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Chapter1 PEG
2.2疾患別 PEG適応
④筋萎縮性側索硬化症(ALS)


東邦大学内科学講座神経内科学分野 狩野 修

狩野 修
記事公開日 2020年6月1日
2024年4月1日版

1.筋萎縮性側索硬化症とは

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)とは、脳からの命令を筋肉に伝える運動ニューロンが障害される病気で、厚生労働省の難病の一つに指定されています。症状としては、四肢に加え、飲み込む、話す、呼吸するといった際に使う筋肉が萎縮し、筋力が低下していく疾患です。
ALSの平均発症年齢は60歳前後で、本邦には約1万人の患者がいるとされています。平均生存期間が3-5年と短く、進行が非常に早いのが特徴です。またALSの初発症状出現から診断に至るまでが平均約13ヶ月といわれ、ALSの生存期間の短さを考えた場合、病気が十分に完成しない早期に診断し、将来起こりうる嚥下、呼吸やコミュニケーションの障害などへの対策を立てることが重要といえます※1

2.ALSの診断

ALSには、診断のために信頼できる採血検査などの指標がなく、絶対確実な診断をすることが不可能な疾患です。そのため、診断確実性にグレードをつける方法がとられてきました。具体的には、身体を脳幹、頸髄、胸髄、腰髄の4部位に分け、各レベルで針筋電図の検査も含めた結果をもとに、definite(確実)、probable(可能性高し)、probable-laboratory-supported(可能性高し+検査陽性)、possible(可能性あり)と4段階に分類しています。一般的にはprobable以上でALSと診断しますが、神経学的所見が十分にそろわないpossibleの段階で死に至るケースも1割ほどと報告され、告知の時期などが非常に難しい疾患といえます。また両上肢や両下肢に限局して症状が続くflail armやflail leg syndromeという亜型も存在します。これらはALS全体の1割以上を占め、典型的なALSより生存期間が有意に長いのが特徴です。

3.ALSにおける薬物治療と多職種連携診療

本邦で保険適応とされているALSの薬剤に、グルタミン酸拮抗剤のリルゾールと、フリーラジカルスカベンジャーのエダラボンの2種類があります。これらは、ALSの運動機能障害の進行を遅らせることが証明されていますが、残念ながら筋力低下を改善させるような効果はありません。現在も世界中で多くの臨床治験が行われており、一日も早い効果的な治療薬が待ち望まれます。
また、ALSでは薬物療法のみならず、外来診療の充実がALS患者のQOLや予後延長に繋がると報告されています。具体的には、医師の診察から呼吸ケア、栄養指導、リハビリテーション、専門看護師やソーシャルワーカーのアドバイス、治験の説明などを1回の診療ですべて完結させるALSクリニック(多職種連携診療)という診療形態のことを指します(図1)。欧米ではALSの標準的な診療スタイルとして確立されていますが、本邦ではほとんど行われていないのが現状です。海外の研究によりますと、ALSクリニック通院患者は、一般の神経病院に通う患者と比較し、平均生存期間が10ヶ月以上長く、さらにQOLも高かったと報告されています。介護負担が大きく、また移動に困難を要するALS患者にとって、必要なケアが一度の診療で済むことは、大きな助けとなります。また病院側としても一度に多くの患者が集まることは治験や研究を行う上で大きなメリットになると考えられます。

ALSクリニック
図1 一回の受診で、多くの職種による診察や検査が受けられるALSクリニック(東邦大学医療センター大森病院脳神経内科)

4.ALSの食事・栄養

ALS患者の特徴として、症状出現前と比較し、体重が減少するのが特徴です。正確な原因は不明ですが、骨格筋の喪失、エネルギー代謝の変化などが関与していると推測されています。また病初期から体重が軽い人、ALSと診断を受けた時点で元の体重から5%以上減少している患者は予後不良といった結果がでております。いずれにせよ体重減少を防ぐということが予後に影響していると考えられています※2(図2)

体重減少と生命予後
図2  体重減少と生命予後(年間のBMI減少率が2.5以上群で予後が不良)

そのため、ALS患者に体重減少がみられたら、1日1500 kcal程度を目安として栄養をとるように勧めています。健康な人の摂取カロリーより少ないのですが、活動量が減っているALS患者の食事量としては少なくないです。高血圧や糖尿病などを合併している場合は注意が必要ですが、これらをコントロールしてもALSの予後が改善しないとされ、極端に異常でない限り、カロリー摂取を優先していくべきです。またALS患者の1日の推定エネルギー必要量に、二重標識水法という算出方法があり、ALSステーションというサイト(https://als-station.jp/calc_energy.html)では、自動計算ができるようになっています。我々が、患者のカロリー摂取量を正確に把握するのは難しいので、栄養士さんと連携しながら指導することが推奨されます。

5.ALS“治療”としての胃瘻造設

このように、ALS患者では体重を維持するということが、生命予後延長に繋がることがわかってきました。その体重維持の対策として、胃瘻造設が非常に重要になってきます。胃瘻に関して、抵抗感を感じる患者も多くいますが、体重維持や生存期間を延長するため、積極的にすすめるべき“治療”と考えています。飲み込めなくなった際、空腹という苦痛からも解放されるため、延命というより緩和的な側面もあります。また薬剤や水分投与のルートとしての役割もあります。
重要なのは胃瘻を造設するタイミングです。一般的には肺機能検査にて、努力性肺活量(Forced vital capacity:FVC)が50%以下になる前に施行します。呼吸機能が低下しているALS患者に胃瘻造設を行うと、呼吸機能が一気に低下し、逆に予後を短縮させてしまう可能性があるためです、実際に胃瘻造設後30日以内に死亡したALS患者の造設時のFVCを調べたところ、平均34.3%という結果でした※3。原因としては胃瘻造設により、横隔膜の動きが制限されるためと推定されています。そのため、仮に飲み込みに問題がなく胃瘻を使う必要がなくても、安全面から早期に胃瘻造設を行うことが重要です。

6.ALSにおける胃瘻造設の注意点

では、ALSの診断に時間がかかり、すでにFVCが50%以下の患者であった場合はどうするか?となりますが、可能な限り胃瘻造設を行います。ただし、胃瘻造設時に非侵襲的換気療法(non-invasive ventilation:NIV)を併用しながら施行することがポイントになります(図3)。理由として、NIVを併用しながら胃瘻造設をすることにより、30日後の生存率が100%であったという報告があるためです。また、NIVに慣れるまでにはある程度時間がかかるとされています。診断が遅れ、急遽胃瘻造設が必要になった場合でも、NIVを数日前から導入し、抵抗感がなくなってから胃瘻を造設する方が、患者のストレスも少ないです。

胃瘻造設
図3 非侵襲的換気療法を行いながらの胃瘻造設

7.胃瘻造設の説明に関して

これまで、ALSに対して胃瘻造設を勧めるような説明をしてきましたが、忘れてはいけないのが、患者や介護者への十分な説明です。きちんとしたエビデンスをもって伝えるのですが、短い外来時間の中で、すべての情報を伝えきるのは容易ではありません。私どもは、胃瘻造設を担当している消化器の先生の外来受診を必ず勧めるようにしています。消化器科医がこちらの説明で不十分な点を補ってくれ、絶対造設したくないといった患者が、“つくることにしました”と気持ちが変わる事が度々あります。実際のバルーン・ボタンをみせられ思ったより小さいと感じたり、大手術と勘違いされたりしている方も少なくないからだと推測しています。“胃瘻つくっても口から食事できます”、“入浴も今まで通りできます”などの情報も含め、繰り返し丁寧に説明することが重要です。

文献

※1 Kano O et al. Limb-onset amyotrophic lateral sclerosis patients visiting orthopedist show a longer time-to-diagnosis since symptom onset. BMC Neurol 2013

※2 Shimizu T et al. Reduction rate of body mass index predicts prognosis for survival in amyotrophic lateral sclerosis: A multicenter study in Japan. Amyotroph Lateral Scler 2012

※3 Sancho J et al. Noninvasive respiratory muscle aide during PEG placement in ALS patients with severe ventilatory impairment. J Neurol Sci 2010

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