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Chapter1 PEG
2.2疾患別 PEG適応⑦食道がん
胃ろう(腸ろう)の適応を考える


国際医療福祉大学病院 外科 鈴木 裕

鈴木裕
記事公開日 2021年2月12日

1.食道がんとは

わが国では毎年10,000人以上の方が食道がんに罹患します。50歳代以降、急激に増加しピ-クは60歳代です。男女比は約6:1と男性が圧倒的に多く、男性では6番目に多いがんです。年間の死亡者数は11,000~12,000人と全がんの3%を占め、人口10万人あたりの死亡率の年次推移では、男女ともに横ばいからやや低下傾向にあります。

早期がんの治療成績は良好で、0期のがんでは5年生存率は100%です。がんが粘膜下層まで拡がってもリンパ節転移をおこしていなければ、手術で80%が治ります。しかし、進行した場合の成績は、日本食道疾患研究会の「全国食道がん登録調査報告」では手術で取りきれた場合の5年生存率は54%と報告されています。

食道の粘膜は扁平上皮からできているので食道がんの90%以上は扁平上皮がんです。欧米では食道と胃の境目から発生する腺がんが多くなっています。日本も少しづつではありますが腺がんが増えています。通常がんは食道の内側の粘膜から発生して外側に向かって発育します。がんが大きく育つと食道の壁をつくっている筋肉にまで及び、さらに進行すると食道のまわりにある気管・気管支や肺、大動脈、心臓などの重要な臓器へ拡がっていきます。(図1)

リンパ液や血液を介して食道とは別のところに癌が飛び火することを医学用語では“転移”といいます。食道は、食道のまわりのリンパ管や血管が豊富なので、他の消化器のがんよりも転移しやすいと言われています。

また、食道のリンパ節は頚や胸、腹部につながっているので、食道のまわりだけではなく頚や腹部のリンパ節に転移をすることもあります。血液の流れに入り込み、肝臓や肺、骨などに転移することもあります。

図1 食道の解剖
図1 食道の解剖

2.食道がんの症状

食道の粘膜にとどまる早期のがんでは、症状が現れることは少なく、がんが進行するにつれて以下の症状が現れます。
(1)食道がしみる感じ
 熱いものを飲み込んだ時にしみるように感じるといった症状です。
(2)食物がつかえる感じ
 がんが大きくなると食道の内腔が狭くなり食べ物がつかえます。のどがつかえるような感じです。
(3)体重減少
 がんが進行すると体重は減少します。急激に体重が減ったら要注意です。
(4)胸痛・背部痛
 がんが食道の外に浸潤して、まわりの肺や背骨、動脈を圧迫すると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。
(5)せき
 がんが進行して気管、気管支、肺まで浸潤すると、せきや血のまじった痰が出ることがあります。
(6) 声のかすれ
 食道のわきの声を調節している神経(反回神経)に浸潤すると、かぜをひいたときのようなかすれた声になります。

3.食道がんの進行度と治療法

 

わが国では日本食道疾患研究会の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類(表1)を行っています。各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定します。

表1 進行度分類

0期

がんが粘膜にとどまって段階で、早期がん、初期がんと呼ばれています。

I 期

がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があったり、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜・腹膜にがんが認められないものです。

II 期

がんが筋層あるいは食道の壁の外にわずかに出ていたり、リンパ節に転移している場合です。

III 期

がんが食道の外に明らかに出ていると判断された時、食道壁にそっているリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められない場合です。

IV期

がんが食道周囲の臓器におよんでいるか、がんから遠く離れたリンパ節にがんが転移している時、あるいは他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められた場合です。

治療法(表2)は主に進行度により決定されます。ただし、同じ進行度でも、患者さんの全身状態や心・肺機能などによって治療が異なる場合があります。

表2 治療法

0期

内視鏡的粘膜切除術、外科(手術)療法

I 期

外科(手術)療法、放射線療法と抗がん剤の併用療法、放射線療法

II・III期

外科(手術)療法、外科(手術)療法と抗がん剤の合併療法、放射線療法と 抗がん剤の併用療法、放射線療法

IV期

抗がん剤による化学療法、放射線療法と抗がん剤の合併療法、 放射線療法、痛みや他の苦痛に対する緩和治療 

4.手術療法

内視鏡切除の適応がなく遠隔転移がないものは手術療法が治療の基本になります。食道は頚部、胸部、腹部の3領域にまたがる臓器で病変の位置によって3領域のリンパ節を全て切除・摘出する必要があります。
 食道を切除した後の再建は主に胃(場合により小腸・大腸)を用いることが多く(図2)、手術時間は6時間~8時間におよびます。術後の代表的な合併症として肺炎などの感染症、縫合不全、反回神経麻痺などが挙げられます。

図2 食道癌手術シェーマ
図2 食道癌手術シェーマ

5.食道がんに対する胃ろう(腸ろう)の適応

食道がんは、術前、術後で経口摂取が不良となり、栄養状態が悪くなることが大半を占めます。栄養状態は悪化すると生活の質(QOL)の低下は勿論のこと治療の継続が困難になる事も少なくありません。そのため、栄養療法は、外来で診断がついた時点から開始されます。
 食道がん患者への栄養療法として胃ろうは、確実な栄養補給路として重要な役割を演じます。以下に代表的な胃ろう(腸ろう)の臨床的な適応について述べます。

 

1 胃ろうを用いた術前化学(放射線)療法の補助栄養

一般に、食道進行がんは、術前化学(放射線)療法が推奨されています。化学(放射線)療法は、がんに対する抗がん作用はありますが、同時に副作用もほぼ全例に現れます。

特に食欲不振の頻度は高く、通常、口からの食事だけでは治療の継続が難しく、静脈栄養や経腸栄養などの補助栄養治療が行われます。安全性(特に感染)や簡便性、コスト面から経腸栄養が第一選択となります。

PEG(内視鏡的胃ろう造設術)は、全身麻酔や開腹手術などの侵襲性の高い治療でなく、内視鏡を用いて短時間で造れて管理が簡便なので経腸栄養の投与ルートとしては最適です。また、手術時の胃管作成にも胃ろうの既往はほとんど影響しません。

2 術中に造設した小腸ろうを用いた術後早期・在宅補助栄養

食道がん術後の積極的な周術期管理として、術中に造設した小腸ろうから術後早期(第一病日)の経腸栄養が最近注目されています。早期経腸栄養の利点は、①消化管に存在する免疫細胞(体全体の約80%)を刺激し感染を防ぐ、②静脈栄養に比べて生理的な栄養法である、③消化管を食物が通過することによって小腸のリハビリテーションとなることです。

手術を乗り越え、めでたく退院しても、それからが本当の試練が待ち受けています。補助栄養がない場合、ほとんどの患者さんは10~15kgの体重減少を来します。その原因は多岐に渡っていますが、主には、①嚥下機能の低下、②食物を胃に運ぶ食道機能の消失、③胃の貯留能の低下、④胃排出能の不都合などの手術に関連した障害が起因しています。

また、術後補助化学療法が行われる場合には、抗がん剤の副作用も一因となります。体重が減りはじめると、疲労感が強くなり食べたい意欲も低下します。それが数か月続くと、食べることが義務(仕事)に感じる様になり、体重減少に拍車がかかります。

そうなると、多くの場合、精神的に辛くなり、毎日が憂鬱で社会復帰は遠のきます。さらに経口摂取量の低下が続くと、自己防衛能か分かりませんが、エネルギーを最小減に抑える、つまり動かなくなって対応します。

ほとんど寝たきり状態になるのです。これらの悪の連鎖は稀ではないのです。むしろよくある事なのです。術中に造設した腸ろうは、これらの悪の連鎖を断ち切るために考案されました。主治医や管理栄養士の指導で日々の経口摂取カロリーを把握し、足りない栄養を腸ろうから補充するのです。

食道がんは小腸、大腸の機能は正常であるので適量の栄養が補充されれば極端な体重減少は来しません。在宅での腸ろうを用いた経腸栄養療法を私は自己栄養補充法(self assisted feeding method)と呼称しています。

ただし、腸ろうからの栄養補充は、患者さんやご家族の日々の労であることは忘れてはなりません。一日でも早く自分の口からの食事で十分な栄養を摂取できるように外来で指導することも大切なことです。

3 手術不能もしくは再発による経口摂取不良に対する補助栄養

手術不能もしくは再発による経口摂取不良の患者さんにもPEGは使用されます。経口摂取のみでは生命の維持ができない患者さんにも、胃ろうを用いることで比較的良い栄養状態を維持したまま在宅療養が可能となります。

また水分・栄養補給路だけでなく、投薬路としても使用でき、癌性疼痛にも対応が可能となります。在宅ホスピスへの選択肢にもつながります。このように、衝動がんにおいて、胃ろうは、治療前から終末期医療まであらゆる局面で選択肢に挙がります。

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