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Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 1.造設時
④肺炎


清田病院消化器内科 村松博士

村松博士
記事公開日 2011年9月20日
2015年10月27日改訂

<Point>

(1)PEG術後の肺炎発症率は減少しつつあり10%以下とする報告が多くなっているが、重症化する例が少なくなく、30日以内の早期死亡の死因第一位である。

(2)PEG後肺炎の主たる原因として、PEG時の内視鏡操作中に起こる誤嚥、周術期から慢性期では、口腔内容物(唾液など)の誤嚥、胃液や胃瘻からの注入物の逆流による誤嚥の3つが挙げられる。

(3)肺炎予防のためいろいろな工夫がなされているが、原因の如何によらず、口腔ケアの実践は大切である。また、誤嚥性肺炎を繰り返す症例に、半固形化栄養材を用いることは有用で、肺炎の発症を減少させる可能性がある。

1.はじめに

PEG術後の肺炎発症率を10%以下とする報告が最近多くなってきており、手技など様々な工夫で、肺炎は減少しつつある。しかし、依然として臨床上治療に難渋する重篤な合併症である。本邦では、PEG施行30日以内の早期死亡率は、5.9%から10.6%と報告され、欧米の30%前後と比較すると明らかに低いものの、PEGの適応の一つに、少なくとも4週間以上の生命予後が見込まれることとされていることから、さらなる安全性の向上は必要不可欠である。早期死因の30%から56%と多くを占め1,2)、発症した際の致死率も高い肺炎の発症抑制は、重要な臨床課題である。

2.原因

PEG後肺炎の主たる原因として、まずPEG時の内視鏡操作中に起こる誤嚥が挙げられる。 PEG施行中の誤嚥に関しては、PEG中の仰臥位が誘因の一つと考えられ、その予防にPEG中の吸引の積極的な施行が必要である。さらにPEG前からの十分な口腔ケアによる口腔内細菌数の減少や抗生剤の予防投与も有用とされている3)。また、PEG造設方法による肺炎発症率の違いについては、Pull/Push法では通常内視鏡挿入操作が2回となることと口腔・咽頭の細菌が付着したカテーテルを咽頭から食道へ引き込む際に誤嚥を助長するため、肺炎発症がIntroducer変法に比較して多くなると推察されている。一方、使用内視鏡については、経鼻内視鏡を用いた造設であると、経鼻挿入により咽頭麻酔が不要なため、術中・術後の胃液、痰の誤嚥による誤嚥性肺炎が減少するのではと考えられている。これらについては、厳密な比較検討によるエビデンスはないが、ほぼ同時期に行ったPEGにおいて、経口内視鏡を用いたPull法では肺炎発症が2.8%(2例/72例)であったのに対して、経鼻内視鏡を用いたIntroducer変法では0%(0例/59例)であったとする報告がある4)

次に、周術期におこる肺炎の発症機序としては2通りの機序が考えられる。すなわち、口腔内容物(唾液など)の誤嚥による肺炎と、胃液や胃瘻からの注入物の逆流による誤嚥による肺炎であり、両者を明確に診断することは難しく、PEG患者の肺炎は両者が混在していると考えられるが、頻度は明らかでない。嘔吐のない胃食道逆流の有無については、栄養剤の投与後に口から栄養剤のにおいがする、栄養剤投与後に痰が増えるなどから疑われ、一方、口腔からの不顕性誤嚥は、咳反射が低下しやすい夜間に起こりやすいので夜間の喀痰量が増加するとされている。

不顕性誤嚥の根底には、大脳基底核を中心とした中枢神経系の異常による嚥下反射・咳反射の低下がある。大脳基底核で作られるドーパミンの合成能が低下すると、サブスタンスP(舌咽神経・迷走神経から放出され嚥下反射あるいは咳反射を起こす物質)も低下する。その結果、反射が鈍って、熟睡中などに口腔内の雑菌混じりの唾液や逆流してきた胃液を知らず知らずのうちに誤嚥する5)。この不顕性誤嚥が原因となる誤嚥性肺炎では、一般には起炎菌は嫌気性菌が第1位で、 次いで肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌の順とされている。 検査成績では、白血球数、赤沈、CRP などの炎症反応は若年者と同様に強く反応するが、アルブミンが低値であること、脱水を反映して尿素窒素が上昇すること、低酸素血症を呈する頻度が高いことなどが特徴である。

図1 PEG後の気腹症例
図 嘔吐のない誤嚥性肺炎
76歳、男性。脳梗塞後遺症による嚥下障害にてPEG適応となる。
施行13日後に37.5度の発熱が出現した。発熱翌日の胸部CTで右下葉に
浸潤影あり、CRP 6.0mg/dl(発熱3日前 1.0mg/dl)に上昇、“肺炎”と診断した。
原因については気道内から栄養剤は吸引されず、嘔吐は認めなかったので、
誤嚥性肺疾患の臨床診断基準から誤嚥性肺炎“ほぼ確実例”となるが、
PEGのComplicationとは確定できない。

3.発症率と診断基準

PEG後の肺炎について、蟹江らは術後1週間で7.0%に発症したとし3)、清水らは観察期間平均51日で8.8%に合併しPEG施行から肺炎発症までの中央値は7日と報告している6)

誤嚥性肺炎は、嘔吐したときに吐瀉物を気道に吸い込んだり、知らない間に不顕性誤嚥を起こしたりして発症するが、厚生省厚生科学研究費補助金による長寿科学総合研究事業 「嚥下性肺疾患の診断と治療に関する研究班」 の誤嚥性肺炎の診断基準を表1に示す。

表1 誤嚥性肺疾患(誤嚥性肺炎)の臨床診断基準

Ⅰ.確実例

A 明らかな誤嚥が直接確認され、それに引き続き肺炎を発症した症例

B 肺炎例で気道より誤嚥内容が吸引等で確認された症例

肺炎の診断は、次の①、②を満たす症例とする。

①胸部レ線または胸部CT上で肺胞性陰影(浸潤影)を認める

②37.5℃以上の発熱、CRPの異常高値、末梢白血球数9000/μL以上の増加、喀痰など気道症状のいずれか2つ以上存在する場合

II.ほぼ確実例

A 臨床的に飲食に伴ってむせなどの嚥下障害を反復して認め、上記①および②の肺炎の診断基準を満たす症例

B ⅠのAまたはBに該当する症例で肺炎の診断基準のいずれか一方のみを満たす症例

Ⅲ.疑い例

A 臨床的に誤嚥や嚥下機能障害の可能性をもつ以下の基礎病態ないし疾患を有し、肺炎の診断基準①または②を満たす症例


a.陳旧性ないし急性の脳血管障害

b.嚥下障害をきたしうる変性性神経疾患または神経筋疾患

c.意識障害や高度の痴呆

d.嘔吐や逆流性食道炎をきたしうる消化器疾患(胃切除後も含む)

e.口腔咽頭,縦隔腫瘍およびその術後。気管食道瘻

f.気管切開

g.経鼻管による経管栄養

h.その他の嚥下障害をきたす基礎疾患

一方、PEG・在宅医療研究会では、2003年に学術・用語委員会で『Complicationについて』検討された際、誤嚥性肺炎の基準案を「造設手技に関連した誤嚥性肺炎と経腸栄養剤の逆流と誤嚥によるものを誤嚥性肺炎とする。嘔吐時の誤嚥の目撃や気管内吸引による誤嚥の確認がその根拠となる」とした7)表1の診断基準同様に誤嚥の確認を必須としているが、Complicationを「PEGによって受けられるはずであった利益を享受できず、時には損害を被る」として扱っているので、当然ながら不顕性誤嚥についてはPEGのComplicationとしていない。
検討に際しては、どの診断基準に基づいたものかを明確に示すことは今後の治療の進歩に重要であろう。

4.治療

日本呼吸器学会の呼吸器感染症ガイドライン8)では、本疾患の原因菌として多い口腔内細菌の嫌気性菌とグラム陰性桿菌との混合感染を想定して、clindamycin(CLDM)、ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬、カルバペネム系薬のいずれかの使用を推奨している。PEG症例は、術前からのMRSA陽性者が少なくないため、術後肺炎の原因菌としてMRSAも重要であり、治療に窮することも多いことから、術前の咽頭培養は重要である。また、不調を訴えられない患者も多いことから、肺炎の発見が遅れ重症化することも多い。少なくとも嘔吐後の発熱は、肺炎が危惧されるので適切に検査し、患者背景や重症度に応じた適切な化学療法を早期に行うことが必要である。

5.予防

口腔ケアが適切に行われると、口腔内の汚れは取り除かれ唾液の分泌は促進し、口腔内分泌物は清浄化されるため、内視鏡操作や不顕性誤嚥により気管内に流れ込んでもただちに肺炎を発症する可能性は少なくなるので原因にかかわらず、予防の基本である。

PEG施行中の誤嚥による肺炎の予防には、前述のようにPEG中の吸引の積極的な施行、抗生剤の予防投与が有用であり、リスクの高い症例には経鼻内視鏡を用いたIntroducer変法による造設を考慮すべきと考えられる。

表2 肺炎予防の基本対策

1.口腔ケア

2.栄養剤の注入量や注入速度の調節

3.体位の配慮

 原則として、90度座位、または30度ギャッチアップ

4.薬剤の投与

 A 胃蠕動運動促進薬・・モサプリドクエン酸,ドンペリドンなど

 B 胃酸分泌抑制剤・・H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬など

 C アンジオテンシン変換酵素阻害薬・・サブスタンスPの代謝を抑制

 D アマンタジン・・ドーパミン神経の機能を活性化

 E カプサイシン・・サブスタンスP を分泌

5.半固形化栄養法

6.PEG-Jによる栄養材投与

周術期から慢性期の肺炎予防の基本を表2に示したが、なかでも栄養材を半固形のものに変えて胃食道逆流を予防することは、近年、多くの施設で普及してきている。 半固形化栄養によって逆流が軽減することは、放射線ラベルした栄養剤を使用して注入後の分布の検討で確認されており9)、また、半固形化栄養剤を投与すると胃壁が伸展され、これが胃本来の生理的な蠕動運動が得るために重要であることが明らかとなってきている10)。以上のように、単純な逆流の減少と胃排出能の改善の2点から、胃食道逆流は軽減されるので、嘔吐や発熱を繰り返すなど胃食道逆流症例であることが疑われたら、まず、栄養剤の半固形化から試すことが推奨される。

2009年、PEGドクターズネットワークと日本栄養材形状機能研究会が全国のPEG施行医療機関に行った「胃瘻と栄養についてアンケート調査」結果では、回答281施設のうち21.6%で、栄養剤の半固形化によって肺炎を繰り返さなくなったと回答している。また、筆者らは、新規PEG施行151症例を無作為に液体栄養群と半固形化栄養群に割り付け、PEG後2週間の肺炎発症率を比較したところ、液体栄養群14.5%(11/76例)に対し、半固形化栄養群1.3%(1/75例)と著明に抑制されたことを報告した11)。他にも半固形化栄養剤によって肺炎が減少したとの報告が多くあり、半固形化による肺炎の予防は可能と考えられるが、比較臨床試験の報告が未だ少なく、今後エビデンスレベルの高い報告が待たれる。

<Pitfall>

半固形といっても粘度が低く液体に近い性状のものは、短時間の注入により逆流をかえって助長することも考えられるので、肺炎を防ぐために行う半固形化栄養は、高い粘度のものが推奨される。

文献

  1. 松原淳一ほか:日消誌 102:303-310,2005
  2. 笠井久豊ほか:静脈経腸栄養 24:577-581,2009
  3. 蟹江治郎ほか:日本老年医学会誌 37:143-148,2000
  4. 坂本岳史ほか:Gastroenterol Endosc 48:2512-2517,2006
  5. Sasaki H et al:Intern Med 36: 851–855,1997
  6. 清水敦哉ほか:在宅医療と内視鏡治療 10:2-7,2006
  7. 髙橋美香子ほか:在宅医療と内視鏡治療 8:60-62,2004
  8. 日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会:「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人市中肺炎診療の基本的考え方。日本呼吸器学会、東京、2000
  9. Nishiwaki S et al:J Parenter Enteral Nutr. 33:513-519,2009
  10. 合田文則:静脈経腸栄養 37:235-241,200811) 村松博士ほか:Gastroenterol Endosc 52 (supplement2) : 2454,2010

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