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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
2.15 特殊病態下でのTPN


福井大学医学部附属病院がん診療推進センター 片山寛次

片山寛次
記事公開日 2012年7月19日

はじめに

病態別のTPNとして遭遇する機会が多く、近年栄養管理に対する考え方が変わりつつある慢性腎臓疾患、急性腎傷害、耐糖能障害の各病態について示す。

1.慢性腎臓疾患 Chronic Kidney Disease : CKD

我が国でCKDの原因で最も多いのは糖尿病性腎症である。

これらの病態に於いて単に経口摂取を含めた経腸栄養が施行できないという理由でTPNが選択されることは希である。TPNが選択された理由は循環管理を含む集中管理が必要な状態であることが多い。すなわち呼吸循環不全や敗血症を含む多臓器不全の症例であることが多く、各病態が複合した上、エネルギーと蛋白の需要が著しく亢進し、窒素平衡の維持に難渋する事が多い。

CKD時のTPN組成に関するガイドラインは我が国では未だない。日本腎臓学会による、エビデンスに基づくCKDガイドライン2009 1)では、血液透析に至らない保存期CKDの摂取基準のみが記載されている。透析期では、透析毎に血中アミノ酸が10%以上も透析液に損出するので、通常人の摂取量より多くの蛋白摂取が必要 2)であり、特に浸襲の加わった状態で低蛋白投与状態での透析は著しい低蛋白血症を惹起する。

1.1 保存期慢性腎不全患者のTPN

CKDガイドライン2009 1)では、慢性腎不全 (CKD) 患者の体重維持に必要なエネルキー量は、日本人の平均的な基礎代謝量を参考とし、さ らに身体活動レべルや栄養状態を考慮して決定し、経時的に評価しつつ調整を加える。蛋白質投与量は、「ステージ3~5 の 保存期CKD 患者では、腎機能障害の進行抑制のため、病態に応じた蛋白質制限を考慮する。」とある。

CKDという病態そのものが代謝量に与える影響は少ない。しかし、保存期CKD症例でENが不能であれば、水分制限と必要エネルギー維持のためにTPNが必須となる。血中UNの増加と体蛋白の異化を抑制するために、NPC/N比を300以上に維持することが勧められる。ブドウ糖は主に50%製剤を用いて調整、時には70%製剤も用いる。アミノ酸投与量は、0.6から0.8g / Kg体重 /日である。腎機能に応じて腎不全用アミノ酸製剤を用いることがあるが、アミノ酸濃度が薄く、アミノ酸必要量を補うために水分投与量が増加する。また、その効果にエビデンスは無い。保存期CKD患者のほとんどは、蛋白摂取の不足と尿蛋白の漏出により低蛋白血症状態である。このような症例に大きな浸襲が加わり、エネルギーと蛋白の需要が亢進した場合、窒素バランスは急速に悪化し、重篤な低蛋白血症、創傷治癒遅延、免疫不全により浸襲の原因疾患の治癒は望めなくなり予後はきわめて不良である。

栄養指標のモニタリングを綿密に行い、TPNによっても栄養指標が低下するなら、重篤化を待たずに積極的に血液透析を行うべきである。腎不全用のアミノ酸製剤から通常型のアミノ酸製剤にシフトしてもUNの上昇がみられなければ、必要量である1.2mg / kg体重 /日までアップする必要がある。その上で栄養モニタリングを行い、できれば1.5mg / kg体重 /日までアップしたい3)。持続血液透析の場合は、2g / kg体重 /日のアミノ酸を要する。

インシュリン抵抗亢進による高血糖に対しては、厳格な血糖管理の必要性に関するエビデンスはないが、200mg/dl程度にインスリンによるコントロールが必要と考えられる。ただし、腎は多くのブドウ糖を代謝するので、低血糖は避けなければならない。150mg/dl以上に保つことが安全と言われる4)

表1 CKD時のTPN管理
 

アミノ酸投与量

g/kg体重/日

脂質投与量

g/kg体重/日

糖質投与量

NPC/N比
ビタミン K, P, Mg
代償期 0.6~0.8 1.0 前後 300程 総合
ビタミン剤連日
上昇に注意
透析
開始後
1.2から1.5へと
適宜増量する
150以下も可 低下に注意

2.急性腎傷害 ( Acute kidney injury : AKI )

腎不全/急性尿細管壊死、から腎傷害という概念に変わり、名称には早期の段階から治療に介入する必要性を内包している5) (表2 )。

遭遇するAKIの多くは敗血症や多臓器不全など、ICUなど院内発生型がほとんどであ急性る。その原因は、腎血流量の低下や腎血行障害等による腎前性、敗血症や薬剤性、虚血や腎毒性物質による急性尿細管壊死等が原因の腎性、尿路閉塞による腎後性、に分けられる。

表2 AKIのAKIN ( Acute Kidney Injury Network ) 分類
AKIN分類 血清クレアチニン(sCr)による基準 尿量による基準
Stage 1

sCrの0.3mg/dl以上増加、または、sCrの1.5~2倍上昇

0.5ml/kg/hrが6時間以上
継続

Stage 2

sCrの2~3倍上昇

0.5ml/kg/hrが12時間以上継続

Stage 3

sCrの3倍以上の上昇、または、
sCrが4.0以上で0.5l以上の増加、
または、血液浄化法の施行

0.3ml/kg/hrが24時間以上継続、または、無尿が12時間以上継続

2.1 AKIの治療方針、水電解質管理

敗血症の治療、腎前性傷害の除去、腎毒性物質の除去、の上で、輸液栄養管理によってCKDへの移行無く回復させることが重要である。必要な輸液を行い、血清アルブミンが3.0g/dl以下の場合はアルブミン投与、必要ならドパミンやノルアドレナリンでCVPと血圧を維持する。反応が無ければ、過剰輸液に至らないうちに輸液を絞り、血液浄化法を顧慮する。全経過を通じて体液量のモニタリングは重要であり、我々はIn body を用いたインピーダンス法にて経時的にドライウエイトをモニタリングしている。最近のメタ解析では、早期の透析導入で予後が改善する可能性が報告されている6)

2.2 AKIにおける栄養管理

AKIという病態そのものが代謝量に与える影響は少なからず大きい。しかしその原因となる病態の多くがProtein energy wasting (PEW) として合併している事が重要である。腸管が使える場合は経腸栄養(EN)が基本である。ここではENが不可能または不十分な場合を想定して静脈栄養について考察する(表3)。

異化期においては、総カロリーは非窒素カロリーとして少なめに、25kcal/kg体重/日から始めるのが安全で、同化期ではモニタリングしながら増量する。アミノ酸はいわゆる腎不全用アミノ酸が用いられることが多いが、この組成のアミノ酸投与が一般的アミノ酸製剤より患者の予後を改善させるというエビデンスは無い。むしろこれらのアミノ酸製剤の濃度が薄く、必要なアミノ酸を十分投与できない弊害に注意を要する。PEWの病態ではアミノ酸必要量は1.2~1. 5g/kg体重/日以上と多く、透析導入により積極的なPEWへの対応が必要になってくる。

透析開始後は、透析液内に漏出するアミノ酸を補う必要から、栄養と腎機能のモニタリングを行いながら、1.5g/kg体重/日から徐々にアミノ酸投与を増やす必要がある。持続血液透析の場合は、2g / kg体重 /日のアミノ酸を要する。

脂肪酸の利用はAKIでも維持されており、重要なエネルギー基質である7)。脂肪乳剤は、必須脂肪酸の補給だけでなく高血糖を回避しリン補給の意味からも1g/kg体重/日の補給が推奨される。なお、著しく栄養状態の悪い透析患者では、骨格筋および心筋内のL-カルニチンが極端に不足しており、脂肪酸の利用ができないことがある。 500mg程度のL-カルニチンを経腸的に摂取させるのが望ましい。

ビタミンはAKIでは欠乏することが多く、総合ビタミン剤の毎日の投与が必要である。

微量元素では、リン、カリウム、マグネシウムが腎不全では髙値を示すが、栄養管理によるre feeding syndromeで低下することに注意を要する。また、透析を開始すると漏出により低下しやすい。

表3 AKI時のTPN管理 PEW : Protein energy wasting.
 

アミノ酸投与量

g/kg体重/日

脂質投与量

g/kg体重/日

糖質投与量

NPC/N比
ビタミン K, P, Mg
PEW
無し
0.8~1.2 1.0 前後 300前後 総合
ビタミン剤連日
低下に
注意
PEW
有り
1.2以上、透析も考慮 150~300
透析
開始後

1.5で開始し増量

持続透析では2.0
150以下も可

3.耐糖能異常

 

経腸栄養が困難な耐糖能異常は、糖尿病患者や膵切除後状態に他の臓器不全が加わった多臓器不全状態が多い。近年、浸襲時における静脈栄養時のoverfeeding による代謝性有害事象が問題になっている。浸襲期における生理的な異化作用により新生される内因性エネルギーを想定し、足りない部分を外因性エネルギーで足してやるべきであり、それ以上の投与基質は過剰供給となる、という考え方である。このような症例に強化インスリン療法8)を行うことの是非と過剰な糖質投与による有害事象とは切り離せない問題である。従来、文献的にTPNよりENの優位性が喧伝されたが、これも結局overfeedingの問題であったかもしれない9)

つまり、TPNはENに比してoverfeedingを起こしやすい、ということである。

Overfeedingの検出には,その結果として起こる炎症の評価と間接熱量計によるREEのモニタリングが有用である。

高血糖が炎症反応を増強すること10)とインスリンに抗炎症作用があること11))に加えて、強化インスリン療法8)による生存率改善の可能性から血糖管理の重要性が注目されている。

3.1 Tight glycemic control (TGC)

2001年から2010年にかけて多くの臨床研究とメタ解析が行われたが、TGCの有効性は明らかでなく、これはしばしば合併する低血糖のためとも考えられた。

Hirshberg等12)は血糖の変動こそが死亡と有意な関係にあることを報告した。現在考えられる安全で有効なTGCは、炎症を助長せず、細胞免疫を阻害せず、浸透圧利尿が起こらないという点で血糖を180mg/dl以下に維持することが重要である。インスリンの持続投与と糖質輸液のポンプを使った持続投与を併用することでよりなだらかな血糖変化を維持するべきである。血糖測定とインスリン投与量のコントロールは血糖が不安定な時期には頻回に行う。overfeedingを回避するために総カロリーは20kcal /kg体重/日程度の少なめから開始する。糖質の投与量は、十分な脂質、アミノ酸投与とともに最小限を心がけるべきである。持続血糖値モニターの普及が待たれる(表4)。

表4 耐糖能異常に対する TPN時  Tight Glycemic Control

目標血糖値

180mg/dlを超えない、140~180で 日内変動が
少ないことが望ましい

インスリン投与

ポンプで持続投与

投与総カロリー

20kcal/ kg体重/d程度の 少なめから増量

投与糖質量

十分な脂質、アミノ酸投与とともに 最小限、
均等持続投与が基本

血糖測定

血糖が不安定な時期は頻回に

文献

  1. 日本腎臓学会,エビデンスに基づくCKDガイドライン2009
  2. 慢性腎臓病に対する食事療法基準2007年版.日腎会誌 49 (8) : 871-878,2007
  3. Cano N, Aparicio M, Brunori G, et al. Parenteral nutrition in adult renal failure.Clin Nutr 2008
  4. Schetz M, Vanhorebeek I, Wouters PJ, Wilmer A, Van den Berghe G. Tight blood glucose control is renoprotective in critically ill patients. J Am Soc Nephrol 2008
  5. Mehta RL, KellumJA, Hhah SV, et al, Acute Kidney Injury Network : report of an initiative to improve outcomes in acute kidney injury. Crit care 11 : R31, 2007
  6. Seabra VF, Belk EM, Liangos O, et al. Timing of renal replacement therapy initiation in acute renal failure : a meta-analysis. Am J KidneyDis 52 : 272-84, 2008
  7. Schneeweiss B, Graninger W, Stockenhuber F, et al. Energy metabolism in acute and chronic renal failure. Am J Clin Nutr 52:596-601,1990
  8. Van den berghe G, Wousters P, Weekers K, ea al. Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med 345 : 1359-67,2001
  9. 寺島秀夫,山口龍志郎,米山智ほか.浸襲下の内因性エネルギー供給を考慮した理論的なエネルギー投与法.日外感染症会誌 7 : 267-280,2011
  10. Mohanty P, Hamouda W, Garg R, et al. Glucose challenge stimulates reactive oxygen species (ROS) generated by leucocytes. J Clin Endoclinol Metab 85 : 2970-3,2000
  11. Dandona P, Ajada A, Mohanty P, et al. Insulin inhibits intranuclear factor kappaB in mnonuclear cellsin obese subjects : evidencefor an anti-inflammatory effects? J Clin Endoclinol Metab 86 : 3257-65,2001
  12. Hirshberg E, Larsen G, Van Duker H. Alterations in glucose homeostasis in the pediatric intensive care unit : hyperglycemia abd glucose variability are associated with increased mortality and morbidity. Pediatr Crit Care Med 9 : 361-6,2008

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