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Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 1.造設時
⑤瘻孔感染


淡海医療センター 島本和巳

島本和巳
記事公開日 2011年9月20日
2025年2月13日改訂

1.診断

瘻孔感染、創感染の診断としては以下のJainの基準(表1)を推奨する。明らかな膿瘍や排膿を認める場合、もしくは8点以上の場合を「感染あり」とする。ベッドサイドで簡便に評価でき、経時的変化の把握にも有用である。(高橋美香子、倉敏郎、上野文昭ほか.『Complicationについて(学術用語委員会)』. PEG在宅医療学会第2回PEG consensus meeting 2003.)

表1 Jainの基準
発赤 浸出液 硬結

0~発赤なし

0~浸出液なし 

0~硬結なし

1~直径<5mm

1~漿液

1~直径<10mm

2~直径 6~10mm

2~漿液血液状

2~直径 11~20mm

3~直径 11~15mm

3~血性

3~直径>20mm

4~直径>15mm

4~膿性

 

  

当院にてPEG (Pull法)後に瘻孔周囲膿瘍を生じて外科医師にコンサルトした経験がある(図1)。 局所麻酔下でドレーンを2本留置して継続的に排膿を行い、その後約1か月で治癒した。

図1 感染防止セーフティーチューブ一体型キット
図1 腹部単純CT画像 (PEG後早期に瘻孔周囲膿瘍を生じた症例)

2.瘻孔感染の原因、誘因

① 内部ストッパー(バンパー)の圧迫や固定糸による血流障害
 造設時の胃壁固定糸による締め付けや内部ストッパー(バンパー)の圧迫が強すぎることによって血流障害を生じることで瘻孔周囲壊死、感染をきたす場合がある。
 ② 造設方法による違い
 造設方法によってPEG後早期に生じる瘻孔感染の頻度が異なる可能性も指摘されている。
 Pull法では経口的に挿入したカテーテルが咽頭を通って胃内、瘻孔内を通過する。そのため口腔や咽頭の細菌による瘻孔感染が多いと考えられている。
・比企らの報告によるとPull法(n=64)とDirect法(n=87)を比較し、瘻孔周囲の感染はPull法9%、Direct法1%(p≺0.001)という結果でPull法の方が有意に瘻孔感染は多かった1)
・蟹江らの報告によると創部の感染頻度はPull/Push法で69/532(13.0%)、Introducer法で3/119(2.5%)という結果だった。Pull/Push法はIntroducer法に対して有意に創部感染の頻度が高かった(p=0.001)2)
 ③ 瘻孔周囲炎の危険因子
 患者側の要因として糖尿病が高リスクとされている。
・J.H.Leeらが1996年から2000年にPEGを施行した134名を対象にした研究で、19名(14.2%)に創傷感染を生じた。最も多かったのは緑膿菌だった。単変量・多変量解析にて糖尿病が独立した危険因子だった3)(p=0.035)。

3.瘻孔感染を予防するための対策

胃瘻造設時
✓Pull法で造設する場合には感染防護シースを使用することを勧める。胃内で外せるカバーを覆っておくことによって瘻孔感染を減らせるという報告があり4)、最近では感染防護シースが付いたキットも販売されている (図2)。


図2 感染防護シース付きPull法造設用胃瘻カテーテル(TOP®図2 オーバーチューブ

胃腹壁固定を強く締め過ぎない。血流障害を疑ったら締めすぎている固定糸を抜糸する。
 ✓手術直後から翌日までは外部ストッパーと皮膚の間に十分な枚数のYガーゼを重ねてしっかりと圧迫止血を行うが、翌日に活動性出血がないことを確認でき次第、重ねたガーゼを抜去して圧を解除する。
周術期
 ✓抗菌薬を経静脈投与する。
Allisonらは系統的レビューにて、造設術の30分前~直前にセファロスポリンあるいはペニシリンの経静脈投与を行った群が、プラセボ(偽薬)を投与した群と比較して瘻孔感染が少なかったと報告している5)。 術当日にセファロスポリン、ペニシリンいずれかの投与を行うことを推奨する。
術翌日以降に一定期間継続投与しておくべきかどうかは見解が分かれる。著者は、鎮静の影響で周術期に誤嚥リスクが高まることも懸念して3日間の投与を行っている。
参考)N.S. Jafriらは10件のランダム化比較試験を組み入れて系統的な文献レビューを行った。1059例が対象となり、抗生剤の予防投与(多くの研究ではPEG術前30分以内あるいは術後30分以内)により相対リスクは64%減少し、絶対リスクは15%減少した。セファロスポリンとペニシリンの有効性に有意な差はみられなかった。NNT(治療必要数)はペニシリンの方が低かった6)
胃瘻造設後
 ✓胃瘻造設翌日以降は創部の消毒は行わない。
 ✓微温湯で湿らせたガーゼで創周囲を毎日拭き取る。
 ✓瘻孔周囲に紅斑、圧痛を伴う硬結や膿性浸出液がないか、発熱の有無などを毎日評価する。
 ✓腹膜炎、膿瘍形成、壊死性筋膜炎の徴候がある場合には外科的介入を検討する。

文献

  1. Hiki.N, et al. Reduced risk of Peristomal infection of Direct Percutaneous Endoscopic Gastrostomy in Cancer Patients: Comparison with the Pull Percutaneous Endoscopic Gastrostomy Procedure. Journal of the American College of Surgeons 2008; 207(5): 737-744
  2. Kanie.J, et al. Risk Factors for Complication Following Percutaneous Endoscopic Gastrostomy: Acute Respiratory Infection and Local Skin Infection. Digestive Endoscopy 1998; 10(3): 205-210
  3. J.H.Lee, et al. Increased risk of peristomal wound infection after percutaneous endoscopic gastrostomy in patients with diabetes mellitus. Digest Liver Dis 2002; 34: 857-861
  4. Suzuk.Y, et al. Covering the Percutaneous Endoscopic Gastrostomy (PEG) Tube Prevents Peristomal Infection. World Journal of Surgery 2006; 30(8): 1450-1458
  5. Lipp.A, et al. Systemic antimicrobial prophylaxis for percutaneous endoscopic gastrostomy. Cochrane Database of Systematic Reviews 2006; 4
  6. N.S. Jafri, et al. Meta-analysis: antibiotic prophylaxis to prevent peristomal infection following percutaneous endoscopic gastrostomy. Alimentary Pharmacol Ther 2007; 25: 647-656

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