- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- 1.胃瘻とは
- 2.適応と禁忌
- 2.1 適応と禁忌
- 2.2 疾患別PEG適応
- ①パーキンソン病
- ②アルツハイマー病
- ③頭頸部癌
- ④ALS
- ⑤認知症
- ⑥脳血管障害
- ⑦食道がん
- 3.造設
- ①分類
- ②Pull・Push法
- ③Introducer原法
- ④Introducer変法
- ⑤胃壁固定
- 3.2 術前術後管理
- 3.3 クリティカルパス
- 4.交換
- 4.1 カテーテルの種類と交換
- 4.2 交換手技
- 4.3 確認方法
- ①交換後の確認方法
- ②スカイブルー法
- 4.4 地域連携・パス
- 5.日常管理
- 5.1 カテーテル管理
- 5.2 スキンケア
- 6.合併症・トラブル
- 6.1 造設時
- ①出血
- ②他臓器穿刺
- ③腹膜炎
- ④肺炎
- ⑤瘻孔感染
- ⑥早期事故抜去
- 6.2 交換時
- ①腹腔内誤挿入と誤注入
- ②その他
- 6.3 カテーテル管理
- ①バンパー埋没症候群
- ②ボールバルブ症候群
- ③事故抜去
- ④胃潰瘍
- 6.4 皮膚
- ①瘻孔感染
- ②肉芽
- 7.その他経腸栄養アクセス
- 7.1 PTEG
- 7.2 その他
- ●「PEG(胃瘻)」関連製品一覧
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって
Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 1.造設時
⑥早期事故抜去
国立病院機構別府医療センター 手術部長 松本敏文
2023年2月26日改訂
<Point>
早期事故抜去は、瘻孔が完成していない状況下でチューブ・カテーテルが本来ある位置から抜けたり、逸脱することを指す。胃壁と腹壁の離開が想定される状況であるので、主治医はもとより消化器外科医との連携による緊急かつ適切な対応が求められる。瘻孔の完成をみていない状況下での盲目的な処置は危険であり、さらに腹膜炎、敗血症への移行がないかどうかを厳重に観察し、緊急手術の可能性を念頭におきながら管理する必要がある。
1.早期事故抜去の定義
自然にもしくは何らかの外力で抜けてしまうことを“事故抜去”といい、患者自身が抜いてしまうことを自己抜去という。PEG・在宅医療学会(旧 HEQ研究会)学術用語委員会からの「PEGに関する用語の統一」の報告1)では、事故抜去とは自己抜去を含めた総称的な呼び方としている。また、抜去の中には、チューブ・カテーテルの逸脱が含まれる。本来あるべき位置にないことを意味し、逸脱部位として腹腔内、消化管内、瘻孔内などがある。チューブ・カテーテルの牽引や内外部ストッパーの不具合によりPEGとして使用できない状況となることを示す。また、ここでいう“早期”とは瘻孔が完成していない時期を指し、造設後約7~10日間となる。
2.対処
事故抜去は造設後1.6~4.4%に発生する2,3)。瘻孔が完成していない時期に抜けた場合には、腹壁と胃壁が離開して胃穿孔と同様な状況になりうる。胃内容物の腹腔内排出により腹膜炎など重篤な状況に移行しうるので、迅速な対応が必要となる。
まずは経鼻胃管による胃内の減圧を図る。瘻孔が完成していない「早期」の時期では、瘻孔の確保目的に抜去部からの再挿入や導尿用バルーンカテーテルを“盲目的に”挿入することは控える。瘻孔の不全破壊であれば透視下に再挿入が可能なことがあるので、ガイドワイヤーなどを準備した状況下で試みる。
上記処置と同時に腹膜炎の有無について診断しなければならない。汎発性腹膜炎の場合には緊急手術の対象となるので、夜間などの連携体制を十分に検討しておく4)。限局性腹膜炎であれば、抗生剤投与を含む厳重な管理のもと手術を回避できる場合もあるが、低栄養状態、免疫抑制状態で造設される患者が多いことを考慮すれば、安易な経過観察は危険である。腹膜炎と診断された場合には、消化器外科医との連携のもとに緊急かつ適切な対応が求められる。
前稿で述べられている「胃壁固定」をなされている場合には、腹壁と胃壁が離開しないことがある。しかしながら、胃壁固定を併施していても胃壁と腹壁の接着面は予想以上に狭いことを忘れてはいけない。胃壁固定併用下に造設直後、バンパーの腹腔内逸脱の報告5)があるので、経時的な腹部所見の観察は怠らないようにする。
3.予防
造設後、早期のカテーテルの抜去は患者に不利益が生じるため、その予防は適切でなければならない。チューブ型の場合には外力で抜ける危険性が高いので十分に注意を要する。手が自由に動く患者は無意識にカテーテルを抜くことがあるので、造設後早期はチューブ・カテーテルを巻き込める腹帯を使用したり、手にミトン型手袋を装着するなどの抑制が必要になることがある。抑制を考慮する場合には、医学的・倫理的な観点から十分に検討し、緊急時やむを得ない場合に限り、医師の指示のもと最低限の施行にとどめなければならない。内部ストッパーの腹腔内逸脱の場合は、抜けたかどうか明らかでないことがあるので、注入の前後は必ずチューブ・カテーテルの長さを確認する。また、造設に際してボタン型のカテーテルを選択するなどの防止策を取ることも考慮される。
バンパー型は抜けにくい構造であるが一旦、抜けた場合にはまだ瘻孔が未熟であるので胃壁が裂けてしまう。バルーン型はバルーンが破裂したり、注入水が減少してカテーテルが自然に逸脱することがあるので細めな観察を要する。
早期事故抜去で患者に重篤な不利益となるのは、言うまでもなく腹膜炎・敗血症である。これを少しでも防止する有効な手段が胃壁固定である。瘻孔の安定化、創傷治癒の促進、感染合併症の防止のためにエビデンスはないものの、Pull・Push法でも併施することが推奨される6)。
<Pitfall>
不意に抜去されることを防止するために、穿刺部のすぐ傍でテープや縫合糸によりカテーテルの腹壁固定をすることは安全な手段ではあるが、均一で垂直な瘻孔が形成されず、後の栄養剤の漏れや不良肉芽の原因となりうる。瘻孔完成まではカテーテルの管理に細心の注意を払う必要がある。
文献
- 倉 敏郎、小山茂樹、上野文昭、他:第9回PEG・在宅医療研究会(HEQ)学術用語委員会報告. 在宅医療と内視鏡治療 14;91-94, 2010.
- Larson DE, Burton DD, Schroeder KW, et al: Percutaneous endoscopic gastrostomy. Indications, success, complications, and mortality in 314 consecutive patients. Gastroentrology 93; 48-52, 1987.
- Galat SA, Gerig KD, Porter JA, et al: Management of premature removal of percutaneous gastrostomy. Ann Surg 56; 733-736, 1990.
- 医療事故調査・支援センター:胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析. 医療事故の再発防止に向けた提言第13号 2021
- 大前雅実、土田知宏、平澤俊明、ほか:胃瘻造設術直後にバンパー逸脱を起こし外科的処置が必要となった1例―その原因と予防策についてー. 在宅医療と内視鏡治療 14;43-45, 2010.
- 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討―胃瘻造設10年の施行症例よりー. 日本消化器内視鏡学会雑誌 45;1267-1272, 2003.