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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)

2.9 アミノ酸製剤の種類と特徴


呉共済病院外科 田原 浩

田原 浩
記事公開日 2012年7月19日

2020年4月1日改訂

1.アミノ酸製剤の種類

中心静脈栄養においては、三大栄養素の蛋白質源としてアミノ酸製剤が用いられる。本邦で使用できるアミノ酸製剤は、①総合アミノ酸輸液、②侵襲時用アミノ酸輸液、③肝不全用アミノ酸輸液、④腎不全用アミノ酸輸液、および⑤新生児・小児用アミノ酸輸液、の5種類に分類される。

2.アミノ酸製剤の特徴

①総合アミノ酸輸液

総合アミノ酸輸液は、アミノ酸輸液のFAO/WHO (Food and Agriculture Organization of United Nations / World Health Organization) 基準や人乳パターンなどに準拠して作成されている。バランスがよく、長期処方に向いている。アミノ酸濃度は10~12%、必須アミノ酸(E)と非必須アミノ酸(N)の比(E/N比)は約1、分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid:BCAA)は21~23%に調整されている。

◇製品名:
  • モリプロンF輸液(エイワイファーマ)
  • プロテアミン12注射液(テルモ)
◇キット製剤:
  • ピーエヌツイン輸液(モリプロンF輸液含有)(エイワイファーマ)

②侵襲時用アミノ酸輸液

TEO基準(アミノ酸輸液検討会から提唱された基準)に準拠して作成されている1)

BCAAは30~36%と高く、必須アミノ酸を増量し(E/N比1.3~1.7)、グリシン・グルタミン酸・アスパラギン酸など過量投与で毒性となるアミノ酸を減量していて、侵襲時に有用である。

◇製品名:
  • アミパレン輸液(大塚製薬工場)
  • アミゼットB輸液(テルモ)
  • アミニック輸液(エイワイファーマ)
◇キット製剤:
  • エルネオパNF輸液、ネオパレン輸液、アミノトリパ輸液、ミキシッド輸液(以上アミパレン輸液含有)(大塚製薬工場)
  • フルカリック輸液(アミゼット輸液含有)(テルモ)

③肝不全用アミノ酸輸液

肝性脳症では、BCAAの血中濃度が低く、芳香族アミノ酸(フェニルアラニンやチロシン)、メチオニン、トリプトファンの血中濃度が高いという特徴的なアミノ酸パターンを示す2)。そのため、Fischer比と呼ばれるBCAA(バリン+ロイシン+イソロイシン)/芳香族アミノ酸(aromatic amino acid:AAA)(フェニルアラニン+チロシン)モル比やBCAA/チロシン比(BTR)は低くなる。肝性脳症に対して、BCAA含量が多く、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンの含量が少なく、チロシンを含まない特殊組成のアミノ酸輸液(Fischer処方)が考案され、意識障害の改善効果があることが報告された2)。アミノレバン®はFischer処方に基づいている。また、血中アンモニア低下作用および血中遊離アミノ酸パターンの改善作用について検討されて、アルギニンを増量し、メチオニン、チロシンを減量した輸液(モリヘパミン®)が開発された。

◇製品名 :
  • モリヘパミン輸液(エイワイファーマ)
  • アミノレバン点滴静注(大塚製薬工場)

④腎不全用アミノ酸輸液

腎不全、特に透析導入前の保存期腎不全患者における末梢静脈栄養および中心静脈栄養で用いられる。腎機能を維持し尿毒症の改善を図りつつ、栄養改善・維持を目的に使用する。腎不全では腎臓でのアミノ酸代謝が障害され、また治療としての蛋白質摂取の制限により血中必須アミノ酸(特にBCAAとスレオニン)が低下し、ヒスチジン、チロシン以外の非必須アミノ酸は高値を示していることが多い3)。安全性、有効性を考慮して、必須アミノ酸を中心に最低限の非必須アミノ酸を配し、E/N比は2.6となっている。BCAA含有量は42~46%と高い。

◇製品名 :
  • ネオアミユー輸液(エイワイファーマ)
  • キドミン輸液(大塚製薬工場)

⑤小児用アミノ酸輸液

新生児、乳児及び1~3歳の幼児におけるアミノ酸補給に用いる。この時期は急速な成長がみられる一方アミノ酸代謝能が未熟なことから、成人用アミノ酸輸液を用いると、特定のアミノ酸が過剰や欠乏を来すことが懸念されるため、小児用アミノ酸輸液が開発された。BCAAの配合比は39%と高く、脳・神経、網膜組織の発育に必要で母乳に多く含まれているタウリンを配合し、チロシン、システイン及びアルギニンを増量している。小児では過量投与により脳障害や成長障害を起こすおそれがあるメチオニン、フェニルアラニンを減量し、さらに高アンモニア血症や成長障害が懸念されるグリシン、スレオニンを減量している。

◇製品名 : プレアミン-P注射液(扶桑薬品工業)
表1 市販されている主なアミノ酸製剤(クリックで拡大)
表1 市販されている主なアミノ酸製剤

3.アミノ酸輸液の使い方

3.1  蛋白質投与量の決定

1日の必要蛋白質量(g)は、侵襲係数×体重(kg)で計算される。侵襲係数が大きな病態では、必要蛋白質量は増加する。

3.2 蛋白質投与量の割合

投与する三大栄養素のうち、糖質と脂質はエネルギー源として、アミノ酸は蛋白合成に利用されるのが本来の目的である。「糖質+脂質」のエネルギー(kcal)と窒素(g)の割合をNPC/N比(non-protein calorie/nitrogen ratio)という。

侵襲がない状態では、投与された蛋白質が有効に蛋白合成に利用されるためには、窒素1gに対して150~200kcalの非蛋白エネルギーが必要とされる。NPC/N比は病態によって変化する値で、異化亢進状態(熱傷や感染症など)ではNPC/N比は100~150、腎不全ではNPC/N比は300~500に設定する。

3.3 窒素係数について

蛋白質は一般に16%の窒素を含有するので、1g窒素=100/16g蛋白質=6.25g蛋白質となる。この係数6.25を蛋白質の窒素係数という。

3.4 窒素バランスについて

蛋白質代謝状態を把握するためには、窒素バランスを計算するとよい。窒素バランスは、(総窒素投与量)-(総窒素排泄量)で求められる。

窒素バランスが正のときは蛋白同化状態、負のときは蛋白異化状態と判断される。

(方法1)

体内の窒素は約80%が尿中に排泄されるため、尿中の尿素窒素を測定することにより総窒素排泄量を求める。

総窒素排泄量(g/day)=尿中尿素窒素(g/day)×5/4
 窒素バランス=総窒素投与量-総窒素排泄量

(方法2)

尿中尿素窒素以外の窒素排泄量(糞便や汗など)を1日4gとしたBlackburnらの方法を用いる。

窒素バランス=(蛋白質投与量÷6.25)-(尿中尿素窒素+4)

4.BCAAについて

BCAAはバリン、ロイシン、イソロイシンなど側鎖が枝分かれしているアミノ酸である。BCAAは生体の必須アミノ酸の約40%を占め、アミノ酸の中でも栄養学的効果が注目されている。

アミノ酸の需要が増大する侵襲期に、BCAAは筋蛋白分解を抑制し、蛋白合成を促進する。

アミノ酸の大部分が肝臓で代謝されるのに対し、BCAAは主に筋肉で代謝され、エネルギー源になるため、肝機能障害時などにも利用可能である。BCAAの中でも、特にロイシンが筋蛋白合成を促進し、蛋白分解を抑制する4)

5.グルタミンについて

グルタミンは小腸粘膜の主要なエネルギー基質であり、免疫担当細胞の栄養素としても重要である。また、動物実験では侵襲時にみられるbacterial translocationを抑制することが知られている。グルタミンは非必須アミノ酸であるが、侵襲時には需要が増大するため、条件付き必須アミノ酸(Conditionally essential amino acid)と言われている。

グルタミンは単体では水に溶けにくく、溶解しても非常に不安定であり、熱および光で分解してアンモニアを発生することから、本邦で市販されているアミノ酸輸液製剤には含有されていない5)。しかし、欧州では、溶解性に優れたグルタミンのDipeptideを使用した製剤が市販されている。

グルタミンは中心静脈栄養に伴う腸管粘膜萎縮やbacterial translocationの防止効果、短腸症候群での残存小腸のadaptationの促進効果が報告されている6)。米国(SCCM/ASPEN)のガイドラインでは、熱傷・外傷・ICU患者にグルタミンを投与すると記載されている7)。また欧州(ESPEN)のガイドラインでは、熱傷・外傷患者へグルタミン投与を推奨すると記載されている8)

文献

  1. 武藤輝一:最新アミノ酸輸液、医薬ジャーナル社、大阪、p.59-63, 1996
  2. Fischer JE, et al:The effect of normalization of plasma amino acids on hepatic encephalopathy in man. Surgery 80: 77-91, 1976
  3. 中原さおりら:腎と透析 臨時増刊号:249-255, 2007
  4. 市原 明:外科と代謝・栄養 22:281-288, 1988
  5. 日本静脈経腸栄養学会静脈経腸栄養ハンドブック 南江堂、東京、p277-278, 2011
  6. Wilmore DW: JPEN 23: S117-S120, 1999
  7. Zheng YM, et al: World J Gastroenterol. 12: 7537-7541, 2006
  8. McClave SA, et al:JPEN 33:277-316, 2009
  9. Singer P, et al:Clin Nutr 28:387-400, 2009
  10. Andrews PJ, et al: BMJ 342: d1542, 2011
  11. Heyland D, et al: N Engl J MedN Engl J Med 368: 1489-1297, 2013
  12. van Zanten AR, et al: JAMA 312: 514-524, 2014

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