- PDNレクチャーとは?
- Chapter1 PEG
- 1.胃瘻とは
- 2.適応と禁忌
- 2.1 適応と禁忌
- 2.2 疾患別PEG適応
- ①パーキンソン病
- ②アルツハイマー病
- ③頭頸部癌
- ④ALS
- ⑤認知症
- ⑥脳血管障害
- ⑦食道がん
- 3.造設
- ①分類
- ②Pull・Push法
- ③Introducer原法
- ④Introducer変法
- ⑤胃壁固定
- 3.2 術前術後管理
- 3.3 クリティカルパス
- 4.交換
- 4.1 カテーテルの種類と交換
- 4.2 交換手技
- 4.3 確認方法
- ①交換後の確認方法
- ②スカイブルー法
- 4.4 地域連携・パス
- 5.日常管理
- 5.1 カテーテル管理
- 5.2 スキンケア
- 6.合併症・トラブル
- 6.1 造設時
- ①出血
- ②他臓器穿刺
- ③腹膜炎
- ④肺炎
- ⑤瘻孔感染
- ⑥早期事故抜去
- 6.2 交換時
- ①腹腔内誤挿入と誤注入
- ②その他
- 6.3 カテーテル管理
- ①バンパー埋没症候群
- ②ボールバルブ症候群
- ③事故抜去
- ④胃潰瘍
- 6.4 皮膚
- ①瘻孔感染
- ②肉芽
- 7.その他経腸栄養アクセス
- 7.1 PTEG
- 7.2 その他
- ●「PEG(胃瘻)」関連製品一覧
- Chapter2 経腸栄養
- Chapter3 静脈栄養
- Chapter4 摂食・嚥下リハビリ
- PDNレクチャーご利用にあたって






改訂2025年2月21日
1.PEG地域連携クリニカルパス
滋賀県大津市では、地域医療の充実をめざし、各種の地域連携クリニカルパスによる後連携を行ってきた。地域連携クリニカルパスは大津市医師会が目指す「地域完結型医療」の根幹に位置づけられ、多種多様な疾病別地域連携クリニカルパス(以下、疾病別パスと略)が運用されている。
大津市PEG地域連携クリニカルパス(以下、PEGパスと略)は疾病管理のクリニカルパスではなく、疾病別パスという縦糸に、治療の前提となる栄養管理の横糸を組み入れ、複合にも対応できる医療体制を構築し、患者を網羅することを目指している。公的医療機関では栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:以下、NSTと略)が導入されており、NSTが対象としている患者の中には、胃瘻者も多く含まれているはずであり、胃瘻の造設・交換・管理を行っている施設の医師、看護師の協力を得て、PEGパスを構築しようと具体化していった。
PEGパスシート(以下、シートと略)は、1年以上の試行錯誤を重ねて作成し、2008年12月から稼働し、2012年、2018年、2022年に改訂しいる。シートは、「診療スケジュール」(医療者用)(図1表、図1裏)と「造設/交換後のかかりつけ医院での診療スケジュール」(患者用)(図2表、図2裏)からなっている。
※図の参照は上記、図番号をクリック
医療者用は、表の網掛け部分を造設交換施設、交換施設(パスを発行)の医師が書き込む。網掛けのない部分は、管理施設(パスの受け手)が6ヶ月間の経過を毎月記入する。いずれも患者のPEG管理、栄養管理・評価の連携を目的とする必要最低限の内容である。
PEGパスのもう一つの特徴が栄養管理にある。患者の視点に立った場合、高齢患者は、複合疾患を抱える可能性が高く、患者が複数の疾患を抱えていても、その思者に適した栄養管理がしっかりなされれば、疾病治療・管理の手助けとなると考えている。
管理施設の毎月の訪問診療時には、①栄養評価のための診察(身体症状)、②PEG観察、③口腔汚染の状態、④床上嚥下の状態、⑤褥瘡の状態、を記人。バイタルサインや栄養内容も変化があれば記入する。管理施設においても、栄養状態チェック、必要エネルギーの算出を定期的にできるようにという願いがある。滋賀県では、検査委託機関が血液セット検査項目に「栄養セット検査」として管理施設から依頼を受けてくれている。栄養セット検査では、総リンパ球数、O-PNIの計算、依頼用紙に年齢・性別・身長・体重を記入すれば、Harris-Benedict式による安静時基礎代謝量(Basal Energy Expenditure:以下、BEEと略)、必要水分量も計算してくれる。BEEに患者の活動係数と傷害係数(医療者用の裏面に指標がある)を掛け合わせるだけで、その患者の必要エネルギー量が算出できる。あくまで指標であり、管理施設の医師が診療の中で、患者により合ったエネルギー量、水分量などを判断し柔軟に対応をしている。
一方、造設交換設、交換施設が、造設退院時、あるいは交換退院時に患者に渡す患者用シートには、PEGの種類・サイズ、回の交換月日の記入をはじめ、方針決定した栄養剤の内容(注入時間、栄養剤の種類・投与量・形態、水分量)を記入する。
患者用シートの裏面は、「トラブル対処方法と注意事項」が記載されており、事故(自己)抜去時の緊急連絡先も必ず記載されている。
今後は、PEGパスは用語的にも正しくないため、在宅経腸栄養療法(Home Enteral Nutrition:以下、HENと略)のパスと改名し、並びに在宅中心静脈栄養療法(Home Parenteral Nutrition:以下、HPNと略)のパスを追加することで、病院での質の高いNST活動が、地域一体型NSTにシームレスに移行するためのツールとなりうると考えている。
NST の目的
NSTはその稼働施設だけでなく、周囲の医療機関や福祉施設においても同様の栄養管理が可能となるように、地域一体型NSTの構築を目指すことが望まれている。
① 適切な栄養管理法の選択(各種栄養療法の適応の遵守)
② 適切かつ質の高い栄養管理の提供(適正投与エネルギーや投与栄養成分の決定)
③ 栄養障害の早期発見と栄養療法の早期開始
④ 栄養療法による合併症の予防
⑤ 疾患・罹病率・死亡率の減少(感染症や褥瘡の発生予防と治癒促進)
⑥ 病院スタッフのレベルアップ
⑦ 医療安全管理の確立とリスク回避
⑧ 栄養剤・医療材料の適正使用による経費削減
⑨ 在院日数の短縮と入院費の節減
⑩ 在宅治療症例の再入院や重症化の抑制
NSTの活動とチーム医療
NSTとは、「医療の基本である栄養管理を、多職種で力を合わせてサポートしていこう」というチームである。今日、病院は大きくなればなるほど各科別の分業化が進んでおり、それぞれのエキスパートによる診療がなされている。肝心の栄養管理が不十分であれば入院が長期化し、治療が難渋するケースもある。また、褥瘡、誤嚥性肺炎などの高齢患者は、褥瘡が治れば、肺炎が治ればよいというわけではない。原因として摂食嚥下障害が潜んでいることがあり、その場合は原因そのものを解決しない限り再発をまぬがれない。
NSTは院内の多職種のスタッフ(医師・歯科医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・言語聴覚士・作業療法士・臨床検査技師・歯科衛生士・事務など)で構成されており、入院された患者に栄養評価を行い、栄養不良と判断された患者さんに対して診療科の枠を越えたサポートをしている。
NSTの活動は多くの病院で成果を上げている。しかしながら急性期病院では、平均在院日数が14日を切るので、短期間での栄養管理・栄養療法には限界がある。栄養状態が改善しないままの退院となってしまうため、その受け皿となる退院後の施設や在宅医療の充実が必要である。したがって、地域の急性期病院のNSTが、地域内の病院・施設と緊密に協力し合うことが必要であると考えられている。
退院前カンファレンス
急性期病院を退院し、病院・施設・在宅へ転院する前に、胃瘻患者にかかわってきたスタッフと、これから受け入れるスタッフが集まり、引き継ぎを行う。病院ではNSTが関わり、多職種がサポートしている。病院の主治医が知らないことを看護師や言語聴覚士が知っているケースも多くある。管理栄養士や薬剤師による院内でのサポートも、退院後も継続していきたいものである。そして、退院前カンファレンスに欠かせない職種が、病院側の医療ソーシャルワーカーと在宅側のケアマネジャーである。書面だけではなく、顔を突き合わせて話し合うことにより、お互いの連帯感も増し、何より患者とご家族が安心されいる。
在宅NSTに介護福祉職を加えて在宅療養サポートチーム(home care support team:以下、hSTと略)でサポートすることが重要
地域差はあるが、在宅の栄養管理は課題が多い。低栄養状態のアセスメントをすることもなく、とりあえず医薬品の栄養剤を処方して経過観察し、むせが見られるようになればとろみ剤、それでも食べられなくなると点滴、末梢血管がとりにくくなってくれば胃瘻を勧める。最近は、人工的水分・栄養補給法(Artificial hydration and nutrition:以下AHNと略)を拒否されるケースが増え、衰弱を見守るというケースも多くなっていると思われる。しかし、その食べられない患者の中で本当に嚥下機能障害がある割合はわずかであり、在宅NSTが早期に適切な介入を行えば食べられるようになる患者も多いと考えている。
食べられない原因はさまざまであり、認知症の周辺症状や、抑うつ傾向があって食欲がない。抗がん剤の影響で口内炎ができている。う歯の痛み、義歯が合っていない。消化器疾患により食欲がない。ポリファーマシー。これらすべてを在宅医がチェックすることは難しい。これらの患者に適切な介入を行うには、多岐にわたる原因をアセスメントして、それに基づいた在宅NSTのアプローチが必要となる。ただ、医療職だけでは、気付きにくい食べられない環境要因が隠れていることがある。例えば、お嫁さんの味付けがどうも嫌い。テーブルや椅子の高さの問題、食器の使い勝手。お粥やとろみ食が嫌い。水分を摂れと言われるが他人に下の世話をされることに抵抗がある。白内障などで視力が低下し食事が認識できない。このような視点の違った生活をサポートしてくれている介護福祉職の意見も参考になる。
つまり、在宅NSTに介護福祉職が加わり、hSTでアプローチすることが重要である。適切な医療と介護を提供することで、患者は最後まで食べることができ、医療職も介護福祉職から学び、介護福祉職も医療職から学ぶという相乗効果が生まれる。
とはいえ、在宅NSTには課題も多い。ケアプラン作成を担うケアマネジャーの多くは歯科衛生士による訪問口腔衛生指導や管理栄養士による訪問栄養指導を活用した経験がない。
歯科衛生士や管理栄養士の訪問指導は、介護保険では居宅療養管理指導として算定するが、これらのサービスは支給限度額の対象外であるため、ケアプランの調整等もあまり必要ないことさえも知らない。また、訪問栄養指導には、医師指示が必要であり、在宅医が管理栄養士を雇用し、在宅医が算定することとなるが、医療保険と介護保険の使い分けについて、介護保険からの算定方法を知らない在宅医も多い。さらに、管理栄養士や歯科衛生士の人材不足も大きな問題となっている。
在宅療養サポートチーム(hST)による地域包括ケア
筆者らは「まずは地元の大津京駅(滋賀県大津市)周辺から」と考え、2012年10月に「チーム大津京」というモデルチームを結成した。その2年後の2014年10月には、大津市の7つの地域包括支援センター(あんしん長寿相談所)ごとに7つのhSTを結成することができた(人口約5万人に1チーム)。事務局を地域包括支援センターが、リーダーをケアマネジャーが、サブリーダーを医師・歯科医師・薬剤師が担当することも決定した。多職種の連携だけでなく同職種の連携し、強固なhSTに発展させ、地域がひとつの大きな病院のように、いくつもの診療所(医科・歯科)、いくつもの薬局、いくつもの訪問看護ステーション、いくつもの居宅介護支援事業所、入院施設、療養施設が連携して、“道は廊下で自宅が病室”となり、自宅で安心して最期のときを過ごせる環境とすることができる地域になってきている。今後は、hSTに市民(住民)も巻き込み、地域包括ケアシステムの一端を担うことを望んでいる。
参考文献
- 西山順博 PEG地域連携パス 使用の手引き 大津市医師会誌31(11):pp18-24,2008.
- 西山順博 QOLを高める在宅栄養管理.特集:Quality of lifeを高める栄養管理.日本静脈経腸栄養学会雑誌29(3):825-831, 2014.
- 西山順博 最後まで食べるための在宅NST.特集:地域の「食」を支える取り組み.日本静脈経腸栄養学会雑誌30(5):1119-1124, 2015.
- 看護の現場ですぐに役立つ 胃ろうケアのキホン[相互コネクタ国際規格対応第2版] 秀和システム 2023.7.
- 大津市医師会ホームページ →→医療行政関係者→→大津市 PEG地域連携パス改定のご案内(2022.08.)