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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
2.15 特殊病態下でのTPN


福井大学医学部附属病院がん診療推進センター 片山寛次

片山寛次
記事公開日 2012年7月19日
改訂2021年4月22日

はじめに

病態別のTPNとして臨床上重要と考えられる、重症病態、腎臓疾患、耐糖能異常の各病態について管理の概要を示す。

1.重傷症例 Critical ill patients

重傷病態においても、腸管が使えるときには経腸栄養が優先されることは論を待たない。しかし、循環不全や術後合併症などにおける重傷病態では、意識低下や鎮静の上で挿管、呼吸管理により経口摂取ができない症例、循環状態不良、腸管イレウスにより経腸栄養が施行できないなどの理由でTPNを選択せざるを得ないことに遭遇することが多い(表1)。

表1:TPNの適応となる重症病態の例

1.重症腸管麻痺

2.消化管縫合不全

3.吸収不良症候群、難治性下痢

4.High output 消化管瘻

5.消化管閉塞

6.腸管虚血、門脈血栓症

7.薬剤・放射線による広範腸粘膜損傷

8.重症感染症による循環動態不安定

9.心不全による循環動態不安定

10.多発外傷

11.重傷熱傷

不安定な循環動態での経腸栄養では、(1) 大量の昇圧薬投与、大量輸液、輸血が必要な場合など、循環状態が不安定な場合は、血行動態が安定するまで(平均血圧>60mmHg) 経腸栄養の開始を控えるべきでとされている。(2) 循環動態不安定な病態では腸管血流が低下、経腸栄養により腸管酸素消費量が増大し、血圧低下、非閉塞性腸管壊死(NOMI)をきたす恐れもある。(3) 腸管虚血の症状(経腸栄養開始後の血圧低下、腹部膨満、胃残 増加、胃管逆流増加、蠕動音減少、乳酸アシドーシス)を認めた場合は経腸栄養を中止するべきである 1) 。また、呼吸循環不全や敗血症を含む多臓器不全の症例など、各病態が複合した上に、エネルギーと蛋白の需要が著しく亢進し、窒素平衡の維持改善に難渋する事が多い。従って、経腸栄養が開始可能になるまでの期間はTPNが必要となることが多い。
 この時期の診療の目的は救命であり、原病の治療が優先されることはやむを得ない。多くの症例で、NSTのサポートが開始される時点で著しいPEM状態、溢水または脱水、電解質異常を伴う。重要なことは、主治医チームが行う救命治療にも参画し、原疾患への治療方針内で少しでも上記への配慮を行うことである。このような主治医チームに喜んで受け入れられる提案を行うことが重要である。

1.1 重傷患者のTPN計画

静脈ルート選択:中心静脈栄養:心不全、腎不全により輸液量が制限される場合。遷延する敗血症がない場合はCVカテーテルによる(PICCも可)TPNを要する。
 静脈栄養管理開始の指標としての循環動態としては血中乳酸値の改善が重要である。
 水分量の決定:心不全では循環器チーム、腎不全ではステージ、透析療法の有無、方法により腎臓チームと相談して決定する。
 必要エネルギーの算定:急性期における静脈栄養の至適エネルギー投与量は明確ではない1)。欧州静脈経腸栄養学会ESPENのガイドライン 2)では、必要エネルギー量の推定は、間接熱量計に拠る事が望ましいが、侵襲下の内因性エネルギー基質を加えてのOver-feedingは予後を悪化するという考えもあるので、基本的には簡易式を用いて、標準体重(BMI<25なら現体重)あたり25kcal/kg/dayと少なめから開始すべきである。その後生化学検査所見、糖、TGなどのモニタリングを行いながら2-3日かけて目標値まで増加させることを推奨している。間接熱量計が使える場合でも、内因性のエネルギー基質やインスリン抵抗性を考慮して、その値の70%から投与を開始することが薦められる 3)。栄養評価の時点ですでに長期間に亘る栄養摂取不良が推測される場合は、refeeding syndromeに注意して低カロリーから漸増する(PDNセミナー別項refeeding syndrome参照)。
 アミノ酸量:腎機能、肝機能に応じて、総量、必須アミノ酸比率、分子鎖アミノ酸比率をも考慮すべきである。侵襲が大きいからといって、かならずしも分子鎖アミノ酸比率を上げる事が有用ではない 4)。ESPENの集中治療静脈栄養ガイドライン 2)では、1.3–1.5 g/kg 理想体重の投与で、なかでも0.2–0.4 g/kgのグルタミン含有を推奨しているが、我が国では使えない 2)
 脂質量:TPN管理が長期化する場合には脂肪乳剤投与は必須である。敗血症、肝不全、高中性脂肪血症では脂肪乳剤は使えないまたは制限される。インスリン抵抗性により高血糖状態の場合、糖質投与を削減するため、又は腎機能に応じてNPC/Nを維持改善するためにも脂肪乳剤は有用である。脂肪乳剤(LCT、MCTまたは混合乳剤)の静脈内投与は、12~24時間かけて0.7g/kg~1.5g/kgの割合で安全に行うことができる 2,4)
 糖質:血糖が140-180を維持できる範囲で残りのエネルギーを糖質で投与する。必要に応じてインスリンを併用する。(耐糖能異常の項を参照)
 電解質:必要に応じて補正する。
 微量元素:重症度の高い集中治療患者への総合ビタミン剤, 微量元素製剤の通常量の投与を強く推奨するが,投与推奨量を決定する十分なデータはない 2,4)
個々の症例に応じて必要な組成を策定し、50%や70%ブドウ糖、電解質補正液、アミノ酸製剤、脂肪乳剤、ビタミン剤、微量元素製剤などを組み合わせて作成する。注意すべきは、既製のTPN輸液製剤を漫然と用いることである。既製製剤に足りない栄養素を追加したり、過剰になるときはその一部を利用して残りを破棄すること等も考慮する。
 ここでTPNを本来の完全静脈栄養≠中心静脈栄養と定義すれば、心不全、腎不全がなく、輸液量の制限がない症例、特に敗血症を伴う場合は、末梢静脈からの完全静脈栄養も可能であり、比較的十分な栄養維持が可能である。TPN管理中に合併したCVC感染による3日ほどのCVC留置不能期間にも有用である。表2にビタミン配合糖・アミノ酸維持液、およびビタミン配合糖・アミノ酸・脂肪加維持液による末梢静脈からの完全静脈栄養計画例を示す。浸透圧比は3未満ではあるが、やはり血管炎の頻度は高く、TPN製剤より感染しやすく、水過剰が危惧されるので、長期間の栄養維持は困難である。

表2 ビタミン配合糖アミノ酸加維持液と脂肪乳剤の組み合わせ、
または、ビタミン配合糖アミノ酸脂肪加維持液による輸液計画例

製 剤

ml

総カロリー

kcal

糖質

gr

アミノ酸

gr

脂質

gr

NPC/N

A

ビタミン配合糖アミノ酸加維持液

2000

840

150

60

 

 

10%脂肪乳剤

250

275

 

 

25

 

合 計

2250

1115

150

60

25

91

B

ビタミン配合糖アミノ酸加維持液

2000

840

150

60

 

 

10%脂肪乳剤

500

550

 

 

50

 

合 計

2500

1390

150

60

50

120

C

ビタミン配合糖アミノ酸加維持液

2200

1240

150

60

40

 

合 計

2200

1240

150

60

40

105

NPC/N : 非タンパクカロリー窒素比

2.腎不全 (Kidney Disease)

腎不全は、急性腎障害(Acute kidney injury : AKI)と、慢性腎臓疾患 Chronic Kidney Disease : CKDとに分けられる(表3)が、両者における栄養管理は大きく異なる。

表3 AKI, CKDの定義
  腎機能 期間
AKI

7日間以内の血清Cr>50% 又は
2日間以内の血清Cr増加≧0.3mg/dl 又は
乏尿

なし

CKD

3ヶ月以上にわたるGFR<60ml/min/1.73m2

3ヶ月以上にわたる腎障害

2.1 急性腎傷害 ( Acute kidney injury : AKI )

かつての急性腎不全/急性尿細管壊死、から腎傷害という概念に変わり、ステージ分類により早期の段階から治療に介入する必要性を示している5) (表4 )。2012 年にKDIGO(2003年に設立された腎臓病診療ガイドラインの国際機関、Kidney Disease ; Improving Global Outcome:世界腎臓病予後改善イニシアチブ)基準としてAKIの定義は以下の 3 つのいずれかにより定義されるとした。1) 48時間以内に血清Cr値が0.3 mg/dl以上上昇した場合、または 2) 血清Cr値がそれ以前 7 日以内に判っていたか予想される基礎値より1.5 倍以上の増加があった場合、または 3) 尿量が6 時間にわたって0.5 ml/kg/時未満に減少した場合。また,3つにステージ分類された5)(表4)。
 遭遇するAKIの多くは敗血症や多臓器不全など、重症病態に伴って発生することがほとんどである。その原因は、腎血流量の低下や腎血行障害等による腎前性、敗血症や薬剤性、虚血や腎毒性物質による急性尿細管壊死等が原因の腎性、尿路閉塞による腎後性など多岐にわたる。多くは腎機能の回復まで持続的腎機能代替療法(Continuous renal replacement therapy ; CRRT)が行われる。

表4 AKIのKDIGO分類
ステージ 血清クレアチニン 尿量
1

基礎値の1.5-1.9倍 又は
0.3mg/day以上増加 

6-12時間持続して0.5ml/kg/時以下

2

基礎値の2.0-2.9倍

12時間以上持続して0.5ml/kg/時以下

3

基礎値の3倍以上 又は
0.4mg/day以上増加 又は
腎代替療法開始 又は
18歳未満で
eGFRが35ml/min/1.73m2未満

24時間以上持続して0.3ml/kg/時以下
又は12時間以上無尿

eGFR:推算糸球体濾過量
 血清Cr値が≧0.3 mg/dl上昇は 48 時間以内に基礎Crより≧1.5 倍の増加は 7 日 以内に判断する

2.1.1 AKIの治療方針、水電解質管理

原疾患の治療、敗血症の治療、腎前性傷害の除去、腎毒性物質の除去、の上で、輸液栄養管理によってCKDへの移行なく回復させることが重要である。循環導体不良などにより経腸栄養が困難で、輸液量が制限されるなら、末梢静脈栄養PPNは困難である。TPN、必要なら血液浄化法の併用を考慮する。ただし、早期の透析導入で生命予後が改善するというエビデンスはない6)。全経過を通じて体液量のモニタリングは重要であり、インピーダンス法等体成分測定による経時的なドライウエイトのモニタリングは有用である。

2.1.2 AKIにおける栄養管理

AKIという病態そのものが代謝量に与える影響は少なからず大きい。しかしその原因となる病態の多くがProtein energy wasting (PEW) 状態を合併している事が重要である7)(表5)。PEWとは、体タンパクの喪失や筋肉量・脂肪量が不足した病態であり、PEWが重篤となった病態がCachexia;悪液質である。食事摂取量が不十分で必要な栄養所要量を満たさない場合は、Malnutrition;栄養不良であり、今までの栄養管理、食事摂取量調査などによる鑑別が必要である。腸管が使える場合は経腸栄養(EN)が基本であるがここではENが不可能または不十分な場合を想定して静脈栄養について考察する。

表5 Protein energy westing ; PEWの診断基準
血液生化学

・血清アルブミン<3.8g/dL
・血清トランスサイレチン< 30mg/dL
・血清コレステロール<100mg/dL

体成分

・BMI<23 ・体重減少:5%/3 ヶ月または10%/6 ヶ月 ・体脂肪率<10%

筋量

・筋肉量減少が5%/3ヶ月または10%/6ヶ月
・上腕筋囲長の10%以上の減少
・正味クレアチニン生成量*

食事摂取

・食事たんぱく摂取<0.6g/kg/day が少なくとも2ヶ月持続(保存期)
・食事たんぱく摂取<0.8g/kg/day が少なくとも2ヶ月持続(透析期)
・食事エネルギー摂取<25kcal/kg/dayが少なくとも2ヶ月持続

文献7より改変
 4つのカテゴリーがあり、1項目でも該当するカテゴリーが3つ以上ある場合、PEW と診断される
 *尿中、透析液中排泄クレアチニンから推測


 米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine :SCCM)と米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition : A.S.P.E.N.)のガイドラインでも、重症病態においては十分なたんぱく質、アミノ酸)の投与と、Overfeedingを避けるような栄養必要量の設定が推奨されている8,9)
 内因性のエネルギー基質が産生される異化期においては、総カロリーは非窒素カロリーとして少なめに、20-25kcal/kg体重/日と少なめから始めるのが安全で、同化期ではモニタリングしながら増量する。
 アミノ酸はいわゆる腎不全用アミノ酸が用いられることが多いが、この組成のアミノ酸投与が一般的アミノ酸製剤より患者の予後を改善させるというエビデンスは無い。むしろこれらのアミノ酸製剤の濃度は薄く、必要なアミノ酸を十分投与できない弊害に注意を要する。PEWの病態ではアミノ酸必要量は1.2~1. 5g/kg体重/日以上と多く、積極的なPEWへの対応が必要になってくる。 ESPENのLLLテキストでは、腎代替療法を受けているAKI患者は、少なくとも1.5g/kg/dayのタンパク質を摂取すべきであり、エネルギー必要量は間接熱量計が利用できない場合は、20~30kcal/kg/dayを処方すべき。持続透析を受けている場合、透析液中のアミノ酸の損失を補うために、タンパク質の摂取量を約0.2g/kg/日増やす、としている10,11)。したがって、TPNにおいて、PEWの有無によりアミノ酸必要量を考慮し、透析中は通常のアミノ酸組成で、十分な量のアミノ酸投与が必要である(表6)。

表6 AKI時のTPN管理 PEW : Protein energy wasting.

アミノ酸投与量

g/kgBW/d

脂質投与量

g/kgBW/d

糖質投与量

NPC/N比

ビタミン

K, P, Mg

PEW無し

0.8-1.2

1.0 前後

300前後

総合ビタミン剤連日
*RDA

低下に注意

PEW有り

1.2以上,透析も考慮

150-300

透析開始後

1.5で開始し増量
持続透析では1.7

150以下も可

水溶性ビタミン低下
脂溶性ビタミン過剰に注意

*RDA : recommended dietary allowance;推奨量)


 脂肪酸の利用はAKIでも維持されており、重要なエネルギー基質である。脂肪乳剤は、必須脂肪酸の補給だけでなく高血糖を回避しリン補給の意味からも1g/kg体重/日の補給が推奨される12)。18~24時間かけて注入し、血清TGをモニタリングし、TGが400mg/dL(~5.3mmol/L)を超えたら脂質の投与を中止する。なお、血液透析患者の約 90%は L-カルニチン欠乏をきたしていると報告されている。骨格筋および心筋内のL-カルニチンが極端に不足しており、脂肪酸の利用ができないことがある。可能なら500 mg 程度のL-カルニチンを経腸的に摂取させるのが望ましい13)
 ビタミンはAKIでは欠乏することが多く、総合ビタミン剤の毎日の投与が必要である。
 微量元素では、リン、カリウム、マグネシウムが腎不全では髙値を示すが、長期間の栄養障害後の栄養投与による重篤な合併症であるrefeeding syndromeにおける低下に注意を要する。また、水溶性ビタミンは透析を開始すると透析液への漏出により低下しやすい。

2.2 慢性腎臓疾患 Chronic Kidney Disease : CKD

我が国でCKDの原因で最も多いのは糖尿病性腎症である。
 CKD時のTPN管理に関するガイドラインは我が国では未だない。「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014版」14)では、新たにGFR によるステージごとのエネルギーと各栄養素の摂取基準が示された。表7に保存期CKDにおける食費療法基準を、表8に腎代替療法時のCKDにおける食費療法基準をまとめた。経腸栄養が困難な症例では十分なアミノ酸とエネルギーを制限された水分量内で投与しなければならないのでTPNが必要となる。その投与内容はこれら食事基準を参考にせざるを得ない。

表7 腎代替療法によるアミノ酸・たんぱく質喪失量
  血液透析
1回
腹膜透析
1日
持続的血液透析
1日
アミノ酸 8-12g 3-4g 10-15g
たんぱく質 1-3g 10g 5-10g

文献14から改変

   
表8 保存期CKDにおける食事療法基準

ステージ  (GFR)

エネルギー

(kcal/kgIBW/day)

たんぱく質

(kcal/kgIBW/day)

食塩

(g/day)

カリウム

(mg/day)

ステージ 1  (GFR≧90)

25-35

過剰な摂取を控える

3g-6g未満

制限無し

ステージ 2  (GFR 60-89)

過剰な摂取を控える

制限無し

ステージ 3a (GFR 45-59)

0.8-1.0 制限無し

ステージ 3b (GFR 30-44)

0.6-0.8 2,000以下

ステージ 4  (GFR 15-29)

0.6-0.8 1,500以下

ステージ 5  (GFR <15)

0.6-0.8 1,500以下

    5D 透析療法中

透析期CKDにおける食費療法基準参照

慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014から改変

2.2.1 保存期慢性腎不全患者のTPN

保存期CKD患者のほとんどは、蛋白摂取の不足と尿蛋白の漏出により低蛋白血症状態にある。このような症例に大きな浸襲が加わり、エネルギーと蛋白の需要が亢進した場合、窒素バランスは急速に悪化し、重篤な低蛋白血症、創傷治癒遅延、免疫不全により浸襲の原因疾患の治癒は望めなくなり、予後はきわめて不良である。CKDという病態そのものが代謝量に与える影響は少ない。しかし、保存期CKD症例でENが不能であれば、水分制限と必要エネルギー維持のためにTPNが必須となる。CKD患者におけるPNの目標は、1) PEW→悪液質を引き起こす栄養不足の予防および治療。2) 最適なレベルのエネルギー、必須栄養素および微量元素の供給を確保すること。3) タンパク質またはリン酸塩の制限によるCKDの進行の抑制、である。
 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014版」14)では、蛋白質投与量は、ステージ3~5 の 保存期CKD 患者では、腎機能障害の進行抑制のため、病態に応じた蛋白質制限を考慮する(表7)。一方、による「糖尿病および慢性腎臓病(CKD)患者管理のための診療ガイドライン2020年版」15)表9)では、「標準的な食事でのタンパク質摂取量である0.8g/kg体重/日と比較して摂取量が少ないと、糸球体の過剰濾過が抑えられ、CKDの進行が遅くなるという仮説が立てられているが、臨床試験では、食事によるタンパク質の摂取量を低く制限することで、腎臓やその他の臨床結果が改善されることは支持されていない。したがって、1日の食事によるタンパク質の摂取量は、世界保健機関が一般人口に対して推奨しているレベル(約0.8g/kg)を維持することが推奨される」とされた。

表9 腎代替療法期CKDにおける食事療法基準

ステージ

エネルギー

(kcal/kgIBW/day)

たんぱく質

(kcal/kgIBW/day)

食塩

(g/day)

水分

カリウム

(mg/day)

リン

(mg/day)

ステージ5D
週3回血液透析中

30-35 0.9-1.2

6g未満

できるだけ
少なく

2,000以下

≦たんぱく質
(g)×15

ステージ5D
腹膜透析中

除水量L×7.5
+尿量×7

除水量
+尿量

制限無し

≦たんぱく質
(g)×15

 体重は基本的に理想体重 (IBW)を用いる             性腎臓病に対する食事療法基準 2014から改変


 保存期CKDでは、血中UNの増加と体蛋白の異化を抑制するために、NPC/N比を300以上に維持することが勧められる。TPNの策定では、ブドウ糖は主に50%製剤を用いて調整、時には70%製剤も用いる。アミノ酸投与量は、ステージに応じて0.6から1.0g / Kg理想体重 /日である(表7)。腎機能に応じて腎不全用アミノ酸製剤を用いることがあるが、アミノ酸濃度が薄く、アミノ酸必要量を補うために水分投与量が増加する。また、その効果にエビデンスは無い。TPN中に脂肪乳剤を投与しなければ、成人では約4週間で必須脂肪酸欠乏症が発生するといわれる16)。必須脂肪酸欠乏症を予防するために10g/day程度の脂肪を投与する必要がある。

2.2.2 腎代替療法期腎不全患者のTPN

腎代替療法(renal replacement therapy ; RRT : 血液透析、腹膜透析など)が必要になった場合は、各栄養素の透析液への損失を補填しなければならない。血液透析では透析液に漏出するアミノ酸とたんぱくの損失、腹膜透析ではたんぱく質の喪失が10-15gにもなり、持続透析では15-25gにもなる(表7)14)
 日本腎臓学会編「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014版」15)では、腎代替療法を行っている症例では、エネルギーは理想体重IBWkgあたり30-35kcal、たんぱく質・アミノ酸は0.9-1.2g。日本静脈経腸栄養学会編.静脈経腸栄養ガイドライン第3版では、血液透析および腹膜透析の患者では、35 kcal/kg/ 日の総エネルギー量を投与する。たんぱく質は血液透析患者で1.0~1.2 g/kg/日、腹膜透析患者で1.1~1.3 g/kg/日を投与する、としている16)。KDIGO「糖尿病およびCKD患者管理のための診療ガイドライン2020年版」17)では、透析を受けている患者、特に腹膜透析を受けている患者は、異化作用と負の窒素バランスを相殺するために、1日の食事によるタンパク質摂取量を1.0~1.2g/kgまで増やすことができるとしている。そのうえで栄養指標のモニタリングを綿密に行う。TPNによっても栄養指標が低下するなら、重篤化を待たずに積極的に血液透析も考慮すべきと言う意見もあるが、まだエビデンスはない。また、腎代替療法中のTPNに腎不全用の非生理的アミノ酸製剤は用いるべきではなく、通常型のアミノ酸製剤を用いる。必要量である1.2mg / kg体重 /日までアップし、その上で栄養モニタリングを行い、必要で可能なら1.5mg / kg体重 /日までアップする。持続血液透析の場合は、1.5-1.7g / kg/dayの通常型のアミノ酸を要する。透析又は血液ろ過を受けている患者にアミノ酸含有輸液製剤を使用する際の注意事項:ガイダンスが、日本臨床栄養代謝学会HPに示されている18)。脂肪乳剤も投与は必須である。脂肪乳剤は透析液への損失は考慮しなくても良い。血液透析を実施している場合、水溶性ビタミンの透析液への喪失があるので欠乏に注意が必要で、まずはRDA文の投与を行うが、脂溶性ビタミンは除去効率が低いので脂溶性ビタミンの過剰症にも注意が必要である。TPNに補充する微量元素については、市販の製剤1本の含有量は成人の摂取基準推奨量に満たない。血液透析中は、透析液への喪失による欠乏に留意すべきである9)
 インシュリン抵抗亢進による高血糖に対しては、厳格な血糖管理の必要性に関するエビデンスはないが、200mg/dl程度にインスリンによるコントロールが必要と考えられる。ただし、腎は多くのブドウ糖を代謝するので、低血糖は避けなければならない。150mg/dl以上に保つことが安全と言われる16,17)

注意:腎代替療法(血液透析、腹膜透析)とアミノ酸製剤
 我が国では、アミノ酸製剤、アミノ酸含有維持輸液製剤、アミノ酸含有TPN製剤は、その能書上、腎機能障害時には禁忌とされていた。そのために、腎代替療法時に、より多く補給すべき通常組成アミノ酸が使用出来ず、本来代償期腎不全用の非生理的とも言える腎不全用アミノ酸を投与せざるを得ない状態が長く続いた。日本臨床栄養代謝学会では、2017年から「静脈栄養製剤の禁忌事項記載の見直しに関する要望書」を厚生労働省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、その結果、2020年6月以降、アミノ酸含有輸液製剤の添付文書の禁忌を「重篤な腎障害のある患者(透析又は血液ろ過を受けている患者を除く)」等に変更することができている19)

Intradialytic parenteral nutrition : IDPN
 透析患者のサルコペニア・フレイルが重要課題とされている。栄養障害のある血液透析患者に実施可能な静脈栄養法として、intradialytic parenteral nutrition : IDPNが有用であるとされる。透析回路を利用した高カロリー輸液を、血液透析回路の静脈側にアミノ酸製剤を含む高濃度のブドウ糖液などを投与する。透析回路は血流量が多く、高浸透圧の輸液が可能である。ESPENのガイドラインでは、経口補助食品( O N S )を十分摂取できない場合に考慮するとされる14)。2020年から一般用アミノ酸輸液製剤は禁忌であった「重篤な腎障害のある患者」から,「透析又は血液ろ過を受けている患者」が除外されることとなったことから、日本透析医学会の透析患者に対する静脈栄養剤投与ならひびに経腸栄養に関する提言検討委員会から、「栄養障害のある血液透析患者に対するIDPNの推進と安全維持に関する提言」が発表された20)。従来は 50%ブドウ糖液や腎不全用アミノ酸輸液製剤が IDPNいられたが、添付文書の改訂以来,症例に応じて一般用アミノ酸輸液製剤や,アミノ酸・糖含有キット輸液製剤も利用可能となる。アミノ酸の利用効率を考慮し,糖質液や脂肪乳剤を併用する必要がある。20%脂肪乳剤 100 mL(エネルギー200 kcal)を併用することで,必須脂肪酸を補充するとともに,非蛋白カロリー窒素比(NPC/N 比)を改善できる。なを、比較的短時間で高濃度の成分を投与することになるので、血糖およびTG値の測定をしてその上昇に注意する。あくまでも補助的な手段であり、IDPNだけでは必要量を充足できない。栄養療法の評価においては,従来の各種栄養指標や体重に,筋力,身体機能や筋肉量,患者の日常生活動作(activity of daily living: ADL) や生活の質(quality of life: QOL)にも注目すべきである20)

3.耐糖能異常

経腸栄養が困難な耐糖能異常は、循環障害や敗血症症例、膵切除後状態に感染や他の臓器不全が加わった重傷症例、多臓器不全状態が多い。近年、浸襲時、異化期における静脈栄養時によるoverfeeding による高血糖と代謝性有害事象が問題になっている。浸襲期における生理的な異化作用により新生される内因性エネルギーを想定し、足りない部分を外因性エネルギーで足すべきであり、それ以上の投与基質は過剰供給となる、という考え方である21)。このような症例に強化インスリン療法22)を行うことの是非と過剰な糖質投与による有害事象とは切り離せない問題である。従来、文献的にTPNよりENの優位性が喧伝されたが、これも結局overfeedingの問題であったかもしれない9)。PNはENに比してOverfeedingを起こしやすい、とも言われたが、良くコントロールされたPNは、EN不対応の時期には有用である。過度の外因性栄養供給によるOverfeedingの検出には,間接熱量計によるREEのモニタリングと、その結果として起こる炎症の評価とが有用であるといわれる21)。高血糖が炎症反応を増強すること10)とインスリンに抗炎症作用があること11)に加えて、精密な血糖コントロールによるインスリン療法による生存率改善の可能性から血糖管理の重要性が注目されてきた。

3.1 重症症例のTPN時の血糖コントロール

2001年から2010年にかけ、血糖を80-110mg/dl以下にコントロールするタイトな血糖管理の是非について多くの臨床研究とメタ解析が行われたが、その有効性は明らかでなく、これはしばしば合併する低血糖のためとも考えられた。Hirshberg等12)は血糖の変動こそが死亡と有意な関係にあることを報告した。現在考えられる安全で有効な精密血糖コントロールでは、炎症を助長せず、細胞免疫を阻害せず、浸透圧利尿が起こらないという点で血糖を180mg/dl以下に維持することが重要である8)。インスリンの持続投与と糖質輸液のポンプを使った持続投与を併用することでよりなだらかな血糖変化を維持するべきである。血糖測定とインスリン投与量のコントロールは血糖が不安定な時期には頻回に行うべきである。ESPENの Guidelines on Parenteral Nutrition: Intensive careでは、血糖180mg/dl以上では生命予後不良だが、80から110という、タイトなコントロールは推奨できない、とされている。SCCMとASPENの重症患者栄養管理ガイドライン8)では、血糖は、140-180mg/dlを目標に維持すべきであり、overfeedingを回避するために総カロリーは20kcal /kg体重/日程度の少なめから開始する。糖質の投与量は、十分な脂質、アミノ酸投与とともに最小限を心がけるべきであると記載されている。日本静脈経腸栄養学会編.静脈経腸栄養ガイドライン第3版では、重症例の目標血糖値は、食前 140mg/dL 未満、随時 180mg/dL 未満とする。以上から血糖コントロールの概要を表10にまとめた(表10)。今後持続血糖値モニターの普及が待たれる。

表10 耐糖能異常に対する TPN時 血糖コントロール

目標血糖値

180mg/dlを超えない,140-180で日内変動が少ないことが望ましい

インスリン投与

ポンプで持続投与

投与総カロリー

20kcal/ kg体重/d程度の少なめから増量

投与糖質量

十分な脂質,アミノ酸投与とともに最小限,均等持続投与が基本

血糖測定

血糖が不安定な時期は頻回に, 持続血糖測定器が理想

文献

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