行います。プローベが接触する部分の皮下に局所注射するとエコーで得られる断層画像が散乱してしまう可能性があるので、注射する量には注意が必要です(図6)。

局所浸潤麻酔
図6 局所浸潤麻酔
・局所浸潤麻酔はプローベの下ではなく穿刺部に行う


c. エコー下穿刺
 以下、セルジンガー法を例に手技を解説します。穿刺針、ガイドワイヤー、ダイレーター、カテーテルを操作しやすい清潔野に並べ、穿刺に入ります。プローベをスライド法と傾斜法で移動させ、事前確認と同様の画像が得られることを確認したのちに穿刺針をニードルガイドに装着します(図7)。

着脱式のニードルガイド
図7  着脱式のニードルガイド
・穿刺する静脈の深さによって3種類の角度が設定されている

画像が固定できたら、針の先端を静脈の前壁に向かって穿刺します。ニードルガイドに沿って摩擦抵抗なく穿刺できている場合は、超音波の走査線に針が近づいて行くと、超音波の乱反射により、針の存在が分かります。最近ではこの乱反射がより鮮明な針も販売されています。エコー断層画像でリアルタイムに穿刺針の先端が静脈前壁を押して静脈をへこませている様子が確認できます(図8)。

静脈のエコーによる断面像
図8  静脈のエコーによる断面像
・穿刺針が近づくまでは静脈が円形に描出されている

穿刺針の先端が静脈の前壁を通過する瞬間には、前壁が跳ね返って戻る様子も確認できますので(図9)、このあと、穿刺操作を止め、血液の逆流を確認します。

静脈壁を貫く画像
図9 静脈壁を貫く画像
・穿刺針の先端が静脈前壁を押してへこませている様子(A)と、穿刺針の先端が静脈の前壁を通過する瞬間には、前壁が跳ね返って戻る様子(B)も確認できます

もし、ニードルガイドを用いない場合でも、丁寧な傾斜法によって針の先端を見ながらシリンジに陰圧をかけ、針を小刻みに動かすことで、位置が認識でき、上記の跳ね返りも確認できますので、これをもって、深すぎる穿刺を防止します(図10)。穿刺針の中にガイドワイヤーを通して血管内に進めますが、この操作が片手でスムースにできる場合はガイドワイヤーが血管内腔に入る様子をエコー画像でリアルタイムに確認できます。

ニードルガイドを用いない穿刺
図10 ニードルガイドを用いない穿刺
・フリーハンドによる穿刺では傾斜法(swing scan technique)で穿刺針の先端を追う

この後は、ガイドワイヤーの位置を固定し、メスでガイドワイヤーに接する皮膚、特に真皮を数ミリ切開します。通常のセルジンガー法同様にダイレーターで拡張した上でガイドワイヤーに被せ沿わせてカテーテルを留置します(図11)。

ニードルガイドを用いない穿刺
図11
右内頸静脈ルートで留置された中心静脈カテーテル


d. スキンドレッシング カテーテル周囲は画像用ゼリーを清拭したあと良く消毒し、固定器具を用いて皮膚に固定し、挿入部を透明フィルムドレッシング材で密閉します。輸液ラインにループを作り、テープで固定します。

4.おわりに

エコーを用いた中心静脈カテーテルの留置法について述べました。留置するカテーテルや穿刺理論はランドマーク法と変わりませんが、誤穿刺を無くすための画像描出が優先されるために、従来とは全く違う穿刺角度や穿刺部位となっている事実を受け入れ、新しい手技として鍛錬しなければならない3)ことを理解していただきたいと思います。

文献

  1. 津福 達二, 田中 眞紀, 磯邉 眞, 武田 仁良, 篠崎 広嗣, 山口 美樹, 岡田 一貴:リアルタイムエコーガイド下内頸静脈穿刺法を用いた皮下埋込型中心静脈ポート造設術. 久留米医学会雑誌75(3-4):128-133,2012
  2. 徳嶺 譲芳 : エコーガイドCV穿刺のEvidenceを考える 超音波ガイド下中心静脈穿刺のエビデンス.日本臨床麻酔学会誌32(7):890-896,201
  3. 杖下 隆哉:エコーガイドCV穿刺のEvidenceを考える 当院における中心静脈カテーテル留置環境とその教育体制.日本臨床麻酔学会誌32(7):883-889,2012

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