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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)

2.10 脂肪乳剤の種類と特徴


田無病院院長 丸山道生

丸山道生
記事公開日 2011年9月20日

2015年10月20日改定

<Point>

  • 現在、本邦の市販されている脂肪乳剤は大豆油由来のみであり、大豆油トリグリセリド(TG:中性脂肪)が主成分となっている。これに乳化剤として精製卵黄レシチンが加えられている。
  • 脂肪乳剤の投与の意義は、エネルギー投与と必須脂肪酸の供給にある。
  • 脂肪乳剤は生体のカイロミクロンに似た構造の人工脂肪粒子が溶液内に浮遊している。
  • 日本人における脂肪乳剤TGの投与速度の上限は0.1g/kg/hrとされる。人工脂肪粒子が十分代謝されるように、ゆっくり投与することが大切である。

1.脂肪乳剤の種類

本邦において市販されている脂肪乳剤は、2011年11月現在、イントラリポスとイントラリピッドの2種類である(表1)。いずれも脂肪の原料は大豆油で、大豆油トリグリセリド(TG:中性脂肪)が主成分となっている。これに乳化剤として精製卵黄レシチンが加えられている。また、等張化剤として静注用グリセリンが添加され、浸透圧比1と等張となっている。pHは6.5~8.0で中性であり、白色のエマルジョンとなっている。10%と20%の製剤が市販されており、10%脂肪乳剤は1.1kcal/ml、20%脂肪乳剤は2.0kcal/mlのエネルギーを有する。10%でも20%でも乳化剤のレシチンの量は同じであるので、20%製剤の方が同じエネルギー投与であれば、レシチン量は少なくて済む。

表1 本邦の脂肪乳剤(クリックで拡大)
表1 本邦の脂肪乳剤

2.脂肪乳剤の構造(図1)

脂肪乳剤は生体のカイロミクロンに似た構造の人工脂肪粒子が溶液内に浮遊している。人工脂肪粒子の中心は多数のTG分子で構成され、その周りはリン脂質が存在し、その親水性の部分が表面に向いている1)。こうして水に溶けるようになって、乳化されている。人工脂肪粒子の大きさは100~700nmで平均は約400nmである。そのため。人工脂肪粒子の多くは200nm(0.2μm)のフィルターを通過しない。フィルターを使用する場合は、脂肪乳剤用のフィルター(孔径1.2μm)のフィルターを用いる。

図1 脂肪乳剤の構造
図1 脂肪乳剤の構造

3.脂肪乳剤の代謝と投与速度(図2)

静脈投与された脂肪乳剤は、胸管から血中にはいったカイロミクロンとほぼ同様に代謝される。脂肪乳剤の人工脂肪粒子は血中の高密度リポ蛋白(HDL)からアポ蛋白C-II、C-IIIとEが転送され、結合して(これを人工脂肪粒子のリポ蛋白化と呼ぶ)、アポ蛋白C-IIとC-IIIは毛細血管壁に存在する加水分解酵素リポ蛋白リパーゼ(LPL)を調節し、血管内で人工脂肪粒子のTGは脂肪酸とグリセロールに加水分解を受ける。Eは加水分解残基(レムナント)に残り、肝細胞のEレセプターに認識され、取り込まれる2)。加水分解されたのち、アポ蛋白C-II, C-IIIはHDLに戻り、次に進入してくる人工脂肪粒子に絶え間なく転送される。脂肪乳剤が効率よくアポ蛋白を結合してリポ蛋白化され、順調に加水分解され代謝されるのには投与速度に限界がある。日本人における脂肪乳剤TGの投与速度の上限は0.1g/kg/hrとされる3)。これを上回った速度で投与すると、血中TGが上昇をはじめ、人工脂肪粒子が加水分解されずに血中に停滞することになる。この原因はHDLより人工脂肪粒子に転送されるアポ蛋白量には限度があるからで、HDLに含まれるアポ蛋白の約20%しか転送されない4)。リポ蛋白化されない人工脂肪粒子はエネルギーとならずに、異物として網内系に認識され貪食され、それにより免疫能が低下する可能性もある。

このように脂肪乳剤の使用上の注意で最も大切なことは、人工脂肪粒子が十分代謝されるように、ゆっくり投与することである。添付文書には、「20%製剤250mlを3時間以上かけて投与する」とあるが、体重50Kgの人に3時間で投与した場合、投与速度は0.3g/kg/hrとなり、理論上は速すぎる。20%製剤250mlなら10時間以上かけて投与する必要がある。

図2 人工脂肪粒子の代謝とリポ蛋白化

図2 人工脂肪粒子の代謝とリポ蛋白化

人工脂肪粒子は図中でHDLよりアポ蛋白C-II、C-IIIとEの転送を受けて、血管内で加水分解を受ける。 アポ蛋白C-II、C-IIIはHDLに戻り、Eは加水分解残基に残り、肝細胞のEレセプターに認識される。
入山圭二:脂肪乳剤の血管内代謝の仕組み、外科と代謝・栄養 43: 89-93, 2009より改変して掲載。

4.脂肪乳剤の臨床的意義

脂肪乳剤の投与の意義は、エネルギー投与と必須脂肪酸の供給にある。

脂肪から得られるエネルギーは9kcal/gと高く、効率の良いエネルギー基質である。一般的に日本人では投与エネルギーの20~30%を脂肪で投与する。必須脂肪酸欠乏を予防するためには、1週間に50gの脂肪乳剤を投与すればよいといわれている。

5.大豆油脂肪乳剤の特徴とそれ以外の脂肪乳剤

上述したように我が国の脂肪乳剤は、大豆油由来のものだけである。大豆油脂肪乳剤の脂肪酸は長鎖脂肪酸(LCT)が大部分で、ω-6系脂肪酸のリノール酸が脂肪酸の55%を占めており、ω-3系脂肪酸の含有量は少ない。すなわち、ω-6系脂肪酸が過度に含まれている。このような脂肪乳剤の投与により、酸化しやすい不飽和脂肪酸の酸化代謝物質が産生されたり、細胞膜のリン脂質の脂肪バランスに変化を生じたりすると考えられている。また、リノール酸は体内でω-6系の脂肪酸として代謝され、炎症性のロイコトルエンやプロスタグランティンを産生する。これらのメディエータは免疫能の低下や全身の炎症反応の悪化を引き起こす可能性があり、理論的には大豆油由来の脂肪乳剤は長期投与や重症患者への投与には慎重を要する。

中鎖脂肪酸(MCT)を添加したMCT/LCT脂肪乳剤やオリーブオイルのω-9系の一価不飽和脂肪酸を添加した脂肪乳剤では、ω-6系脂肪酸含有量を減らして、炎症性のプロスタグランディン産生を抑えられると理論上考えられる5,6,7)。ω-3系脂肪酸はω-6系脂肪酸の代謝と競合的に働くため、侵襲時にω-6系脂肪酸の投与を制限し、ω-3系脂肪酸の投与をすることで、過剰な炎症を抑制できると考えられている。海外では、魚油からのω-3系脂肪酸を配合した脂肪乳剤も開発され、臨床応用されている8)。我が国で市販されていないMCT、 オリーブオイル、魚油などの脂肪乳剤は、多くの国々で使用されている。最近は、大豆油を含めたいくつかの脂肪をミックスした脂肪乳剤が世界の主流となってきている。

表2 脂肪乳剤の主力商品の脂肪構成、世界との比較
商品名 本邦の脂肪乳酸
イントラリポス
イントラリピッド
B/Braun
Lipoplus

Fresenius Kabi

SMOFlipid
Baxter
ClinOleic
MCT 0 50 30 0
大豆油 100 40 30 20
魚油 0 10 15 0
オリーブ油 0 0 25 80
EPA+DHA 僅か 6.22 5.05 僅か
値は脂肪100g中のグラム数

文献

  1. 入山圭ニ:脂肪乳剤の代謝とその使い方、新静脈栄養・経腸栄養ガイド、Medical Practice 26,増刊号:95-98、2009
  2. MacPhee CE, Chan RY, Sawyer WH, et al: Interaction of lipoprotein lipase with homogenous lipid emulsion. J Lipid Res 38: 1649-1659, 1997
  3. Iriyama K, Tsuchibashi T, Miki C, et al: Elimination rate of fat emulsion particles from plasma in Japanese subjects as determined by a triglyceride clamp technique. Nutrition 12: 79-82, 1996
  4. 入山圭二:脂肪乳剤の血管内代謝の仕組み、外科と代謝・栄養 43: 89-93, 2009
  5. Adolph M: Lipid emulsion in parenteral nutrition. Ann Nutr Metab 43: 1-13, 1999
  6. Nijveldt RJ, Tan AM, Prins HA, et al: Use of a mixture of medium-chain triglycerides and long-chain triglycerides versus long-chain triglycerides in critically ill surgical patients: a randomized prospective double-blind study. Clin Nutr 17: 23-29, 1998
  7. Antonio JM, Grau S, Luque, et al: Comparative effects of olive oil-based and soybean oil-based emulsions on infection rate and leucocyte count in critically ill patients receiving parenteral nutrition. Brit J Nutr 99: 846-854, 2008
  8. Mayer K, Schaefer MB, Seeger W, et al: Fish oil in the critically ill: from experimental to clinical data. Curr Opin Clin Nutr Metab Care 9: 140-148, 2006

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